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「明治日本の産業革命遺産」世界遺産に登録を勧告
5月4日 22時47分

「明治日本の産業革命遺産」世界遺産に登録を勧告
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世界文化遺産への登録を目指している、「明治日本の産業革命遺産」について、ユネスコの諮問機関は、世界遺産に登録することがふさわしいとする勧告をまとめました。内閣官房の推進室は、記者会見で勧告の詳細な内容を明らかにすることにしています。
「明治日本の産業革命遺産」は、福岡県の官営八幡製鐵所や、長崎県の三菱長崎造船所など、九州の5つの県と、山口、岩手、静岡の各県にある、合わせて23の資産で構成されていて、ことしの世界文化遺産への登録を目指して、国が推薦し、去年9月には、ユネスコの諮問機関イコモスが現地調査を行うなどして、世界遺産にふさわしいか検討してきました。
内閣官房の推進室によりますと、イコモスは、「明治日本の産業革命遺産」について、「世界遺産に登録することがふさわしい」とする勧告をまとめました。推進室によりますと、勧告では、23の資産すべてを構成要素として認めるとしています。一方、正式な名称については、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」となっていますが、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」と変更したうえで登録することがふさわしいとしています。
内閣官房の推進室は、4日夜、記者会見し、イコモスの勧告の詳細な内容を明らかにすることにしています。
イコモスの勧告を受けて、「明治日本の産業革命遺産」は、来月28日から7月8日にかけてドイツのボンで開かれるユネスコの世界遺産委員会で審議されることになっています。
今回の勧告は、4つある区分の中で最も評価が高く、これまでに日本が推薦した候補のうち、この勧告を受けた17のケースは、いずれも世界遺産に登録されました。ただ、今回は、世界遺産委員会の21の委員国のうち、韓国が「韓国の国民が強制徴用された悲しい歴史がこもった施設だ」などとして、登録に反対する立場をとっているため、政府は、外交ルートなどを通じて歴史的な意義を説明するなど、関係国への働きかけを強めることにしています。

構成される資産は23

「明治日本の産業革命遺産」は、福岡県の八幡製鐵所など、九州の5つの県と山口県、岩手県、静岡県の8つの県の合わせて23の資産で構成されています。平成21年に世界遺産への登録を目指す国の暫定リストに記載されました。その後、去年1月、政府は「日本が幕末から半世紀余りで急速な産業化を達成したことは、世界史上、意義のある出来事で、その道のりを時間軸に沿って示している貴重な遺産だ」などとして、正式に推薦を決めました。国内の広い範囲、8つのエリアに構成資産が分散しているのが特徴で、福岡県の八幡製鐵所や、「軍艦島」の通称で知られる長崎市の端島炭坑、山口県萩市の松下村塾、それに岩手県釜石市の現存する国内最古の西洋式の高炉跡などから構成されています。また、八幡製鐵所や、三菱長崎造船所の大型クレーンなど、現在も稼働している民間企業の施設が含まれているのが特徴で、世界遺産に登録されれば非常に珍しいということです。
▽山口県には、いずれも萩市に5つの資産があります。「萩反射炉」「恵美須ヶ鼻造船所跡」「大板山たたら製鉄遺跡」「萩城下町」「松下村塾」です。
▽鹿児島県には、いずれも鹿児島市に、3つの資産があります。「旧集成館」「寺山炭窯跡」「関吉の疎水溝」です。
▽静岡県は、伊豆の国市の「韮山反射炉」です。
▽岩手県は、釜石市の「橋野鉄鉱山・高炉跡」です。
▽佐賀県は、佐賀市の「三重津海軍所跡」です。
▽長崎県には、いずれも長崎市に8つの資産があります。「小菅修船場跡」「三菱長崎造船所第三船渠」「三菱長崎造船所ジャイアント・カンチレバークレーン」「三菱長崎造船所旧木型場」「三菱長崎造船所占勝閣」「高島炭坑」「端島炭坑」「旧グラバー住宅」です。
▽福岡県と熊本県にかけての三池エリアは、2つの資産で構成されています。福岡県大牟田市と熊本県荒尾市にまたがる「三池炭鉱、三池港」は、「宮原坑」「万田坑」「専用鉄道敷跡」「三池港」が対象です。もう1つが熊本県宇城市の「三角西港」です。
▽福岡県には、ほかに製鉄に関連する2つの資産があります。北九州市の「官営八幡製鐵所」は、「旧本事務所」「修繕工場」「旧鍛冶工場」が対象です。もう1つが、中間市にある「遠賀川水源地ポンプ室」です。

