「団塊の世代」が生まれてすぐの65年前には3人に1人だった。30年前には5人に1人、そして今では8人に1人――。日本の総人口に占める14歳以下の子どもの割合だ。世代が2つ変わる間に、ここまで大きく低下した。
子どもを持つかどうかは、もちろん個人の選択だ。しかし子どもを持ちたいと望んでも、それを阻む様々な壁がある。社会全体で子育てを支え、子どもが健やかに成長する環境を整えたい。子育てに希望が持てる社会にするために、行政にも私たち一人ひとりにも、もっとできることはあるはずだ。
妊娠中からきめ細かく
子育ての状況は大きく変わった。専業主婦家庭が減り、仕事と子育ての両立を目指す共働き家庭や、離婚によるひとり親家庭が増えた。地域のつながりが薄れ、子育てをする人の孤立感が高まった。時代に合わせて、支援のあり方も変わらなければならない。
まず大切なのは、保育サービスの拡充だ。安心して子どもを預けられる場所を増やすことは、仕事か子育てかの二者択一をなくし、成長戦略が掲げる「女性の活躍」を後押しするうえでも欠かせない。政府は2017年度末までに、待機児童をなくすという。民間の力を生かし、機動的にサービスを増やしてほしい。
4月からは、消費税財源を使った新しい子育て支援制度も始まった。待機児童の解消はもちろんだが、親子が集い、交流する場を増やすなど、地域の実情に合わせてきめ細かく支援することに役立てたい。
問題は、こうした支援が本当に必要な人に届いているかどうかだ。子育ての悩みを抱えた人ほど、周囲から孤立し、支援を受けられないことがある。
埼玉県和光市は14年秋、妊娠中から相談に乗る取り組みを始めた。妊娠・出産に不安はないか、身近に支えてくれる人はいるか。経済的な問題はないか。母子手帳を受け取りに来た人から話を聞き、必要に応じて医療や福祉などのサービスの利用につなげる。
支援の網から漏れる人をなくし、悩みを早く解決する。行政の縦割りを廃し、子育て家庭の幅広い課題に一元的に対応する。こうした工夫はもっと広がっていい。
若い世代では、収入が少なく生活が安定しないために、結婚や出産に前向きになれない人もいる。就業支援により、経済基盤を安定させることも大切だ。職業訓練を通じた非正規社員の処遇改善や、正社員への転換を後押ししたい。
最近では、親の経済基盤の弱さが、子どもの学力格差につながるとの懸念が強まっている。学びは子どもが自立する力をつけるための大きな武器だ。よりきめ細かい教育支援をどう充実させていくかが大きな課題だ。
子育てや子どもを支える施策には、一定の費用がかかる。20年までの少子化対策をまとめた大綱は、財源を確保して予算を増やすとしたが、具体的な手立ては盛り込まなかった。
子どもの貧困対策として、政府は夏までにひとり親家庭や子どもが多い家庭への支援策をまとめる予定だ。この財源もどう手当てするのか。どんな施策を優先させるのかを含め、議論を深めなければならない。
一人ひとりが担い手に
忘れてはならないのは、子育てや子どもへの支援は、行政だけが担えばいいというものではないことだ。誰もが子育てに関心を持ち、自分に何ができるかを考える時期に来ている。
子育て支援のNPOや住民同士の助け合い活動として、小さな子どもを預かったり、小学生の放課後の世話をしたりする例は増えている。子育てが一段落した人や退職した人など、活動に参加する人は様々だ。住民向けに研修会を開き、支援者を育成しようという自治体は多い。
中学生向けの無料学習会などを開いているNPO法人キッズドア(東京・中央)には、大学生がボランティアとして参加している。大学生と身近に接することで、子どもたちは進学を具体的にイメージできるようになり、勉強の意欲も高まるという。
多くの大人が活動にかかわることで、子育て家庭の負担は軽くなる。参加する人にとっても生きがいになる。かつて支援を受けた人が、やがて支援をする側に回るという好循環も期待できる。
少子化がこのまま進めば、日本経済は活力を失い、社会保障制度の土台も揺るぎかねない。行政も私たち一人ひとりも、前に踏み出すときだ。