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(cache) ジェリアスカ.com » Blog Archive » マジカル・プラネット: 菊田裕樹 & 下村陽子
ジェリアスカ.com

マジカル・プラネット: 菊田裕樹 & 下村陽子

August 19th, 2009 Posted in ゲーム

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GameSetWatch インタビュー

ゲーム音楽業界ではもはやこの二人の名前を知らない人はいないと言っても過言ではないかもしれない。作曲家の菊田裕樹と下村陽子はスクウェアエニッ クス時代から人気タイトル「聖剣伝説」シリーズの音楽に携わってきた。菊田氏の担当したあの「聖剣伝説」オリジナルサウンドトラックは今でもなお多くの ファンを抱え、スーパーファミコンの時代の楽しかった記憶を呼び起こしてくれる。

昨年は菊田氏のConcerto: The Extraordinary World of Concerto Gate(英語圏ではゲームConcerto Gateのベータ版のテストが遂行中)が独自のレーベルNorstriliaより長年のファンの期待に沿い待望のリリースとなった。アーティストとしての 独立を果たした菊田氏は音楽制作を始めとして、アルバムのカバーデザイン、そして作品全体のスーパーバイザーを担当したりと多忙な様子がうかがえる。

聖剣伝説シリーズでは初のボーカルトラックを使用した下村陽子氏。この曲はHEROES of MANAの曲“To the Heroes of Old”のオーケストラアレンジと共にdrammatica -The Very Best of Yoko Shimomuraにも収録されている。

今回のインタビューではお二人に、当時影響を受けたゲームのお話からスクウェア時代の仕事場での話など普段はお目にかかれない作曲家二人のざっくばらんなお話をお楽しみいただきたい。

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菊田さん。以前に初代「聖剣伝説」のオープニングの音楽の制作について少しお伺いしました。この曲を作ろうと思ったアイディアの発端は何でしたか?またこのオープニング音楽の背景や聴き所についてお話しください。

菊田:  映像と音のシンクロっていうのは当時あんまりみんなの頭の中になくて、僕はもともとアニメーションの畑にいたので、映像と音をシンクロさせる事で得ら れる効果とかも分かっていたのでそういうのをやりたかったんだけど、あんまり分かってもらえなかったんだよね。そういう例がゲームの世界にはまだなかった から。まぁそういうこともあってそれをやろうと思ったのが一番大きいかな。

あれを作る時はオープニングの絵がまず上がって来たので、それであの絵はデータを展開しながら表示されるので一気には出せないんだよね。プログラム のスペックでもあのスピードで表示するのが限界だったから、スタッフから「絵が出てくるのにすごく時間がかかります」って言われて、これも考慮してちゃん と演出しなきゃいけないよね、というのが始めにありました。だから一見難しいような事でもそれを逆に演出に利用するのが面白いんじゃないかということがあ りました。絵は一枚出るだけだけど、曲をしっかり合わせられたら盛り上がるんじゃないかという実験みたいなところがあったね。

始めに上がって来た絵のタイ ミングを全部ストップウォッチで測って、それに合わせて曲を書いて最後に曲に少し併せてプログラムを修正してもらうという形で仕上げていきましたね。

下村: 当時スーファミではそういう絵にきっちり合わせてというのはあまりなかったですよね。

菊田:  あの当時はゲーム一本にかける時間も長かったし、試行錯誤して、試して壊してを繰り返しする余裕があったからあれが出来たというのはあるよね。

下村:  菊田さんがそういう事をしてくれたから、ゲームでも音楽に合わせてイベントが企画されたりというのが活発になったようなきがします。

菊田:  最初は小さい事でも一個一個やっていって、そのうちみんながそれを分かってくるというのがあると思うから、そういう意味で 少しずついい環境に なって来てるのかなとは思います。最初は、まず「言葉だと伝わらない」というのがあるし、やっぱり想像にも限界があるから実際に見せないとね。「こういう 事なんです」っていうと「おおっ」っていう具合に分かってもらえるんだけど。

そういう事が多かったかなぁゲームの仕事は。あの始めのクジラの声にしても、なんでそんなものを入れるんだって言われるけど、ちゃんと意味があるんですっていうことですよね。

