ただ、これだけはしたくない、という初体験もあります。それは、寝たきりになって誰かにオムツを替えてもらうこと。そのときが、僕の引き際かもしれません」
残された生者のために
藤村氏と同い年の前出・山田太一氏は、鋭い指摘をしてくれた。
「年齢を考えれば、私自身の死は、もうじき来るでしょう。だけど、いつも死を意識しているわけではない。いつか死ぬと思うから、われわれは元気に生きられるんですよ。もし永遠に生きるのなら、きっと疲れて生から逃げたくなる。
物語の中の死には理由が必要だけれど、現実の死は理由もなく突然訪れる。
私自身、死んだら何もなくなると考えているくせに、ある寺の住職に『いいお墓がある』と薦められてきれいな海沿いのお墓を見学したとき、『ああ、死んだらこんなところに入りたいなあ』と思った。すぐに『俺は死後も生き続けるとでも思っているのか』と我に返りましたが、こんな矛盾した思いと共存しながら生きているのが人間なのです」
死ねば自分はいなくなる。あとの世話をするのは残された生者だ。この単純な事実を自覚することが、死に損なわないための第一歩なのかもしれない。
仕事柄、数々の死を演じてきた女優の高橋惠子さんには、目標となる先達がいた。「台本の中では、感銘を受けるような死の迎え方にはなかなか出会えなかった。けれど、大先輩の杉村春子さんのことは本当に尊敬しています。
杉村さんは、たとえ体調がすぐれないときでも、それを舞台上で見せることは決してない方でした。80代、90代と一つの仕事をやり続け、女優のままお亡くなりになった。91歳で亡くなる直前まで舞台に上がり続けたことには頭が下がるばかりです。
出来れば私も75歳までは女優を続けたい。15歳で大映入りしてデビューしたので、75歳で60年。この仕事での還暦を迎えます。少なくとも、それまでは現役でいたい。
杉村さんは入院してからも病室で台本を読んでいたそうですが、そういう風に、何かなすべき仕事を抱えたまま死んでゆくのが理想かもしれません」
生涯現役を目指す高橋さんとは対照的に、前出の林望氏は、80歳になる前にこの世に別れを告げたいという。そのための準備も着々と始めている。
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