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2014年7月22日(火)

AED見えてきた課題

阿部
「心臓発作を起こした場合に、電気ショックを与えて、心臓の動きを正常に戻す医療機器『AED』についてです。」

鈴木
「一般の人が使えるようになってから、今月(7月)でちょうど10年になりますが、今、さまざまな課題が見えてきています。」

AED 見えてきた課題

古賀
「朝、ラッシュ時を迎えています京王新線、新宿駅。
改札を出てすぐの所、一番目立つ所にAEDが設置してあります。
イラストで使い方が説明してあって、必要な人は誰でもすぐに使えるようになっています。
このように駅の構内はもとより、学校や商業施設など、これまで全国で50万台以上が設置されてきました。
心臓の異常が原因の心臓突然死で亡くなる人の数は、年間およそ7万人。
普及が進むにつれて、このAED、使われるケースも増えてきました。
最新のデータでは900件に上ります。
一方で、気になる数字もあります。

いざ使おうとしたときに『電源が入らなかった』『機械が作動しなかった』など、AEDが不具合で使えなかったというケースが103件あるんです。
そのうち、42人の方は亡くなっています。
AEDが正常に作動していたら、命が救えたかもしれないという事例は少なくないんです。」

点検していれば… “救えた命”

3年前、15歳の女の子が亡くなったケースです。
家族が、町内会が持っていたAEDを使って、救命処置を試みました。
ところが湿気が原因と見られる機械的な故障で使えず、女の子を助けることはできませんでした。


また、6年前に、ゴルフ場で男性が亡くなったケースでは、その場で、AEDを使おうとしましたが、バッテリーの故障で使えず、男性の命は救えませんでした。
いずれのケースも、AEDが正常に機能していれば、命を救えた可能性があります。
しかし、点検など、日常的な管理が徹底されていなかったために、不具合を見抜けなかったのです。
一昨年(2012年)、総務省が行った実態調査では、AEDが設置されている国の施設でも、3割で、日常的な点検が行われていなかったという結果がでています。
こうした事態を受け、業界団体では、毎日の点検を徹底するよう呼びかけています。

「こちらのAEDの場合、3秒に1回、正常の場合はランプが点滅。」

この機種では、異常がある場合、ランプが光らなくなります。
この他の機種でも、何らかの表示がされる仕組みになっています。


電子情報技術産業協会 大高守さん
「いつなんどき、人が倒れて救助しないといけない場面が出てくる。
日頃の点検が一番重要。」

AED 点検のポイント

古賀
「日常的にAEDを点検しておくことが大切なんですが、こちらの駅では、このAED、右上の部分、緑になっていると使用可なんですけれども、毎朝、始発前に確認することになっています。
今、緑ですね、使える状態になっています。
それに加えて月に1度は実際に取り出して、使えるかどうか、作動するかどうかの確認も行います。

確認したら、ここに日付入りでシールを貼ることにしています。
身近なAEDを点検する際に必ず、確認していただきたいのが消耗品の有効期限なんですね。



こちら、胸に貼って電流を流すパッドなんですけども、ここに有効期限が書かれていますね。
有効期限が切れたら交換することが必要です。



そして、バッテリーにも有効期限があります。
早いものだと2年で切れてしまいます。
充電式ではありませんので、交換する必要があります。



消耗品以外にも、この本体にも耐用期限というのが決まっていて、メーカーにもよるんですけども、およそ6~8年ほど。
期限を確認しておかないと、いざという時に使えないことにもつながりかねないんです。
AEDはこのように、いつでも使えるようにしておく。」

行方不明のAED 5,000台はどこに

古賀
「医療機器として適切に管理しておくべきものなんですが、NHKの取材によりますと、少なくとも、国内で5,000台の行方が確認できず、適切に管理されているかどうかすら、わからない状態になっていることが明らかになったんです。」

中古AED 個人販売の危険

行方が確認できないAEDの一部は、インターネットオークションで取り引きされていました。
2年ほど前から、取り引きが急増し、その数は、過去2年間で150台以上にのぼっています。

本来、AEDを販売する業者には、法律で、購入者の連絡先を把握する義務が課せられています。
消耗品の有効期限や、リコールの情報を確実に届けるためです。



しかし、個人がネットオークションなどで販売することは、法律では、想定されておらず、販売する人に、購入者の連絡先を把握する義務はありません。
こうして、AEDの行方がわからなくなると、有効期限やリコールの情報も届けられなくなり、安全性が担保されなくなってしまうのです。
なぜ、こうした中古AEDの個人売買が横行しているのか。
出品者の1人、リサイクルショップの従業員に話を聞くことができました。

これは発送前のAEDです。
廃業した福祉事業者から引き取ったものだと言います。

出品者
「バッテリーを換えたら、使えると思います。」

AEDのアナウンス
“バッテリーが残りわずかです。”

バッテリーは充電ができないため、交換しなければ使えません。
しかも、リコールなどの安全に関する情報も、購入者の元には届きません。
この状態のAEDでも、オークションでは50件以上の入札があり、およそ10万円で、落札されました。
今、注目の商品だと言います。
中古品のAEDが大量に取り引きされる背景には、購入する側の経済的な事情がありました。
個人で介護タクシーを営む、大島隆一(おおしま・りゅういち)さんです。
去年(2013年)、ネットオークションで中古のAEDを買いました。

介護タクシー事業者 大島隆一さん
「非常に重篤な方を搬送する場合が多い。
義務化はされていないが、個人の思いとして必要だと思った。」



新品のAEDは高価なもので40万円するため、手が出せず、およそ2万円の中古品を落札しました。
しかし、価格を重視するあまり、メーカーの管理が行き届かないというリスクについては、思い至らなかったと言います。

介護タクシー事業者 大島隆一さん
「今考えると怖い。
いざ使うときに使えなかったら、非常に怖い。」

リスクに気付いた大島さんは、現在、オークションで買った中古品は処分し、新品のAEDを使っています。
危うい中古AEDの個人売買について、国はどう受け止めているのか。
厚生労働省がNHKの取材に対して、文書で回答しました。

オークションによるAEDの個人売買は不適切であるという考え方を示したうえで、「オークション運営会社とも協力し、適切に対処したい」としています。
ただ、国として規制を強化することについては、「AEDの普及に対して逆効果になる」として否定的な見解を示しました。
専門家は、国がこの事態を深刻に受けとめ、積極的に関わるべきだと指摘しています。

立川病院 三田村秀雄院長
「(AEDは)医療機器として命を救うという信頼度が高くなければいけないが、それが保証できない状態になっている。
(AEDの信頼度について)最低のレベルは維持・保証できると、国が保証することが必要。」

鈴木
「個人でAEDを買う人の多くは、身の回りの人の命を守りたいという思いが強かったそうなんです。
その一方で、管理が行き届かず、いざというときに使えないリスクはほとんど知られていなかったということです。」

阿部
「このAEDの普及をさらに進めるためにも、安全性を確保しつつ、いかに価格を下げられるかが、今後の課題と言えそうです。」

<関連リンク> ※NHKサイトを離れます
『減らせ突然死~使おうAED~』