下村:  あのクジラの声は開発中に菊田さんが見せてくれたの覚えてて、これは何ですか!?って聞いたら、菊田さんすごく得意気に「これはねぇ〜〜、、。何だと思う??」みたいな感じで。「これはねぇ、、すごい大変だったんだぞ」って。(笑)

菊田:  そうそう。(笑)

下村:  それの意味が今、分かりました。容量が大変だったんですね。(笑)

菊田:  容量大変だったんだよ〜。ほんとにこんなもの入れるのかと、。

下村:  でも衝撃でしたよ。ゲームのタイトル画面って普通は何も鳴らないか、ピコーンみたいな音が出るだけなのに、始めに聴いたらもうそこで物語が始まってるような感じがして。

菊田:  そう。そういうことが実際やりたかったんだよね。それも電子音とかじゃなくて、もっと色んなものを暗示するような音で。こ れは後になって分かる 事だけど、このゲームは神獣とか他の獣とかがテーマになってくるじゃない?だからそこに深く関わるような音を置いておきたかったんだよね。意味は分からな くても、イメージが伝わればいいなぁと思って。きっとそれは忘れないだろうと思ったんだよね。

下村:  そうですね。それが具体的に何だってこっちが言わなくても、こっちが思ってることとか意図してる事が伝わってる事ってあるじゃないですか。

菊田:  そうそう、あるある。

下村:  だから、それが何であるかもはっきりしてなくてもいいんですよね。何かをやってそれが伝わってるという事が大事なんですよね。

菊田: そういうのって始めは自分たちにしか分からないけど、周りの人間は例えば十年経って改めて、あぁあれは良かったんだっていうことが分かったりするんだよね。あれは、すごかったですって言ってくれる人が必ず出てくるからね。

下村:  あれは私にとってもすごく印象的でした。

菊田:  ゲームっていうものにはどこかに理屈を超えたものが必要だと思うんだよね。計算づくじゃなくてよくわからない力がどこかに必要だと思うんだ。何か過剰なもので。今のゲームにもし足りないものがあるとすればその過剰なものだと思うね。

下村:  ゲームに限らず今は過剰なものが少なくなってますよね。もっと大げさなことやりたいとも思ったりしますし。

菊田:  分かる分かる。下村は大阪出身だし、そのパワーの大事さってわかるじゃない?何だか分からないけど、食い倒れなのよ。みたいな。グリコなんです!みたいな。

下村:  そうそう!最近って割と軽くておしゃれで小粋なものって言う風になってきちゃってるのかなぁって思います。なんかシナリオはよくわからないけど、雰囲気がいいからいいでしょ、みたいになっちゃうとちょっと悲しいかなって思いますね。

菊田:  変な言い方をすると、頭が良すぎるんだと思うんだよね。もっとバカでいないと、みたいな。理屈が通ってるよりも、何だか分 からないけどこうなっ ちゃいましたみたいなものの方がいいんじゃない?そういうものが、10年15年経っても残るんじゃないかなとは思うけど。スーパーファミコンの時代は特に そういうゲームがいっぱいあったんだと思うよ。

下村:  あの頃は、チームも小規模でみんな熱かったですよね。

菊田:  そうそう。そういう熱がユーザーにも伝わると思うんだよね。小学生の頃なんかはそういうのを素直に感じ取るし、感じたものも覚えていてくれるし、という意味ではいい仕事が出来たのかなぁとは思う。

下村:  小学生の頃にゲームで遊んで大人になってやっぱり思い出すというメールとかもらうとうれしいですよね。

菊田さん、オリジナルアルバムのAlphabet Planetは聖剣シリーズの音楽にもどこか通ずる部分があるように思います。このアルバムのプロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか。

菊田:  発注先が僕のファンで、子供の頃にゲームで遊んですごく好きだったと正面切って言って来たから、じゃ聖剣みたいな感じにした方がいいんじゃない?という事になったんだよね。

あ の時に作っていたものだけども、アルファベット・プラネットっていうのは、僕のファンでオンラインゲームに関わっている人が発注してきた仕事で、ファン に「こんなのがいいです」って言われて作った仕事なので、わりと聖剣っぽい音になってるし、できたものを聞いて「ああ、これって聖剣っぽくてすごく好き だ」って言う人は多いね。

