http://diamond.jp/articles/-/70893
中国が年内の設立に向けて動いているアジアインフラ投資銀行(AIIB)。こちらへの参加問題について見ていくと、多くの経済人(=大企業経営者)と経済界の御用新聞である日経新聞が大きくブレているようです。
AIIBに参加する必要はまったくなし
AIIB参加について、日経新聞は主張がブレていないだろうか? 実際、3月ころまでは「AIIBは意思決定プロセスなどが不透明なのだから、日本は参加する必要なし」といったトーンの主張が多く見受けられました。ところが、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国が参加に舵を切り、最終的に57ヵ国と予想以上に多くの国が参加を表明すると、「日本も参加しないとアジアのインフラビジネスに乗り遅れる」、「アジア開発銀行とAIIBが協調してアジアの経済発展につながるプロジェクトを推進できるよう、日本もAIIBに参加すべき」、「アジア市場の将来性を見据えた外交戦略を考えるべき」と、それまでとは正反対の主張に変わっています。
しかし、現実には、既に多くの識者がネット上で主張しているように、現段階で日本がAIIBに焦って参加する必要性はまったくありません。というのは、日米が参加しなければ、AIIBの格付けは確実に低くなるからです。AIIBへの中国の出資比率が最大になる(50%とも3分の1とも言われていますが)のが確実な中で、中国自体の金融市場における格付けが高くないことを考えると当然ですが、国際機関としては非常に低いAマイナスになるのではという噂もあります。
そうなった場合、AIIBが金融市場から資金を調達するときの金利はアジア開銀より1%高くなるのではないかと言われています。また、そもそもAIIBは投資不適格と判断せざるを得ないのではという声もあります。こうした金融市場での現実を考えると、日本が自ら焦って中国にAIIB参加を働きかける必要などまったくないと言えます。また、AIIBは中国の建設会社の救済策だと見る向きもあります。
中国経済が減速する中で、国際的に資金を集めて不況に喘ぐ中国の建設会社の仕事を作るのが目的という推測です。習近平が提唱する「一帯一路構想」が中国を中心に考えていることからも、AIIBの当面の仕事は中国内のインフラ整備になる可能性が高いと思いますので、この推測は妥当ではないでしょうか。しかし、それでは、中国が最大出資国となり、中国人が組織のトップとなり、本拠地が北京に置かれるという、中国政府の下部組織のようなAIIBが他国の信用を使って採算性の低いプロジェクトを実施することになりかねません。その意味で、意思決定プロセスが不透明なままで税金を投入できないという財務省の主張は、至極真っ当であると言えます。
今更のAIIB参加論は「認知的不協和」の典型例
このように考えると、参加を見合わせた日本政府の判断は正しいにも拘らず、なぜ多くの経済人やその御用新聞である日経は、そうした当たり前の指摘もせずにAIIB参加論に傾いてしまったのでしょうか。彼らの行動は、行動経済学でいう「認知的不協和」の典型例と捉えることができます。認知的不協和とは、自分の考えや前提としていた条件が間違っていたと分かったときに感じる心理的葛藤を指します。
いくつかのアジアの国が参加を表明したときは、それらが参加しても大したことはないと高を括っていたのに、参加するはずがないと信じていたG7加盟国が参加を表明し、かつ57ヵ国と多数に感じる数の国が参加したことで、「参加する必要ない」と考える前提が崩れてしまったのです。おそらくその根底には、多数と違うことをする場合に何となく不安を感じるという「ハーディング現象」に加え、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国の判断は常に正しいに違いないという時代遅れの思い込みもあるのではないでしょうか。
2015年05月05日
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