この人たちを知らなければ「モグリ」です
官僚なんて、みんな似た者同士でしょ、なんて思ったら大間違い。実際に、霞が関で有名な官僚たちの評判を聞くと、美女に趣味人、作家、プレイボーイと、その実態は実に多士済々だった。
クール・ジャパンの女神
「霞が関の役人」と聞けば、受験エリートたちが集まる秀才集団で、志は高いが、融通が利かない官僚組織—そんなイメージを抱いている人が多いのではないか。
だが、どんな組織にも例外はある。従来のイメージを覆す「異端児」であり、それゆえに霞が関の「有名人」となっているキャリア官僚たちの素顔を紹介しよう。
まず、須賀千鶴氏。経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課課長補佐のキャリア官僚だ('03年入省)。彼女を知る経産省中堅官僚がこう評する。
「茶髪だし、ノースリーブ姿で通勤するし、いくら他の省庁に比べて経産省に『変人』が多いといっても、正直、とんだギャルが入ってきたというのが第一印象でした」
須賀氏が注目されるのは、見た目だけではない。'13年にはネット向けコンテンツ配信会社ドワンゴの会長、川上量生氏と結婚し、話題になった。もちろん、仕事の面でも有能だという。
自身が経産省の元官僚('98年・旧通産省入省)で、三重県知事に再選された鈴木英敬氏は先輩として仕事をともにした。
「見た目こそ、いい加減そうに見えるんですけど、実際はそうではありません。私が経産省にいた時代、彼女はLEDの普及といった省エネ対策や、海外から投資を呼びこむ国際租税関係の仕事をしていましたが、他省庁の官僚を巻き込んでプロジェクトを進めるのがうまかった」
経産省は近年、日本のアニメやマンガを世界に売り込む「クール・ジャパン戦略」に熱心だ。須賀氏はその2代目の女性担当者。「ニコニコ動画」を運営するドワンゴ創業者の夫人らしく、積極的にメディアやシンポジウムに登場し、海外における日本のブランド強化の必要性を訴える。前出の中堅官僚が言う。
「元々、経産省内に『クール・ジャパン戦略室』を立ち上げたのが、現在は商務情報政策局サービス政策課課長補佐の高木美香('02年入省)。米スタンフォード大学のMBAをもっていて、英語が抜群。ちょっと『不思議ちゃん』ですが、彼女もスレンダーな美女です」
霞が関の内外に知られる官僚と言えば、「ジャニーズのアイドルグループ『嵐』の櫻井翔の父親」もよく名が通った人物。「櫻井パパ」の愛称で親しまれる櫻井俊氏('77年・旧郵政省入省)は現在、総務省ナンバー2の審議官ポストだ。
「今夏には事務次官に就任する可能性も取り沙汰される、同省のエースです。といっても万事そつなくこなすタイプで、そこまで仕事ができる印象はないんですけどね」(総務省担当記者)
その総務省には知る人ぞ知る有名人が、もう一人いる。それが「総務省の筋肉マン」の異名を持つ、現・内閣官房審議官の黒田武一郎氏('82年・旧自治省入省)だ。
「入省後、地方財政を所管する自治財政局の本流を歩んできたエリートです。'00年から5年間、熊本県の副知事も務め、将来的には事務次官もありえます。剣道は四段、合気道は五段、計九段の『武闘派官僚』。官邸からは『事務次官にはもったいない。安倍総理のボディガードに』なんて言われています(笑)。といっても、黒田氏はかつて総務相を務めた菅義偉官房長官との関係もよく、今は『菅のボディガード』と呼ばれています」(前出・担当記者)
素顔はピュアな純文学作家
「筋肉マン」は文武両道らしく、黒田氏はなんと小説の執筆も手がける。'11年には『時のはざまに』なる作品を上梓した。定年退職を控えた主人公が同窓会を機に、過去を回想する純文学だ。
黒田氏自身を彷彿とさせる筋肉質な主人公・古矢健太は、30年ぶりに元彼女・エミと神戸の街で再会する。そのピュアな精神に満ち満ちた文学の一部を抜粋しよう。