推薦を巡る動き

「明治日本の産業革命遺産」を巡っては、国が世界文化遺産に推薦する遺産を決定する際、文化庁の委員会と政府の有識者会議が、それぞれ別の遺産を推薦したため、政府内で調整が行われました。
世界文化遺産の推薦候補の選定は、従来は文化庁の文化審議会の委員会が行ってきましたが、稼働中の施設を含む場合は、ほかの省庁なども関係することから、平成24年の閣議決定で、別の政府の有識者会議でも行えるようになりました。その結果、おととし、文化庁の委員会が、長崎市の国宝・大浦天主堂などから成る「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の推薦を決めた一方、政府の有識者会議は「明治日本の産業革命遺産」を推薦することを決定しました。
ただ、世界文化遺産として各国が推薦できるのは年1件に限られていることから、一本化に向けた調整が行われ、「明治日本の産業革命遺産」の推薦が決まりました。一方、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について、政府は、来年の世界文化遺産への登録を目指して、ことし、正式な推薦書をユネスコに提出しています。

登録に重要なイコモスの勧告

イコモスの勧告は、世界遺産に登録するかどうかの最終判断に大きく影響します。イコモスは世界130か国以上の専門家を中心に構成され、各国から推薦された文化遺産の候補の価値や保全状況などについて、専門的な立場から世界遺産委員会に対して勧告を行っています。勧告は、「普遍的な価値の証明が十分か」「保全状況は十分か」といった観点から、4段階で評価します。世界遺産委員会は、イコモスの勧告を踏まえて、同じ4段階で、世界遺産に登録すべきかどうか判断します。
最も評価が高いのは「記載」で、世界遺産にふさわしく、世界遺産の一覧表に載せるべきだというものです。日本が推薦した候補のうち、この勧告を受けたのは過去17回あり、その年の世界遺産委員会を経て、いずれも世界遺産に登録されています。
次が「情報照会」で、追加で情報を提出させ、翌年以降に再度審査するよう求めるものです。ただ、最近では、「情報照会」とされても、その年の世界遺産委員会で登録が認められるケースが相次いでいます。
3つ目が「記載延期」で、現段階では本質的な改定が必要だとして登録を見送るべきという勧告です。世界遺産委員会でこの勧告内容が確定すれば、推薦の段階からやり直しが必要で、再審査を受けられるのは早くても2年後以降になります。過去には、岩手県の「平泉」が、「記載延期」と評価されたあと、推薦の理由や内容などを見直し、3年後の再審査で世界遺産に登録されました。一方、同じく「記載延期」とされた島根県の「石見銀山遺跡」は、勧告の内容に事実誤認があると主張した結果、勧告を覆す形で、その年に登録されました。
最後が「不記載」で、世界遺産への登録はふさわしくないという判断です。世界遺産委員会でこの勧告内容が確定すれば、原則として、再度、推薦することができなくなります。おととし、神奈川県の「鎌倉」が、日本から推薦した候補として初めて「不記載」の勧告を受け、政府は、再度登録を目指すとする地元自治体の意向を尊重して、推薦そのものを取り下げました。

世界遺産 日本にはこれまで18件

日本の世界遺産は、現在、文化遺産に14件、自然遺産に4件の、合わせて18件が登録されています。平成5年、文化遺産に、奈良県の「法隆寺地域の仏教建造物」と兵庫県の「姫路城」が、自然遺産に、鹿児島県の「屋久島」と、青森県と秋田県の「白神山地」が登録されたのが最初でした。その後も、京都府と滋賀県の「古都京都の文化財」、広島県の「原爆ドーム」など、文化遺産の登録が続きました。最近では、おととし、静岡県と山梨県の「富士山」が文化遺産に登録されたほか、去年は、群馬県にある日本で初めての官営の製糸工場「富岡製糸場と絹産業遺産群」が文化遺産に登録されています。

地元の反応は

「明治日本の産業革命遺産」に5つの資産が含まれている山口県萩市の野村興兒市長は、「萩市がこれまで世界遺産登録を目指して関係機関や市民と連携・協力して取り組んできた大きな成果であり、市民とともに大変喜んでいる。今後も関係機関と連携しながらドイツで開催される世界遺産委員会において正式に登録されるよう、引き続き全力で取り組んでいきたい」というコメントを発表しました。
江戸時代後期の鉄をつくる施設、韮山反射炉がある静岡県伊豆の国市では、世界遺産推進課の担当者が部屋で連絡を待ちました。そして、午後8時半すぎに日本政府から「登録がふさわしいとの結果が出た」という連絡が入ると、担当者は慌ただしく電話やメールで関係先に吉報を伝えていました。伊豆の国市世界遺産推進課の秋山貴宏副主幹は「記載の連絡を受けてほっとしています。詳しい内容は今後の発表でさらに確認したいと思います」とうれしそうに話していました。
岩手県釜石市の野田武則市長は「震災からの復興を目指すうえで大変喜ばしい。今後も国や関係自治体と緊密な連携を図りながら取り組んでいきいたい」というコメントを発表しました。

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