野上英文
2015年5月6日15時40分
大阪市をなくして五つの特別区を設けるいわゆる「大阪都構想」の財政効果は、どれくらいか――。賛成派は「2700億円」の財源が生まれるとアピールし、反対派は「1億円」にすぎないと反論。17日の住民投票に向け、まったく異なる数字が飛び交っている。
「改革できる役所に作り直し、二重行政をやめれば、ちゃんとお金は積み上がってくるという表がある。これは公式資料です」
大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長は2日、大阪市住之江区の街頭で右肩上がりの折れ線グラフを示し、こう訴えた。
住民投票で賛成多数になれば、大阪市は特別区に移り、新庁舎建設やシステム改修など最低600億円の初期コストがかかる。橋下氏は、コストを引いても2017年度から33年度までの17年間で2762億円の額が積み上がるとし、これをサービス拡充に使える「財源活用可能額」だと主張する。
グラフは大阪市内の全戸に配られた市の説明パンフレットに記され、橋下氏が出席した計39回の住民説明会でも毎回引用された。都構想の事務作業を担う大阪府市大都市局が、以下の手順でまとめたものだ。
大阪市は毎年度の予算編成の参考に10年先の財政収支を試算している。これをベースに市から府に移す仕事分を除く。都構想の実現でかかるコストを引いた都構想の効果額を加算。効果額は、府と市が別々に持つ病院や文化施設を統合して市の改革や職員削減を進めることで無駄が減る、市営地下鉄を民営化して税収が増える――といったものをひっくるめた。
移行後の5年間は、移行コストの赤字を埋めるため土地を売ったり地方債を発行したりする。その後、地方債分を返しても22年度には黒字に転換し、財源が積み上がるという計算だ。
ただ、パンフレットには「粗い試算」と記し、「相当の幅を持って見る必要がある」とただし書きも付けた。経済成長率は毎年2%前後のプラスが続き、収入の柱となる市税収入は毎年度100億円以上増え続けるという前提もあるが、その説明は省かれている。
大阪市が17年間分の長期推計をつくるのは今回が初めて。ただ、今年度の市税収入見込みは、企業収益の悪化で3年ぶりに減額した。市財政局幹部は「経済の情勢次第で、収支は数年先でも正確には予測できない」と明かす。
一方、自民党大阪府連など都構想反対派が掲げる「1億円」は、大都市局が13年に都構想を話し合う法定協議会で示した資料が根拠だ。施設の統合や市の改革、事業の民営化を「都構想がなくても実現できる」として効果額から除き、事務所や業務を共有することによる無駄減らしに限定。全て府市の連携により13年度中に実施済みになった。
この1億円は都構想のコストを考慮していない。初期コストが最低600億円かかることから、反対派は住民投票に向けた市選挙管理委員会の公報で「効果よりはるかに大きなムダ」と指摘する。
かけ離れた効果額の主張は交わらず、市民からは戸惑いの声が上がる。維新幹事長の松井一郎大阪府知事は3日、街頭で聴衆からこんな意見をぶつけられた。
「『これだけの財政効果がある』『いや、そんなにない』と言われても僕らから見たら分からない。話半分に聞いている」(野上英文)
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