社説:抑留死亡者名簿 公開進め調査に本腰を
毎日新聞 2015年05月06日 02時30分
第二次世界大戦後、旧ソ連によって抑留され死亡した日本人延べ1万723人の新たな名簿を厚生労働省が公表した。これまで公表が後回しにされてきた朝鮮半島北部や中国東北部などで死亡した2130人の名簿も含まれる。一歩前進とはいえ、身元が特定されているのはまだごくわずかだ。
旧ソ連の指導者スターリンの指令で旧満州(現中国東北部)などから連行され、旧ソ連の収容所などで強制労働させられた「シベリア抑留」の被害者は、厚労省の推計で約57万5000人。うち約5万5000人が抑留中に死亡したとされる。これに加えて、連行後に病気などの理由で送り返され、朝鮮半島北部の収容所などで1万2000人以上が死亡した。新たに公表された名簿はその一部を含むとみられる。
厚労省は1991年以降、ロシア政府などから延べ5万人以上の抑留死亡者の名簿提供を受けてきた。これまで順次、日本語に翻訳し、国内の資料と照合したうえで公表してきたが、旧ソ連やモンゴルでの死亡者の作業を優先し、他の地域は遺族の問い合わせがあった場合に限って情報提供してきた。今回は「遺族の高齢化が進み、迅速性が求められる」と追加公表に踏み切ったというが、なお未翻訳の膨大な資料がある。
戦後70年たってなお、戦争犠牲者の全容解明が遅れているのは政府の怠慢だ。旧ソ連が長く情報提供を拒んできたことも一因だが、日本側に資料が渡り始めた後も、資料の翻訳や照合の体制はきわめて不十分だった。厚労省の担当者は当初に比べて増強されたとはいえ、今もわずか7人に過ぎない。資料の翻訳やデータベース化は外注しているが、予算に限りがあるという。しかし、これは国内の戦後処理として優先されるべき課題である。
ロシア側資料は聞き取りに基づく不正確な表記や重複が多く、氏名を特定するには他の情報との照合が不可欠だ。これまでも元抑留者の有志や研究者らの努力が身元特定に大きく貢献してきたが、死亡状況などの関連資料は「個人情報」にあたるとして遺族以外には公表されず、解明作業の大きなネックになってきた。歴史の全容を解明するためにも、情報公開を進め、研究者ら第三者の協力も仰ぐべきだろう。
ロシア側の問題もある。まださまざまな機関に保管されているとみられる関連資料は「機密指定」が解除されない限り、資料の存在さえ表に出てこない。日本側の積極的な働きかけが必要だ。
遺族も高齢化が進み、時間の猶予はない。政府は調査体制を見直し、本腰を入れて取り組むべきだ。