アルファベット・プラネットを作る時にテーマ的に考えていたのは、僕らが毎日生活していると色んなことに出会ったり、色んな気持ちになるけど、そん な時に何か聴ける音楽でありたいと思ったのね。それはどういうことかというと、色んな状況があるから、曲にも色んな種類がなくちゃいけないんじゃない? 僕がイメージしたのは、Forrest Gumpがチョコレートの箱を1個1個開けて何が出るか分からないと言う、あんな感じで、チョコレートの色んな種類が入っていて、それを毎日1個1個食べ ていくような、そんな風に楽しめるような音楽がいっぱい詰まったCDを作りたいと思った。人生には「A」なこともあれば、「Z」なこともあるし、色んなこ とがあるけど、その時その時に、例えば少し元気になれたり、ちょっと喜びが増えるような、そんな音楽を僕は作れたらいいなと思う。

GSW: 各トラック名はどのように決まりましたか?

菊田:  チョコレートの箱が全部がばらばらになって入っているように、AからZの名前がぐちゃぐちゃになっていた方がチョコレート の箱らしいと思ったのね。それと 同時に、1個1個の名前を並べていっても、それぞれが本当にバラバラな風に見え、全然関連がないようなものにしたかった。それもやっぱり全然関連のないこ とが色々起きていって、色んな驚きがあるっていうのが人生だからだと僕は思う。人生って色んなことが起こるって言ったじゃない? それをなぞらえて、人生っていうのは色んなことがどんどこ起こって、その時にはどういう意味を持っているか分からなくて驚き驚きだけども、後で考えてみる と、わりとそれは理屈が成り立っていたり、ああこれだからこうだったんだなと分かることが多いんだよ。

Alphabet Planetの中の曲で「Queen Charlotte」というのがありますが、聖剣伝説3ではCharlotteというキャラクターが登場します。この音楽とキャラクターCharlotteをのことを表しているということでしょうか。

Kikuta: そうですね。 聖剣の世界にもまだ先はあるだろうし、キャラクターに未来もあるだろうし、どこかでまたそれが出て来ても面白いと思うんだよね。 一つもったいないと思 うのが、スクウェアのゲームってキャラクターがその都度新しいのが出て来て昔のキャラクターはそれでおしまいになるみたいな事が多いから、その先にもう ちょっと何か続きが見えるといいなと思うんだよね。そう思ってる人も少なくないと思うな。別にシリアスじゃなくてもファンタジーのストーリーでもいいし。

下村:  そうですね。小説とかにすると確固たるイメージが出来てしまって、音楽だとそれに比べて抽象的だから例えば彼女の未来はこ ういう風になったとい うのを音楽で表現した場合、受け取り方は自由になるわけで、そういう意味で面白いと思いました。音楽は便利ですよねそういう意味で。言葉とか絵にしちゃう と、、

菊田:  かっちり決まっちゃうからね。そうだから、さっき言ったような想いが僕にはちょろっとあるかなぁ。

下村:  Amazonで買います。

菊田:  いやぁ、でもね昔通りだから。(笑)

下村:  昔通りって言うのはむしろすごいですよ。それだけ、昔から持ってるスタイルとか音楽観からまったくブレて無いってことじゃないですか。

菊田:  いや、ホント全く変わってないと思うよ。

下村:  すごいですね。私は結構変わっちゃいますよ。熱い!っていうのは変わらないですけど。

今は自分が作ったものがそのまま製品になることが多いじゃないですか。だからその分色んな人に細かな注文が色々出てきます よね。ここはあと0.2デシ ベル落としてください、みたいな。内心では「0.2デシベルなんて誰が聴いてもわからないじゃん」って思ってるんですけど、そこは自分の気持ちの問題です みません、みたいな。

スーパーファミコンの時代にもともと菊田さんがどういう作業で作曲してたとかも知らなかったんですけど、。よくここまでスーファミらしい音が出せるなぁと思ってて。それで後で知ったのは実はスーファミの音をサンプリングして曲作りしてたんですよね。

