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【憲法特集】なぜ改憲? 説得力欠く 木村首都大准教授

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  • 首相が憲法に正統性がないと感じるなら、選挙に出るべきではない
  • 世界中の平和を全部引き受ける資源や実力を日本は持っていない
  • 選挙で勝った内閣は何でも決められる―が安倍首相の憲法観
憲法について語る首都大学東京の木村草太准教授

憲法について語る首都大学東京の木村草太准教授

 戦後70年、日本国憲法が岐路に立たされています。安倍晋三首相は来年夏の参院選後の憲法改正に意欲を示し、第1段階の緊急事態条項や環境権の新設を足掛かりに、9条改正も視野に入れていると指摘されています。3日の憲法記念日を前に、2人の論客に憲法と民主主義の行方について聞きました。

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 憲法とは、私たちがこういう国家をつくりたい、という目標や理念を実現するための具体的な制度を定めたものです。

 本来、憲法改正は国民の間で今の憲法のこの条項を変えたい、という気持ちや理念が広く共有されて出来上がっていくものです。今の状況で(国民に)そういう気持ちがあるのかというと、到底ないと思います。

 安倍晋三首相は改憲に意欲的だと言われますが、なぜ改憲が必要なのか理由が分かりません。どんな人たちがこういう改正をしてほしいという声があるのだと丁寧に説明できなければ、説得力はなく、今の状況では個人の趣味で言っているだけにしか聞こえません。

 「押しつけ憲法」との指摘がありますが、果たしてそうでしょうか。今の憲法は、日本の国家体制を明治憲法の時よりもっと民主主義的にしろという連合国総司令部(GHQ)からの要求を日本側が自発的にのんでそれに基づいてつくられたものです。GHQが提案したものに対して日本側も要望を入れて、二つの主体が交渉してつくったものです。

 日本国憲法に正統性がないとするなら、1952年のサンフランシスコ講和条約発効で日本が独立を果たした時、今の憲法を破棄するという選択もあったはずです。でもそうはしていません。むしろ、その憲法に従って選挙をしたり天皇陛下が在位しています。

 もし安倍首相が日本国憲法に正統性がないと感じるのなら選挙には出るべきではないし、首相を認証する天皇陛下に対し、(今の)天皇には正統性はないと言わなければいけません。でも、そこまでの覚悟は感じられないし、そうした主張はまったくしていません。

 いわば、おいしく食べているものを、これは押し売りされたものだと言っているような状況です。押し売りされたと言っている割には随分おいしく食べているなという感じがします。

■9条前提に貢献

 改憲派の皆さんが改正が必要だとして真っ先に挙げるのが9条です。

 9条が果たしてきた役割を端的に言うと、外国に地上軍を派遣したり空爆をしたりすることがなかったということです。9条があることで、日本は国際貢献を求められる場面で、例えばインフラ整備や技術協力など、

武力行使によらない方法をいろいろ工夫する必要がありました。

 9条改正論の主張には二つの流れがあります。一つは日本の安全のために改正が必要だという議論です。もう一つは世界平和に貢献するために必要だというものです。この二つを混同することは間違っています。

 まず、日本のためにという点です。日本の防衛という点では9条は何も拘束していません。自衛隊や日米安保も9条の下でそれと矛盾なく存在できるわけですから、それを改正する必要性はありません。

 もう一つは、(今の憲法では)外国に軍隊を送れないということですから、国際紛争があった時に武力行使をして、(同盟国から)あいつをやっつけてくれという声には応えることができないというのが今の憲法の制約です。

 ただ、冷静に考える必要があります。日本は大国ではありますが、世界中の平和をぜんぶ責任を引き受ける資源や実力は持っていないわけです。ですから、どんなに外国で困っている人がいて、あいつをやっつけてくれという声があっても、その全てに応えることはできないわけです。

 その状況でどうするかということです。場当たり的に選択的に紛争に介入していくという方法と、全てにおいて介入しないという方法があります。すべてに介入しない方法の方が日本独自の国際貢献というものができるはずで、9条を前提とした国際貢献の可能性をもっと考えるべきだと思います。

 仮に9条を改正して海外で武力行使ができるようにするには自衛隊装備の大幅な増強が必要になります。そのためには年間数兆円の予算が必要になってきます。数兆円かけてイージス艦をもう1隻増やすのか、あるいはそのお金で難民支援するのか。どっちが国際貢献になるのかを考えてみれば、答えは一目瞭然です。

