村上さん、こんにちは。ちょっとグチのようになりますが、聞いて下さい。
私の旦那は工務店を立ち上げたばかりの大工です。ありがたいことに住宅の仕事をいただき、今一生懸命取り組んでいるところなのですが、そのお施主さんのことで困っています。
独立したてということも理解してくれて、綿密な打ち合わせも行い、工事中も毎日会って良好なコミュニケーションが図れていると思っていたのですが、夜中に突然電話してきて、完成を早めろと怒鳴ったり(人手不足だと当初から再三伝えていました)、出来上がってから気に入らないと言ったり(もちろん打合せ済)、はたまた一緒に飲んだ時に旦那が歌ったカラオケの曲(アニソン)を後になって、あれは何だ! と言う始末(人格が変わったかと思うくらいの豹変ぶり)。でも旦那は要望に応えようと本当にろくに睡眠もとらず頑張っているのです。いいものを作りたいからです。でもお施主さんの一挙手一投足に振り回されているようでかわいそうになってきます。
同じ目的に向かっているはずなのに、信頼関係が薄れてしまい、すれ違ってしまわないか心配です。どうか旦那にエールをお願いできないでしょうか。
(みりん、女性、37歳、大工の嫁)
なんだかたちの悪い作家の担当を押しつけられた若手編集者を見ているみたいで、すごくリアルです(笑)。どこの世界でも同じようなことはあるんですね。お気の毒です。でも最初にひどいことを体験しておくと、あとが楽になります。そう思ってがんばって良いお仕事をしていただきたいと思います。何かを立ち上げるというのは、何によらず厳しい体験です。僕も若いうちは実にいろんなひどい目にあってきました。歳月がたてば、それもまた良い思い出になります。
村上春樹拝