菊田:  そうなんだよね。

下村:  なるほどな、って思いました。私はいつもMIDIで作って、スーファミの音を想像しながら作るわけですよ。だからいざスー ファミで鳴らしたときに、 「あれ?」みたいな、想像と違う事も出て来たりするわけなんです。菊田さんの曲は当時からスーファミというハードをちゃんと理解した上で、スーファミのた めに作られている音楽だと思って。初めて聴いた時もすごくびっくりして、これどうやって作ってるんですか?!って菊田さんに聞いた事があります。それで菊 田さんが教えてくれてどうやらスーファミの音を使って作ってる、という事なのでビックリしました。この人はただ者じゃない、、というか、、普通じゃない! おかしい!みたいな。周りのみんなに菊田さんっておかしいですよね、って聞いたらみんな「あぁ、菊ちゃんおかしいよ」って。(笑)

菊田:  そうそう、みんな言っただろうね。でも、細部に神は宿るんですよ。その一瞬のこだわりが全体を作るんだと思うね。

下村:  神は宿りますか。

菊田:  宿ります。細かいところに神様がいる、僕はそう思う。

下村:  このトラックボールの中にも神はいるんだ!みたいな。(笑)

菊田:  そうそう。いるんだよ、小さいのがグルグル回ってるんだよ。「まわすなぁぁぁ!!」みたいな。

下村:  「うわ〜〜〜」って言って。ってこんな話でいいんですか?。(笑)

下村さんは他のジャンルの曲を担当したいという事で当時スクウェアに移ったとお伺いしてます。

下村:  ロープレで人気があるっていうとファンタジーなロールプレイングを想像していたので一度はやってみたいなとは思っていました。 幻想的で架空な中世なイメージのクラシカルな音楽を書きたいと思って書いたんですよね。

プレステ以前には音楽にボーカルを取り入れるという事をやってみたいと思いましたか?

下村:  プレイステーション以降は良かったんですが、その前までは容量の制限が大きかったのでやる機会が なかったんですよね。それで、パラサイトイブの時に、出来るんだったら歌にしちゃおうよっていう話をしたらそれが通ったので、次のレジェンドオブマナの時 もパラサイトイブで好評だったので歌を入れたいと要望を出して決まりましたね。

パラサイトイブもレジェンドオブマナもそんなに有名じゃない人がいいと言って探したんですが、イメージを伝えてそれから何人か候補を探して来てもらってその中に一人だけ、これだという人がいたので、誰も見つからないということにならなくて良かったです。

レジェンドオブマナはアニカさんっていうスウェーデン出身の歌手です。私がこういう感じの歌手がいいって伝えて、探してもらったんですね。それ でいくつか候補の歌手を聴いて一発で彼女の声が気に入ったので、すぐ決まりました。それでスウェーデンまで録りにいくぞ!って。(笑) 当時アナログのテープ を持っていったんですよ。大変でした。

菊田:  昔は大変だったよね。今ならハードディスクを持っていけば済んじゃうもんね。

下村さんがあの「スト2」の曲を担当したというのは意外と知られていないかもしれません。アーケードのオリジナルでは実際にいくつ曲を書きましたか?

下村:  3曲を除いて全部ですね、ステージではサガットの面は他の方が作っていて、あと2曲他の人が作った曲があるんですけど、それ以外は私が作りました。

菊田:  写真が入ってなかったっけ?

下村:  写真は無かったと思います。えー。あ、でもなんかあったような気がする!

菊田:  なんか一個見覚えあるんだけど、あったと思うんだよ。

下村:  あ!あったかもしれない!確かワンコインでクリアするとかなんかで、それかノーミスクリアかなんかすると写真からドット絵を起こしたものですよ確か。

菊田:  みんなの写真がなんか出たの覚えてるんだよね。

下村:  そうだったかも!あー、すっかり忘れてた!すごい!そういえば。

菊田:  確か雑誌かなんかで見たんだよね。それで、見たときに「あ、下村だ!(笑)」って思ったの覚えてるよ。

下村:  なんかPちゃんって言う名前で。(笑)


Alph Lyla,のメンバー時代はライブ演奏に参加しましたか?

