ホンダジェット、他のメディアが書かないこと
国沢光宏 | 自動車評論家
4月23日の午後、ホンダジェットが日本にやってるということで、日本中のメディアが羽田にやってきた。予定時間の14時10分近くになると、皆さん着陸するだろうC滑走路の南の空から目が離せなくなる。
すると緊張が張り詰める! 明らかに旅客機でない小型機がアプローチしてきたからだ。カシャカシャとシャッター音響くが、シルエット見えた時点で「ガルフストリームですね」。ビジネスジェットではあるものの、この機体はホンダジェットを軽自動車に例えれば、ベンツSクラスというイメージ。
この後、何も飛んでこなくなる。予定時間を10分過ぎ、20分を過ぎ。どうしたのか、と心配になった頃、日本の夢を乗せた小さい小さい機体が近づいてきた。さすがに着陸距離900mという性能のヒコウキとあり、3000mあるC滑走路の4分の1くらいで減速を完了。逆噴射装置がないこともあり、驚くほど静かだ。
広い羽田空港の誘導路を走っている姿を見ると、やはり小さい。前述の通りジェット機の中では小型のビジネスジェットの中でも、最小クラスである。ライバルは『エンブラエル・フェノム100E』と『セスナ・サイテーション・マスタング』、そして『エクリプス550』。いずれも500機以上売れている人気機種である。
改めて機体を見ると、垂直尾翼が大きく、主翼が地面から低い。このクラスの機体、ライバルのリンクを見て頂ければ解る通り、普通はエンジンを胴体後部に付ける。大型機のように機内スペースを大きく取れる低翼機(主翼が胴体下部に付く)という手もあるが、小型機でだとエンジンが地面に近づいてしまい、ゴミや水を吸ってしまう。
かといって高翼機(主翼を胴体の上に置く)だと、今後は主翼の強化のため機内の天井スペースが犠牲になる。そこでホンダは低翼機とし、エンジンを主翼の上に載せた。この位置、空力的に難しく、実機を見ると主翼からずいぶん後方にズラしている。ウイングレット(翼の端っこの小さい羽根)の形状も相当練ったと思う。
上はホンダ開発のエンジン。バイパス比2,9。最新の旅客機のエンジンはバイパス比11にも達しているため小さく見えるものの、出力はライバルを圧倒している。上昇率クラスNo1! 1万3千mまで24分くらいで上がれるそうな。片側停止でも離陸を続けられるというから安全性も高い。メインテナンスサイクルはオーバーホールで5千時間と、競合するプラット&ホイットニーより20~30%長い。
意外だったのは主翼も水平尾翼も下面にボルテックスジェネレーターが多数あること。この小さい突起は、ゴルフボールのディンプルのような効果を出し、翼面に沿って流れる空気をコントロールするもの。ただ空気抵抗にもなるので、本来なら無い方が良い(名機B747には一つも無い。エアバスも嫌う)。
普通、付けるとしても翼の上面である。なのに下面にビッシリ付いていた。もちろん「悪い」ということにはならないが、この点を聞いてみたいと思ったら、意外にも機体関係の開発をした日本人の技術者は1300人のスタッフ中、数名しかいないとのこと。100%ホンダではあるけれど、日本人の関与は薄い。
こう書くと「なんだ」と思うだろうが、安全第一の機体作りをするには最も正しい判断である。実際、ホンダジェットは開発中、小さい事故さえ起こしていない。珍しいことである(順調な飛行機は、順調に育つと言われてきた)。我が国の飛行機技術は大きなブランクを持つ。少しづつ日本人の技術者を育てていけば、必ず100%日本設計の飛行機が作れるようになるだろう。
現時点でのオーダー数は120機を越えるという。こちらも実績の無い新参メーカーとしては驚くほど好調な出足である。500機を越えれば少なくない利益が出ると言われている。年間生産可能機数は数年後に100機体制になるそうな。早ければ6~7年で飛行機事業が黒字になるかもしれない。