揺れるネット削除基準:忘れられる権利か、表現の自由か
毎日新聞 2015年04月19日 11時15分(最終更新 04月19日 11時21分)
少年法61条では、20歳未満の容疑者が関与した事件について、氏名などの掲載を禁じる(罰則規定はない)。マスコミ各社は原則、少年法の精神や同規定に基づき、容疑者が特定されるような情報は掲載していない。だが、川崎のような重大事件は世間の関心を集め、実名の非公開が逆に興味を引くジレンマがある。近年、ネット掲示板やSNSにおける「犯人探し」は常態化している。
ネットにより誰もが不特定多数に情報を発信できる今、1次情報の流通を制御することは難しい。真偽不明のまま、少年法などのフィルターが利かない「生の情報」が流通している現実がある。これらの情報は、プログラムで自動的に情報を抽出する検索サイトの検索結果には無差別に表示され、閲覧者の多い「まとめサイト」などのネットメディアが取り上げさらに拡散−−という循環を生む。
ヤフーの新基準では確かに、少年の情報を「プライバシー保護の要請が高い」ものと規定したが、川崎事件に関しては3月31日の適用後も、表示される検索結果はさほど変わらない。このため、新基準が被害者の迅速な救済に実効性があるのかは、まだ不透明だ。
4月18日時点で、あるサイトは「犯人グループ」として10人近くの少年の名前を掲載したまま。また、犯人グループを推測する一部の「まとめサイト」やブログも検索で簡単に見つけられ、容疑者の家族の名前や顔写真などとする情報が放置されている。事件とは無関係の少年の実名を掲載するサイトも手付かずのままだ。
◇忘れられる権利
他人に知られたくない過去の個人情報について、プライバシー権などに基づき、インターネットのサイトや検索結果などからの削除や非表示にすることを求める権利。EU司法裁判所が2014年5月、「EUデータ保護指令」に基づき、米グーグルに対し、スペイン人男性の過去の債務情報が掲載された新聞社サイトへのリンクを削除するよう求めたのが、初めて司法が認めた例とされる。日本の裁判所は、名誉毀損(きそん)など従来の判例の枠組みで判断しており、明確に「忘れられる権利」を認めた判決はない。