下村: はいAlpha Lylaで二回ぐらいライブに出た事があります。

菊田:  やってたんだ。

下村:  あーそれこそ恥ずかしい話ですね。20代前半の頃でした。ピアノパートで参加しました。チュンリーの曲では鈴も振ってました。(笑)

下村: それもありましたし、他のゲームの曲もやりましたね。当時の人気タイトルを中心に演奏しました。

下村:  色々メンバーが変わったのでちょっと正確なところは覚えてないですね。  恥ずかしかったですね。私演奏下手だし。(笑)

菊田:  表に出たいタイプではなかったのかな。

下村:  本来はすごく目立ちたがりなんですけど、それでいて小心者なので最悪ですね。(笑)

菊田:  いやいや。(笑)

下村:  目立ちたいんだけど、自信が無いみたいな。失敗するのが怖いんでしょうね。曲は作ってる最中はいくらでも作り直せるじゃ ないですか、演奏はその瞬間 のものでしかないから失敗は許されないんですよね。多少のミスはいいけど、内心「とんでもないミスしたらどうしよう」って思っちゃうんですよね。

入社してすぐぐらいでしたよね。ブースがとなりだったので。

菊田:  ちょうど、会社も忙しくなってて人が足りないよってなってたときだったよね。

下村:   そうですね。そういう意味で非常にありがたいですね。で、面接でも、なんでアクションばっかり作ってたのに急にスクウェアに行 きたいんだい?っ て聞かれて、「だから、前からロープレ作りたかったんだってば!」みたいな。面接官から、でもブレスオブファイヤとかあるじゃんと言われて、当時はもう アーケードの人間になっていたのでコンシューマー部門に移れなかったのですと正直に話をしました。そんな感じです。

初めてゲーム音楽業界にお仕事が決まったときにご両親が悲しまれたとか。

下村:  悲しみました。高い学費を払って音大にも行かせたのに何そのわけの分からない仕事は、と。まぁ泣いたというのは大げさですけど。 私もこの仕事が決まる前に楽器屋さんのピアノ教室の先生に仕事が決まってて、それは非常に両親も喜んでくれてたんですけど、それから「ごめん、やっぱりゲーム会社に行きます。」と言ってカプコンで働くことになったんですけど。

Kikuta: 音楽学校を卒業したらみんなどういう仕事に就くの?学校の先生とか?

Shimomura: そうですね。あとはぜんぜん音楽と関係ない仕事をしたり、むしろ音楽を続ける人の方が少ないんじゃないかな。 本当にみんな色んな仕事をしてて、知り合いではキャビンアテンダントとかやってたりしますよ。

菊田:  それはすごいね。むしろかっこいいよね。

下村:  そうですよね。でもそんな中で自分は音楽の仕事が出来てるのである意味ラッキーかなぁとは思います。私も去年に大阪で中学の同窓会があったんですよ、すごい久しぶりに。で、そこで友達と話をして東京に戻ってきたら、そのあと同窓会での友達からメールが来て、「すごい!下村さんがウィキペィディアに載ってる!」って言われて驚かれました。(笑)

菊田:  普通の人は載らないですからね。

下村: なるほど、そういう感動のされ方もあるのか、と思いました。

アレンジアルバム Secret of Mana +のアルバムジャケットのアートも素敵ですね。

菊田: あれはジョイス・テネソン。僕はフォトグラフがすごく好きで、好きな写真家が色々いるのね。

彼らの撮るもの、例えば僕がその 頃テーマとし て考えていたのは、神聖っていうことと邪悪っていうことは表裏みたいなもので、一緒のものなんじゃないかなとか、そんなようなことを考えていたのね。だか ら僕は写真を見て、神聖さと邪悪な何かを感じるっていう写真がすごく好きで、そういうエネルギーの中で人間が動いていて何かを作ったり、言ったりするん じゃないかなと思っていたので、あのコンセプトというかアルバムを作る時にも、そういうのを表現したかったんだよね。

下村:  アレンジアルバムですか。あの一曲で50分以上あるという。

菊田:  そうそう。下村はアレンジやったことある?

下村:  私はいわゆるアレンジアルバムの仕事はやった事ないんですよ。ライブ・アライブの攻略本に付いてくるメドレーぐらいかな。あとはパラサイトイブのリミックスのアルバムは出てるんですけど、ほとんどDJがやって私は1曲だけアレンジしただけなんですよ。

アレンジでは特に好きなジャンルはありますか?

