社説:復興と地元負担 被災地の動揺を招くな

毎日新聞 2015年05月05日 02時30分

 東日本大震災の発生から5年となる来年春以降の復興予算の枠組みをめぐる動きが急だ。政府は復興事業の全額を国が負担する従来の方式を転換し、一部の事業で地元自治体の負担を求める方向だ。

 国の財政が厳しい事情は理解できるが、被災自治体に不安や動揺を広げ、復興に支障を来してはならない。事業の長期化を見据えた安定した枠組み構築を求めたい。

 復興財源をめぐり政府は震災発生から5年間の2011〜15年度を集中復興期間として総額26兆3000億円の予算を特別会計に計上し、事業費は全額国負担としてきた。岩手、宮城、福島、青森4県は来年春以降も総額8兆円超が必要になると試算し、集中期間の延長を求めている。

 これに対し政府は「基幹的な事業」を引き続き国の全額負担とする一方で、それ以外で地元負担の導入を検討している。連休明けにも基本方針を示し、6月末に新たな予算の枠組みを決める段取りとみられる。

 政府には全額国負担方式を、事業の乱発を招く「モラルハザード(倫理観の欠如)の原因」(竹下亘復興相)とみる傾向があるようだ。復興事業は予算規模が大きいだけに、たとえ1%の地元負担であっても市町村などに与える影響は大きい。新規事業の抑制や、事業の見直しにつながるとの財政当局の思惑があるのかもしれない。

 震災5年経過以降の地元負担をすべて否定するわけではない。だが、被災自治体を不安に陥れ、復興全体の青写真に影響してしまっては元も子もない。沿岸部では施設整備に加え、さまざまな事業が一体となっているケースも多い。「基幹的な事業」の範囲をしゃくし定規に絞り込むべきではあるまい。

 内陸の道路整備や全国で他の自治体も実施している補助事業は確かに地元負担の検討対象となるだろう。その際も沿岸部復興などとの関連は十分に配慮すべきだ。

 集中期間を5年期限としたことが逆に被災地を駆け込み的な事業に走らせた、との指摘もある。アベノミクスに伴う事業費高騰や人手不足も重なり、復興事業は全般に遅れている。復興予算の相当額が被災地以外に流用され、しかも9兆円近くがなお使われていない。長期的に復興を支える国の決意が問われよう。

 一方で自治体側も、住民の間で意見が分かれる巨大防潮堤の整備など、事業の再点検を自主的に進める必要がある。これまで復興予算で計上されながら、活用が進んでいない基金の新規財源への充当なども検討すべきではないか。国と地元が十分に協議して、住民の生活再建に資する枠組みで歩みよってほしい。

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