社説:視点 民主と安保法制
毎日新聞 2015年05月06日 02時30分
◇野党第1党の重い責任
民主党が、新たな安全保障法制についての見解をまとめた。
安倍政権の国会軽視が目立つ中、民主党の役割は重大だ。安全保障政策をめぐる党内対立を恐れず、日本の安全にとって何が必要かを現実に即して深掘りするような議論をしてほしい。
民主党の見解は、最大の焦点の集団的自衛権について「専守防衛に徹する観点から、安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」と反対している。ただし「安倍政権が進める」と前提をつけることで将来的な行使容認に含みを残し、党内リベラル派と保守派の対立に配慮した。両勢力の折衷案だ。
国会審議で、民主党は憲法論や法律論を中心に政府を追及していくのだろう。それはもちろん重要だが、民主党がもう一度、政権復帰を考えるなら、具体的なケースを想定した現実的な議論を心がけてもらいたい。
政府・与党は、昨年の与党協議では15の具体的事例をあげて法制を検討していたが、自民、公明両党の意見が対立したため、途中から事例の検討を放棄し、閣議決定になだれ込んだ。
このため集団的自衛権の行使容認の例としてあげられた中東・ホルムズ海峡の機雷掃海は、武力行使の新3要件があてはまればできるし、あてはまらなければできないという、あいまいな決着をした。結局、国民は集団的自衛権によって何ができるようになるのか、いまだにイメージを持てないでいる。極めて不誠実なやり方だ。
大風呂敷を広げて、あらゆる事態に対応できるようにする今回の安保法制整備に疑問を感じている人は多いと思う。ある外務省OBは、切れ目なく法整備をするよりも、日米安保体制を強化するために足りない法制を一つずつ検討して埋めていくアプローチをとったほうが、国民の理解を得やすかったのではなかったか、と語っていた。
日本から遠く離れた中東で集団的自衛権を行使して停戦前の機雷掃海をすることに否定的でも、朝鮮半島有事では必要だと考えている人たちもいる。民主党はどう考えるのだろうか。
今回の民主党の見解は、安倍政権の安保関連法案に反対する一方で、現実路線の安全保障政策をとるという姿勢も強調している。見解を貫く姿勢は「遠くは抑制的に、近くはより現実的に」(北沢俊美・民主党安全保障総合調査会長)という。
ならば、日本の安全にとって何が本当に必要な安全保障政策で、何がそれを越えるものか、国民によくわかるような議論を堂々と展開してほしい。それが野党第1党の責任である。(論説委員 佐藤千矢子)