日本の小説家が海外で対談とQ&Aをやるイベントに何度か参加したのですが、現代日本の諸問題の代弁者とみなされるのか、現地の聴衆から日本社会、日本人についてのありとあらゆる質問が出てました(何でひきこもりになるんですか、家庭での父の役割は日本ではどう変化してきているのですか、あさま山荘事件とは何だったんですか、とか)。村上さんもそういう経験ありますか? とくに面白い質問、難しい質問はありましたか?
(HK、男性、40歳)
僕の場合はだいたい自作についての質疑応答が中心になるので、「日本論」みたいなものはほとんど出ません。僕もそういう一般論みたいなものはあまり好きではないので、熱心には答えません。小説のことならできる限り説明しますが。
25年くらい前に、アメリカ西海岸のある大学で講演をしたとき、講演のあと質疑応答があって、そのとき中年のアメリカ人男性がまず立ち上がって、「ミスタ・ムラカミ、あなたは天皇制についてどうお考えか?」と質問しました。僕は「そういう説明って、ややこしいんだよなあ」と思いながら適当に答えておいたんだけど、あとで聞くとそのおじさんは日本人の講演者が来ると、必ず最初に立ち上がって「あなたは天皇制についてどうお考えか?」と質問するんだそうです。前もって言ってくれればいいのにね。急にそんなことを訊かれると、けっこうあわててしまいます。
村上春樹拝