〈「今日は、楽しかったな、こんなに楽しいご飯、あと何回、人生で食べれるのだろう」
古矢は、心底、正直な想いを口にした。
「健太、今日、モントレー泊まりやね。私も一緒に泊めてもらおうかな」〉
〈エミは、組んでいた手を離すと、ぽんと、古矢の背中をたたいた。
「うん、この筋肉の鎧に今日は抱かれたかったな」
ホテルは、眼の前だった〉
現職キャリア官僚による小説執筆は、実はよくあるケースだ。有名どころでは、財務省大臣官房審議官の松村武人氏が「芦崎笙」のペンネームで、女性エリート行員を主人公にした『スコールの夜』を'13年に発表し、日経小説大賞を受賞した。
「'09年のJAL再建問題の頃、国交相だった前原誠司氏と対立して話題になった前田隆平航空局長(当時。'77年・旧運輸省入省。現在はリヒテンシュタイン大使)も、父親の戦争体験をモチーフにした『地平線に』という小説を書き上げました。『あまり売れないから』といって、同僚や記者に配っていましたが」(国交省関係者)
金融行政のエキスパートとして、金融専門誌に実名入りのコラムを持ち、歯に衣着せぬ発言で有名な財務官僚もいる。
「大森泰人氏('81年・旧大蔵省入省)です。大森氏は証券局市場改革推進室長などを務め、その後は金融庁に転出。市場課長や企画課長などを歴任して金融法制や市場改革に一貫して関わり、現在は証券取引等監視委員会の事務局長に就いています。コラムでは、金融機関に対して居丈高に振る舞う金融庁の若手検査官を『猿にマシンガン』と批判したり、村上ファンド事件では検察や地裁判決を揶揄したりと、官僚とは思えない奔放な一面を持っています」(全国紙経済部キャップ)
今年3月、コラムを『霞ヶ関から眺める証券市場の風景』にまとめた大森氏本人に話を聞いた。
「私が何かを批判するときは、その批判対象のことを大事だと思ってのことなんです。その対象が良くなってほしいから、批判する。批判されたほうは腹をたてるかもしれないし、周りはハラハラして見ているのかもしれません。
行政官はあまり自分の見解を明らかにしませんよね。言いたいことを抑えて、コツコツと仕事をこなすほうが役人の鑑みたいなところもあります。ただ、すべての役人には国民に貢献したい気持ちがあると思うんです。それが私の場合は、金融に関わる世界で生きてきた経験や知識を踏まえて世の中に発信することでした。自分では、広義の行政活動だと思っています。まぁ、スタイルが普通の行政官と違うということなのかもしれません」
最強暴力団と「決戦」
本業とはまったく関係なく、趣味が高じて有名になった人もいる。「ラーメン官僚」としてメディアにも登場する田中一明氏('97年入省)だ。
残念ながら所属は明かせないのだが、彼が何よりも好きなラーメンの原材料に深く関わっている省庁とだけ言っておこう。れっきとした霞が関のキャリア官僚だ。
田中氏本人が言う。
「他に登場する有名官僚がどんな方かわかりませんが、基本的には知的好奇心が高じてだとか、仕事によって得た知識を活かしているのだと思います。私の場合は、ただ店に行ってラーメンを食べているだけです。
職場でもラーメン好きであることは知られていたのですが、ここまで知識があるとは思っていなかったみたいです。でも、同僚はおおむね好意的ですよ。『何かしそうなヤツだな』と思われていて、実際に『何かした!』という感じですかね(笑)」
田中氏が熱心にラーメンの食べ歩きを始めたのは、大学3年生の頃。公務員試験の合間を縫って、「環七」の有名ラーメン店で並んで食べていたという。今は年間700杯以上食べることを自らに義務付けている。
「ラーメン店は新陳代謝が激しいですから、都内だけで年に700軒が潰れ、新しく700軒ができる。新しいお店で食べるだけでも、年間700杯食べないと追いつかないんです。もちろん仕事優先ですけど、休みの日に7~8杯食べてカバーしています。今となっては、食べただけでスープのダシに何を使ったのか、大体わかりますね」