■論理弱い賛成派

 安倍政権が進めている安全保障法制論議について考えてみます。官邸からいろんな情報がたくさん流されていますが、大事なことは、自衛隊を軍事活動のために海外に送ることをどういう基準で認めるべきなのか、あるいは認めないべきなのかという議論だということです。

 この論点では(安保法制に)反対派の関心の弱さよりも、賛成派の論理の弱さの方が目立ちます。外国での戦闘行為を援助するわけですから、当然そこでは殺される人もいるし、日本がその一員として恨みも買うこともある。自衛隊員は危険な任務にさらされることになります。それがリアルな状況です。

 その時に自分たちがやったことにどれだけリアリティーが持てるか、どれだけ責任感を持てるかが日本国民全体に問われています。責任感を持てないようであれば、その政策はやめるべきです。今のままでは、自衛隊員が死んでも、現地の人が死んだとしても、遠い外国で起こった事故ぐらいのことにしか多分受け止められないのではないかと思います。

 安倍首相の憲法観を知るには、昨年7月の集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定の解釈をめぐる対応を見ればはっきり分かります。

 閣議決定の文言自体は、日本と外国が同時に攻撃を受けている時に反撃できるという趣旨の文言なので、個別的自衛権の再確認をしたとも読めます。そう読むのが自然な文言になっています。

 だが、安倍首相は必ずしもそう解釈はしていない。場合によっては日本が攻撃されていなくても機雷掃海はできるとか、ミサイルの撃墜もできると言います。その一方でイラク戦争やアフガン戦争には参加はできないとも強調しています。イラク戦争の状況で機雷がまかれた場合はどうなるかと問われれば、矛盾した発言になる。

 閣議決定の文言に対する首相の解釈は極めて曖昧で不正確な状況です。そこにある種の憲法観が表れています。文言なんてどうでもいい、自分たちで決めた閣議決定も含めて憲法の文言なんかは関係ないのだと。内閣あるいは選挙で選ばれた人たちが判断をして、それで審判を受ければいいのだというタイプの憲法観です。

憲法使い阻止へ

 こうした安倍首相の憲法観は名護市辺野古での新基地建設問題での対応にも反映されています。

 いくら地元が反対しても、その声には耳を貸さない。選挙で勝った内閣は国民からの白紙委任を受けて何でも決めることができると思っています。それが安倍首相の憲法観だからです。

 辺野古新基地問題では、安倍政権が地元の同意が必要のない事項だと認識していることが最大の論点だと思います。沖縄側はその点をはっきり否定して、法制度的に、これは地元の同意が必要な事項なんですよということを突き付けていくことが大切です。内閣と米国が基地を辺野古に移したいと決めたが、それが国民代表である国会の承認が得られているのかということを厳しく問いかけるべきです。

 私が提起した辺野古基地設置法を議員立法で提案する動きも出ています。それがちゃんと提案できた場合、国会が否決すると国会としては辺野古に造るなという意味になります。そういう事実を持って内閣に対し、国会が否決をしたではないかと沖縄県側は言いやすくなります。

 逆に可決してくれれば、憲法95条の住民投票になります。それなら沖縄に決めさせてもらいますとなります。そこで否決されれば法律は成立しないのですから、移設は否決されたということになります。

 制度的に沖縄県の同意が必要な事項だということをもっと理論武装して発信していく必要があります。新基地建設反対が正しいことだと確信を持つためには憲法に基づいた理念と理論で武装しないといけません。それが憲法を使うということなのです。(聞き手=編集局社会部長・稲嶺幸弘)

   ×   ×

 1980年横浜市生まれ。憲法学者。東京大学法学部卒業。同大助手を経て、2006年から首都大学東京准教授。研究テーマは思想・良心の自由、平等原則。主な著書に「憲法の想像力」など多数。本紙で「憲法の新手」(第1、第3日曜3面)を連載中。

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普天間移設問題の一覧

 日米両政府は96年、宜野湾市の米軍普天間飛行場移設返還で合意、99年に名護市辺野古の沖合での代替滑走路建設を決めた。2006年、移設位置を陸側へ寄せ、岬の上でV字形に滑走路2本を建設する計画に変更された。しかしオスプレイの訓練激化や、ステルス最新鋭戦闘機F35の運用、軍港機能整備を米側が想定していることも判明。実態は代替施設ではなく機能強化した新基地の建設であり、米軍基地が沖縄に長く固定化される恐れがあるとして名護市や市民団体が強く反発している。

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5月4日(月) 紙面

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