Shimomura: 私はあまりジャンル分けしたくないっていうのもあるんですけど、いい曲だったらなんでも好きです。一時期はラウンジのジャズにはまってました。もともとはクラシックが好きで音楽を始めたので。  もともと熱い曲が好きなんですよ。(笑)

菊田:  クラシックだと誰が好きなの?

下村:  やっぱりラフマニノフですね。あとはショパン、ラベル、スクリャービンのあたりが。実はベートーベンも好きなんですよ。

菊田:  おかしいね、その組み合わせ。(笑)

下村: いや、泣けるのが好きなんですよ。やっぱりラフマニノフですね。一時期はラフマニノフのピアノ協奏曲2番と3番を交互に聴きながら寝てましたね。

菊田:  へぇーー。難曲をねぇ。

Shimomura: 弾けはしないんですよ。手も届かないし、始めから。心から情熱的な音楽が好きですね。たまに興奮しすぎて周りが見えなくなっちゃったりします。勝手に歌いだしたりして周りには迷惑かけてました。悲しい曲を作る時もとことん落ち込んで作るので作り終わると抜け殻のようになってます。多分、曲から受ける印象以上に自分を盛り上げたり、落としたりしないとなかなか出来ない人間なので。

パラサイトイヴのトラックで使われているボーカルの言葉はどこの国の言葉でしょうか?どうしてその国の言葉を選んだんでしょうか。

Shimomura: ゲームのテーマが人の起源を取り扱ってるので、言葉の起源を発想したときにオールドラテン語にしようと思ったんです。それと、このゲームは日本とアメリカで発売される事が決まっていたので、日本語と英語以外の言語にしようと思ったんです。

キングダムハーツシリーズの続編の音楽は下村さんが担当していらっしゃいますか?

下村: そうですね。PSPとDSで出るやつですよね。全部じゃないですが基本的に音楽が大切なところは私です。

菊田:  すごい仕事してるね。

下村: いやぁどうかなぁ。今回携帯もあって3タイトルあるので、曲も全部は出来なかったですけど。

聖剣伝説シリーズでまた続編が出るとなったらどうしますか?

下村: 今度やる事があったら、二人でやりましょうか?!それで丸く美しくまとまりますよね。

菊田:  そうだね〜。

下村: これで二人とも切られてイトケンさんに決まったりしてね(笑

下村さん、フロントミッションのプロジェクトに携わったきっかけをお話しください。?

下村:  作る時は、激しい曲にするだとか特に考えてはいなかったんですが、当時の副社長の坂口さんからこんな曲にして欲しいってい うリクエストがあった んです。当時マリオRPGの仕事が決まってたんだけど、会社ではフロントミッションを制作する事になっていて松枝が新人だったという事もあって一人では大 変ということと、マリオRPGもまだ曲をがっちり作って行く段階ではないでしょと話をされ決まったんです。でも、あまりに忙しくなっても嫌だなぁと思い坂 口さんのブースに抗議に行ったら、「いや、下村、社長を目の前にしてそれはないだろ〜」って言われたんです。「え、社長?」って思ったら水野さんがそこに 座ってて、後ろ向いてたから全然わからなかったんですよね。。それで慌てて「あ、やらせて頂きます!」みたいになったんですよ(笑 ちょっと余談だったん でした。

菊田:  水野さんは柔らかいひとだからね。

下村:  そうなんですよ。だから余計に断れなくて。それで坂口さんにこんな感じでというふうにイメージの元の曲を聴かせてもらっ て、松枝と一緒にじゃこんな感 じでやりますか、という事になったんです。お互い熱くなっていった部分もあったんだろうけど、それですごく激しい曲になったんじゃないかと思います。

菊田:  あれは全部プレイしたけど、いい仕事だったよ。音楽もすごく良かったよ。

下村:  ありがとうございます。菊田さんに褒められるとうれしいですよね。滅多に褒めてくれないから(笑 私もいつも怒られてばかりでした。

菊田:  そんな怒った事なんて全然ないじゃん!