今やテレビで見ない日はないほど人気の予備校講師・林修氏は東京大学法学部の出身だ。その林氏が、在学中に「こいつにだけは敵わないと思った」という大学時代の友人がいる。それが現在、金融庁保険課長の諏訪園健司氏('88年・旧大蔵省入省)だ。
「林先生は彼について、ブレイク直後のインタビューで『今の仕事を想像を絶するようなレベルに仕上げて、あいつにやっと追いつける』と語っていました。でも、内部では『慌てん坊のすわっち(諏訪園氏のアダ名)より、やっぱり林先生のほうが全然すごいよね』という評価がもっぱらです」(財務省関係者)
霞が関から遠く離れた北九州には、警察関係者から尊敬を、反社会的勢力からは畏怖を抱かれている警察庁のキャリア官僚がいる。その名も「工藤会を潰した男」、1月まで福岡県警本部長を務めた樋口眞人氏('82年入庁)がその人だ。
樋口氏が福岡県警に着任する前年、北九州市内では飲食店経営者を狙った襲撃事件が相次ぎ、福岡県警の元警部が銃撃される事件も発生していた。
まさに「修羅の国」。警察関係者であろうとも、身の安全はまったく保障されない。ところが、樋口氏はそれに臆することなく、「東京から来た私が表に立つ」と周囲に伝えて、「工藤会」壊滅作戦の陣頭指揮を取った。
「樋口氏はこれまで警察庁の捜査二課長を務めるなど、二課(知能犯罪)のエキスパートとして知られています。その樋口氏が長年、福岡県警で懸案になっていた武闘派暴力団『工藤会』に対して『頂上作戦』を仕掛け、最高幹部の逮捕にこぎつけたんです。この成功で、樋口氏はこの1月から大阪府警本部長へと『栄転』していきました」(地元紙社会部記者)
外務省の「モテすぎた男」
霞が関では出世レースがどう転ぶか、当の本人にもまったく読めない。時として、キャリア官僚は組織に翻弄され、波瀾万丈の人生を送ることになる。幾度の「左遷」から不死鳥のように蘇ってきた、復興庁事務次官の岡本全勝氏('78年・旧自治省入省)は、強運の持ち主としてその名を知られる。個人のホームページも開設し、ほぼ毎日更新するユニークな人物だ。
「総務課長時代に、麻生太郎副総理の知遇を得たのが、岡本氏の転機となりました。岡本氏は人当たりがよく、陽気なおっちゃんのような雰囲気。当時、総務大臣だった麻生氏とウマが合った。そのときに『オレが官邸に行く時には一緒に来てもらうから』と言われたそうです。はたして、麻生氏が'08年に総理大臣に就任すると、岡本氏は『腹心』として総務省からは初めてとなる事務秘書官に登用されました。
ところが、'09年の総選挙で自民党は惨敗。『全勝どころか、全敗だ』と、岡本氏は戦犯の一人として、消防大学校長という閑職に飛ばされました。続いて就任した自治大学校長も閑職なんですが、在職中に東日本大震災が発生し、各省庁から作る対策本部に事務局次長として入った。
それが岡本氏にとっては『幸運』でした。復興庁創設とともに統括官に就任し、今年3月、事務次官に上り詰めたんです」(総務省関係者)
外務省の松富重夫イスラエル大使('78年入省)の場合、あまりに女性からモテるために、仕事とは別の部分で有名になってしまった。女子アナウンサー・有村かおり氏と不倫の末に再婚。そのことが今も騒がれる。
「若い頃から、『外務省一のプレイボーイ』として有名でした。中東アフリカ局長も経験したアラブ通としても有能で、昨年7月にイスラエル大使に就任。ところが、今年1月の安倍総理のイスラエル訪問の際には、妻が空港でカメラを持ちだして警備を混乱させたり、バスの手配を忘れたりして『相変わらずのお騒がせ夫婦だ』と、官邸や記者が呆れる一幕もありました」(外務省関係者)
能面をかぶった官吏のように思われがちな霞が関の官僚だが、実態はかくも人間臭い。彼らがこの国を動かしている。
「週刊現代」2015年5月2日号より
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