揺れるネット削除基準:忘れられる権利か、表現の自由か
毎日新聞 2015年04月19日 11時15分(最終更新 04月19日 11時21分)
プライバシーに関する権利は、20世紀初頭の米国で、新聞のゴシップ記事を念頭に認められた経緯がある。新基準策定のためヤフーが設置した有識者会議の委員も務めた宍戸常寿・東大大学院教授は「情報通信技術が発展した現在、プライバシーと表現の自由のバランスを社会全体で考え直す必要がある。検索エンジンは、問題の最先端で重荷を担わされている面もあるが、ヤフーが自らの役割と責任を意識して一つの区分けを世の中に問うたのは重要な一歩だ」と話す。リベンジポルノ法など政府による法整備や、「忘れられる権利」判決など司法によるプライバシー権の拡張、ネット事業者の自主規制はどれも今日的状況への対応策といえる。
ただし、情報を削除することの是非は「表現の自由」「知る権利」とのバランスで判断する必要がある。削除が要求される情報の中には微妙なケースも少なくないからだ。「忘れられる権利」判決では、当初は新聞社サイトに適法に掲載された一般人の債務に関する情報について、グーグルが検索結果の削除を命じられた。記事掲載から十数年が経過、債務も完済されて状況が変わったことなどが削除の根拠とされた。
検索サービスは報道行為ではないが、「知る権利」に重要な役割を果たしている。「忘れられる権利」判決後、欧州では英ガーディアンやBBCの記事が検索で表示されない事態も生じ、欧州メディアからも批判が出ている。
ヤフーは「『知る権利』『表現の自由』に資する検索サービスの社会的意義を強く認識した上で、プライバシー保護とのバランスを図れるよう、個別の事案に応じて慎重に対応を進める」とする。今後は、適切な対応がなされているか、事業者の具体的な運営を注視していく必要がある。
◇少年事件、情報掲載放置も
今年2月、川崎市の多摩川河川敷で中学1年生の上村(うえむら)遼太さん(13)が刺殺体で見つかった殺人事件。リーダー格とされる少年(18)をはじめ計3人の少年が逮捕されたが、ネット上には事件の発生直後から、「犯人グループの情報」と称する真偽不明の投稿や顔写真が多数、出回った。中には、動画配信サービスを使い「容疑者の自宅前から」と称して「生中継」する者も現れ、サービス事業者が慌てて残された動画を削除する事態も生じた。