世界経済をけん引するアジアがさらに成長するには、産業や生活の基盤を整え、物流を円滑にするインフラの整備が不可欠だ。そのためには民間資金を呼び込むことが最大の課題だ。
アジア開発銀行(ADB)は、日本のメガバンク3行を含む大手民間銀行とインフラ開発の分野で提携に踏み出す。
ADBと民間銀行が、アジア各国が進める官民パートナーシップ(PPP)事業に共同で助言したり、協調融資を増やしたりする。
アジアで8兆ドルの需要
ADBによれば、アジア域内のインフラ投資需要は2010~20年の11年間で8兆ドルを超す。電力、情報通信、空港、港湾、鉄道、道路、水・衛生関係で、年間7500億ドル程度の資金がいる。
ADBは自己資本を増強し、年間の融資枠を17年から現在の1.5倍にあたる200億ドルに拡大する。それでもADBや世界銀行の融資能力だけではアジアのインフラ需要を満たせない。
民間銀行と協調すれば、比較的信用力の高いADBの資金を呼び水に、その何倍ものお金を集めやすくなる。ADBと民間銀行の協力でインフラ整備を効率よく進めようというADBの取り組みは評価できる。
中国主導で設立準備が進んでいるアジアインフラ投資銀行(AIIB)も将来、同じような努力が求められるのではないか。
世界の大きなお金の流れをみると、いまや年1兆ドル近くの資金が新興国・途上国に入っている。このうち、各国による政府開発援助(ODA)が占める割合は2割にも満たない。
大半を占めるのは、直接投資や、株式や債券などの証券投資、さらには外国で暮らす人による母国向けの送金といった民間資金だ。こうした外部や域内の民間資金を効率よく使うことが、アジアのインフラ整備の最短の道である。
カギを握るのは、PPPやPFI(民間資金を活用した社会資本整備)といったしくみだ。民間事業者が国や地方自治体といった公的部門と契約してインフラ事業を組成し、運営する。
インフラ事業は20~50年と長期間にわたる場合が多い。民間の事業者や金融機関が安心して長期の資金を出せるようにするには、民間の権利を保護するための法制度が必要だ。
韓国やフィリピンなどPPP制度が整っている国もあるが、ミャンマーのように制度がない国もある。ADBや日本政府は制度設計や、制度に通じた人材の育成を支援すべきだ。
インドではインフラを建設する予定の土地の収用が難しく、事業が進みにくい一因となっている。アジア各国も投資環境を改善する努力をもっとしてほしい。
域内の金融機能の強化も不可欠だ。各国がインフラ専門の公的金融機関を設立したり、債券市場を育成したりすることが重要だ。この分野でもADBや先進国の政府、金融機関が助言できることはあるはずだ。
AIIBの真の課題も、民間の銀行や事業者と協力することだ。事業融資の経験が豊富な民間銀行が「AIIBと協調融資をしたい」と思える金融機関になれるか否かが問われる、ともいえる。
国際金融機関は協調を
そのためには、事業のリスクと収益性を厳しく審査する規律がいる。公正・透明な意思決定ができる統治(ガバナンス)、社会・環境面の配慮も大事だ。こうした国際標準を備えた金融機関にならないと、潜在力は限られる。
AIIBのいまの計画では、資本金はADBや世銀を下回り、融資能力も見劣りする。当面、AIIBがADBや世銀にとって代わる力はないだろう。
中南米向けの地域開発銀行としては、アンデス開発公社と、米国主導の米州開発銀行(IDB)が共存している。アジアでもADBとAIIBが協調融資などで協力していく道も探ってほしい。
民間資金を使ったインフラ整備は先進国の課題でもある。巨額の借金を抱える日本では、空港や有料道路の運営権を民間に売却する「コンセッション」やPFIをもっと活用していくべきだ。
欧州では、民間資金も巻き込んで総額3000億ユーロ超の投資をする計画が進行中だ。米国では老朽インフラの更新が急務だ。
世界的な金融緩和も背景に、大量のお金は民間にある。それを賢く使えば、地域や各国のインフラ整備はもちろん、持続可能な経済成長への道を開くという意義がある点を忘れてはならない。