下村: でも菊田さんは入社当時からこの人は恐い人っていうイメージがありました。

菊田:  まぁそういうのはあったのかもね(笑 僕は偏屈だからね。

Concerto GateのサントラアルバムConcertoはご自身のレーベルNorstriliaでリリースされてますが、こちらもトラック名がユニークですね。

菊田: これはオーケストラをイメージしている音楽じゃないですから。オーケストラを使ったクラシックって、もともとタイトルがつく音楽ってなかった、そういう伝 統ってないのね。伝統的にクラシックは「ケッヘルの何番」とか、もしくはスピードが速いという意味の言葉とか、そういうシステマティックな名前で呼ばれる ことが多くて、案外ちゃんとしたタイトルがつくことが少なかった。と同時に、クラシックの音楽には演奏するための記号として、例えば感情表現、「情熱的」 にとか、「ここは静かに」とかいうことが書かれることが多くて、それで、ゲームにおいて要求される目的とちょっと似ていると思ったのね。だから例えば「こ こはダンジョンだから静かに」とか、「バトルだから情熱的に」みたいなことと同じだと思ったので、タイトルをつけるんじゃなくて、「情熱的に」と書くこと によってタイトルにするのがちょっと洒落ているなあと。だからこれはイタリア語だけど、実は全部音楽の感情表現記号なんです。

アルバムを作ろうと思った時に、僕がゲームのために作ったものというのは部分だと思ったのね。それは何故かというと、僕だけではなくて、イトケン (伊藤賢治)も同じコンチェルトを長く作っていたので、そもそも彼の作る音楽と僕が作る音楽を合わせて支えるっていうイメージだったので、僕だけの音楽で は足りないんだ。ゲームの時はイトケンがテーマ音楽を書いているけどそれだけじゃ足りないし、最初から最後までをちゃんとしないと完結しないんじゃないか と思った。だから、それを完成形にするために補うものを2曲作り出すっていうのは難しい仕事で、これは結構苦しかったんだ。でも、コンチェルト・ゲートっ ていうゲームを僕の世界として完結するために作ったオーバーチャーっていう最初の曲は僕がすごく悩んでっていうかな、自分の音楽のあり方みたいなのを試行 錯誤しながら作ったものなので、すごく気に入っている。

サイトで紹介されていますショップのAngel’s Wareについてお話しください。

菊田: 僕は服って、例えば僕らが絵を買うことがあるけど、それを着て自分の表現として歩けるというのはすごい面白いことだと思っているから、Tシャツをデザイン して売るっていうことはすごく興味があってやりたいことなんだけど、そこでも自分の絵を描いてそこに乗っけたいとは思わないので、色んな人に描いてもらっ たりしようかなとか思っているんだけど、なかなか皆、そういうのを頼むとうまく作れなくて悩んじゃったりなんかして、できませんでしたと言うことが多く て、なかなか発表できないんです。

それは残念なお話です。ということは今でもイラストレーターを募集していらっしゃると。

菊田:  そうです。ただ、勿論募集なんだけど、どんなものでもいい訳ではないから。僕はご存知のとおり、作るものにすごく厳しい し、こだわる人だ から、もし一生懸命描いてもらっても、それを使えないってことはとても多いんじゃないかなと思うので、それはごめんなさい。僕は実は、色んなグラフィック の人と一緒に仕事をすること、例えばその人を育てることも結構多いのね。余り経験のない人を「ここはこうしよう」とかディレクトしていって、その人が成長 していって一人前になるってことが何回もあったのよ。クーデルカの時にデザインしてもらったキャラクター・デザイナーの人も、超武侠大戦の時にキャラク ター・デザインしてもらった人も、かたや北海道の片田舎に住んでいたのをウェッブ・タイトルを見て引っ張ってきたんだし、かたや九州の片田舎にいて本屋の 店員だった人を呼んできたんだし、僕はそういうことをよくやる。彼らはアニメーションのキャラクター・デザイナーをしていたり、ゲームのキャラクター・デ ザイナーをしていたりして、今はちゃんと働いているので、僕は才能のある人を見付けるのがうまいし、それを育てるのも結構うまい。結構好きなんです。

菊田さんはオンラインゲーム関係のお仕事もなさっているとお伺いしました。

菊田:  オンライン・ゲームとかを色んな会社が作るんだけど、彼らはオンラインの経験がないから、色んなトラブルにあうことが多いんです。コンシューマーとかそういうノウハウはあるんだけど、でもオンラインは全然ノウハウが違うから、トラブルにあうことが多いです。僕はオンライン・ゲームの経験があるから話を聞いているだけで、こことここにトラブルの種があって、これは絶対失敗するなということが分かるんです。

現在はどのようなプロジェクトをなさっていますか?

