[PR]

 2015年NPT再検討会議へ御出席の各国代表並びにNGO関係者に御挨拶できますことを光栄に存じます。

 人類史上初の原子爆弾が投下されて70年の節目を迎えた今年、2015年NPT再検討会議において核兵器廃絶の実現に向けた具体的な道筋が付けられることを強く願い、被爆地からヒロシマ・ナガサキの被爆者を含む多くの市民がここニューヨークに集結しています。本日、被爆地を代表して、また、志を同じくする世界160か国・地域の6600を超える都市が加盟する平和首長会議の会長として、スピーチさせていただきます。

 1945年8月6日午前8時15分、広島に投下された、たった一発の原子爆弾は大量の放射線と強烈な熱線・爆風により広島の街を破壊し尽くし、当時広島にいた35万人の市民の大部分を占め

ていた、お年寄りや女性、子供という非戦闘員を無差別に殺戮しました。原爆による死者の数は、1945年末までに約14万人にのぼりました。

 また、辛うじて生き残った人々も、家族や友人を失った悲しみだけではなく、長年にわたる放射線の障害による苦しみ、健康上の不安など終生にわたり心身を苛まれ続けています。被爆70周年を迎える今もなお、被爆者は、深刻な心身の傷に苦しんでいるのです。

 被爆の実相を見れば、核兵器は「非人道兵器」の極みであり、「絶対悪」であることは明らかです。

 これまで70年もの間、被爆者は自らの体験を語り続けてきました。被爆者は、筆舌に尽くしがたい体験を経たからこそ、「こんな思いを他の誰にもさせてはならない。」との揺るぎのない信念にたち、被爆の非人道性を世界に伝え、警鐘を鳴らし続けています。核兵器が決して使われないようにするためには、核兵器廃絶こそが、唯一確実な方法であると訴え、核兵器のない平和な世界の実現のために全力を尽くしているのです。平和首長会議は、被爆者のこの切実な訴えを全面的に支持します。

 2000年と2010年のNPT再検討会議において、核軍縮こそが核兵器の使用あるいは核兵器による威嚇に対する唯一の「絶対的保障」であるとした合意文書が採択されたことを評価します。また、2010年再検討会議において、核兵器の使用により、壊滅的な人道的結果がもたらされる可能性が依然として人類を危機にさらし続けていることに、強い懸念が示され、また、核兵器禁止条約に言及されたことを歓迎します。

 さらに、近年、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで開催された核兵器の人道的影響に関する三つの主要な国際会議に、多くの参加があったことに大いに勇気付けられました。これらの会議では、被爆者の証言を聞く機会も設けられ、参加者に核兵器廃絶への一層の決意を促しました。これらの会議を通じ、参加者の間に、核兵器の甚だしい非人道性への認識とともに、誤解や事故により核兵器が実際に使用される危険が存在することについて理解が深まりました。

 さらに、国際平和を維持する上で、核兵器には何ら果たすべき役割はないという認識が広く共有されつつあります。現在、会議に参加した多くの国々が、この人道的アプローチを推進するため、市民社会と連携を密にして取り組んでいます。

 一方、核兵器廃絶には、それを可能とする安全保障環境が必要だとの意見があります。私が会長を務める平和首長会議では、核兵器廃絶を訴えるとともに、相互不信と脅しに依存する現在の「核抑止」に頼る安全保障体制から脱却し、より人間的で持続可能な安全保障体制へと方向転換するよう各国政府に求めています。そして、同じ人間としての共同体意識を国際社会と共有するため、幅広い市民社会のパートナーと協力しています。この考えは、あらゆる大量破壊兵器の廃絶、軍事費の削減、軍事力による威嚇やその使用の禁止を含む、国連憲章の根幹を成す規範に合致するものです。この趣旨に賛同し、平和首長会議の加盟都市は、私の市長就任後の過去4年間だけでも約2000都市も増加し、その数は今も加速度的に増え続けています。今では、その人口の合計は世界人口の7分の1を占めるまでになり、志を同じくする世界の市民はさらに増え続けています。

 国家間の相互不信やテロリストの存在が核軍縮を阻む障害であるとの主張があります。しかし、私たち平和首長会議は、このような主張には賛同できません。これだけ多くの心ある市民社会の各層が核兵器のない平和な世界を目指して、国際社会の相互理解の促進に努めている今、政治的リーダーシップの意義はどこにあるのでしょうか。いまこそ、世界の為政者、とりわけ核兵器保有国の為政者が、果断なリーダーシップを発揮して、核兵器の廃絶と、それを可能とする国際環境づくりに共に取り組む時ではないでしょうか。世界の被爆者、平和首長会議、志を同じくする市民社会の諸団体は、このような政治的リーダーシップを全面的に支持し、その実現のために協同します。

 各国政府、地方自治体、国会議員、女性、青少年、学者、法律家、医師、芸術家、環境保護論者、人権活動家、その他様々な立場の人々が連携して取組めば、文字通り、世界を変えることができます。

 それゆえ、現在のNPT再検討会議に参加した各国の皆様に、成功に向け協力するように訴えたい。私は、核兵器のない世界の実現には核兵器禁止条約もしくは同様の目的を持った法的枠組みが必要であると確信しています。核不拡散条約(NPT)の第6条は、核兵器保有国だけでなく、全ての締約国に対し、誠実に核軍縮交渉を行うことを求めています。しかし、NPT発効から45年経った今もまだ、核兵器の全面禁止には大きな法的隔たりがあります。今まさに、一刻も早く、NPT締約国がこの法的隔たりを埋めるための交渉、特に核兵器禁止条約に関する交渉を始めるべき時が来ているのです。

 最後に、本日、すべてのNPT締約国の代表者の皆様に、この2015年NPT再検討会議の場で力を一つにし、核兵器廃絶に向けた意義ある前進を強く求めます。そして、実現するその日まで、決して諦めることなくこの崇高なる大義を追求していこうではありませんか。私たち平和首長会議は、幅広い市民社会と力を合わせ、私たちの立場で全力を尽くします。