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絵の仕事をしていますが

村上さんこんにちは。
村上さんは、原稿を脱稿されてから編集者の方にお渡しする段階で、完全で完璧な100パーセントの作品だ、と感じておられますか? 
私は絵の仕事をしているのですが、時間いっぱい頑張っても、いつもどこか気に入らない部分を残しつつ入稿することになってしまいます。
気づいた部分はできる限り直しているのですが、新たに生えてくるカビのように、気に入らない部分が後から後から浮上してくるのです。
(紙、女性、28歳)

編集者に手渡す時点では「これ以上は今は直せない」としっかり確信しています。もちろん時間が少し経てば、あるいはまた編集者の意見を聞けば、手を入れたいところ、手を入れなくてはならないところはいろいろと出てきます。それは当然のことです。しかし「まだ直したいところがあるなあ」と思いつつ、原稿を編集者に手渡すようなことはありません。もうこれ以上直すところはないと思うまで、原稿は渡しません。だから僕は原則的に締め切りをつくらないようにしているのです。それは(僕にとってはということですが)ひとつの大事なモラルのようなものです。

村上春樹拝