菊田:  取り合えず、又、直近でビジュアル・ノベルの仕事を。それは僕が好きでもあるので。わりと自由にやれるから。それをやって、同時に、昔作ったアニメーションのBGMをCDにしたりすることもやっていきたい。

Concerto Gateの制作では伊藤賢治さんとのコラボでのアルバム制作でしたが、どのような計画で進めていきましたか?また曲の雰囲気を決めていく上で話し合いなどありましたか?
菊田: 実は、一切連携していません(笑)。でも、彼は僕の曲を聴かなかったし、僕も彼の曲を聴かなかったけども、一緒に合わせてみたら全然かぶる曲はありませんでした。

ConcertoのジャケットアートはAlma Tademaの作品ですが、作風が元のゲームのイメージとも違った雰囲気が独特ですね。

菊田: コンチェルト・ゲートは、「クロス・ゲート」から「コンチェルト・ゲート」になったのだけども、コンチェルトというのはある 種のキーワードだなあと思っ て。コンチェルトって協奏曲っていう意味でもあるけれど、もともとは協力するという言葉から来ているから、一緒に何かやるとか関わるっていう意味があっ て。だから人がいっぱい関わるっていうのを何となくコンセプトにしたいと思った。そういう意味で、色んな人が関わるっていう絵を探していた時に、こういう のを見付けて。アルマ・タデマっていう人は19世紀末の画家なんだけど、実はこの人はこういうコンセプティブな絵をいっぱい描いた人で、こういう絵に影響 を受けて実はハリウッドの最初の映像が作られていく。例えば、映画のデビッド・ワーク・グリフィスとかハリウッドのごく初期の映像作家は、こういう絵をも とにグラフィックを作っていたのね。

これは1800年代に作られた絵だけども、映画は1900年から始まっているじゃない? だから映像作家って実はこれをもとにしているのよ。彼とかは自分ではそう思わなかったけども、結果的にコンセプト・デザイナーなんだ。彼らは歴史上、最初 のコンセプト・デザイナーなんだけど、誰ももう知らないんだ。だから世の中にはこんな素晴らしい仕事があったんだってことを僕は皆に知って欲しいわけ。 今、誰に聞いてもこんな作家、知らないよね。それはすごく残念だし、悲しいことだと僕は思ったので、本当に素晴らしい仕事をする人がいたんだ、僕らがいつ も楽しんでいるハリウッド映画の大元はこんなところにあるんだってことを僕は言いたかった。これを見たら分かるんだけど、グリフィスのイントレランスって いう映画そのままなんだよ。それに出てくるバビロンの風景はそのままなの、これなの。

TademaのSpringは実際にご覧になりましたか?

菊田: 見たいけど、僕は見ていない。相当に大きな絵だよ。人がいっぱい集まって、僕がこの絵を見た時に面白いなと思ったのは、この 人達が何な のか分からないってことなんだ。ここに人が集まって何か勢いとかエネルギーとかを感じるんだけど、この人達が何を考えているとか、何のためにここにいると か、どこに行くのかという情報が一切ない。だからこの絵はハッピーでもないしアンハッピーでもないし、分からないっていうところにおさまっているところが すごいと思った。

そろそろお時間ですね。お二方とも、どうもお疲れさまでした。

下村:  お疲れさまでした。たくさんしゃべりすぎちゃった。どうもありがとうございました。

[Concerto: The Extraordinary World of Concerto Gate and Piano Collections Kingdom Hearts can be imported from Amazon.co.jp. This article is available in Italian on Gamesource.it and in French on Squaremusic. Interview/ photos by Jeriaska. Translation by Ryojiro Sato. Additional art by Mike Moss.]

  1. One Response to “マジカル・プラネット: 菊田裕樹 & 下村陽子”

  2. By Donnami on Apr 30, 2014

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