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東京)増える赤ちゃん、どう育てる 出生数、役所の想定超す

東京

 都心部を中心に赤ちゃんが増えている。役所の想定を超えた出生数の増加は、保育園の待機児童の数を押し上げ、自治体に意識改革を促している。

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 「待機児童ゼロ」を掲げる杉並区はこの春、2~5歳の各年齢で初めて「待機児ゼロ」を達成した。0歳と1歳も「ゼロ」になる見込みだったが計42人の待機児童が出た。「赤ちゃんが想定以上に生まれたため」と田中良区長は説明する。

 4月1日現在の0歳児は4480人(外国人含む)。前年同期より327人多く、この10年間で最多だ。

 区が2014年度にまとめた子ども・子育て支援事業計画では、0歳児は15年で頭打ちとなり、以降は減ると見ていた。だがその15年、ピークと見込んだ数をはるかに上回る誕生に、保育課は「当分、未就学児は増え続ける」と話す。

 23区内では、保育園需要の根拠としてきた事業計画で、こうした見通しの修正が余儀なくされている。

 田中区長は「女性の社会参加が当たり前になり、働く女性も子どもを2人、3人欲しい、と願う時代になっている。首長が旧来の感覚で保育対策をしていると後手に回る」と話す。

 中央区では4月1日現在の0歳児が1799人(外国人除く)で、前年より202人増えた。

 「06年までは生まれる子が年間千人にも満たなかったのに、この2年間は毎月100人以上になる」と矢田美英区長は喜ぶ。

 人口減少に危機感を抱いた中央区が定住人口回復対策本部を設置し、人口10万人を目指し始めたのは1988年、矢田区長が1期目の時だ。それでも人口は減り続け、90年代には7万人台まで落ちた。

 その後の回復には様々な施策がプラスに働いたとみられる。中学生までの医療費無料化▽妊娠し母子手帳を区で受け取れば通院用に1万円のタクシー券配布▽生まれた子を住民登録すれば3万円のお買い物券プレゼント……。区の人口は約14万人に増えた。

 待機児童対策は土地探しとの戦いだ。認可園の整備にはオフィスビルの空きスペースを狙った。運営に株式会社など民間の力を借り、区が賃料を補助した。

 ■10年で予算倍増 世田谷

 待機児童数が全国最多(昨年4月時点)の世田谷区でも赤ちゃんが増えている。今年4月1日現在の0歳児は7834人(外国人除く)。前年より413人増えた。未就学児全体ではこの数年、ざっと毎年千人ずつ増えている。保坂展人区長は「明確に子ども増のトレンドを描きつつある」とブログで指摘する。

 区はこの1年間に認可園15園を開園し約1300人分定員を増やした。来年は新たに20園の開園を目指す。ネックとなるのは「声がうるさい」とわき起こる反対運動だ。

 保坂区長は3月、子ども・子育て応援都市宣言を出した。「子どもと子育てを地域全体で温かく見守り支える社会を目指そう」と呼びかける。

 区は約10年前から認可園を運営する民間事業者に対し、適格かどうか約300項目近い審査をしてきた。と同時に給食費や保育士の処遇改善で1園(100人定員)あたり毎年約1億円を区単独で追加補助してきた。「口も出すがカネも出す」というわけだ。

 保育にかける予算は人件費を除き、15年度は約240億円。児童館運営費や医療費補助など子ども関係予算全体では10年前より倍増したという。

 (斎藤智子)

 ■背景に人口の都心回帰・団塊ジュニアの出産が押し上げ

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 乳幼児の数は都心に近い自治体ほど増加率が高い。

 0~4歳児が2005年から15年までにどれくらい増えたのかを見ると、都心3区が突出している。最も増加率の高い中央区は、05年(1月1日現在)の3587人が15年には7473人と108%増。港区(100%増)、千代田区(85%増)と続く。都心から離れるほど増加率は低くなり、区部では練馬区と江戸川区で逆に減少。多摩地域では武蔵野市が29%増、日の出町が69%増だが、減少が目立つ。

 乳幼児の増加は人口ピラミッドでもわかる。全国的には団塊ジュニアと呼ばれる40歳前後をピークに年齢が下がるほど人口が減る。しかし23区(15年)は、9歳(6万384人)から反転し、0歳(7万4873人)の方が約1万4千人多い。

 ニッセイ基礎研究所の竹内一雅・不動産市場調査室長は、乳幼児増加の背景の第一に、人口の都心回帰を挙げる。「都心部はバブル経済崩壊後に地価が下がり、宅地として再開発された。特に湾岸部などで大規模開発が続いて子育て世代が多く流入している」

 また「人口の多い団塊ジュニア世代の女性が出産できる年齢の上限に達しつつあり、出産に踏み切る人が増えている」とも指摘する。40~44歳で子どもを産んだ都内の女性は、03年の2413人から13年には7288人と3倍に増えた。

 一方で、この傾向は長くは続かないという。竹内室長は「団塊ジュニアより下の世代は急激に人口が減る。出産可能年齢の人が減れば、東京でも子どもの増加は止まるのでは」と話す。

 (原田朱美)
(朝日新聞 2015年5月5日掲載)

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