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 「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」

 憲法前文は英文を直訳したような表現が多いと言われる。それは否めないにしても、平和や国民主権、人権の尊重を掲げ再出発を表明する内容が国民に希望を与えたことは確かだ。戦後の歩みを振り返るとき、あらためて存在の大きさを感じる。

 だが、憲法への風圧は今、かつてないほど強い。

        ◇

 改正について、国会発議は来年夏の参院選後というスケジュールが語られ、もはや抽象的な論議ではなくなってきた。一方、昨年7月の閣議決定では憲法9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使が容認された。それを受けた安全保障法制の関連法案は自衛隊の任務を一挙に拡大する内容だ。9条の歯止めを外すという憲法の空洞化が進む。

【「由らしむべし」】

 安全保障関係とともに見逃せないのは、言論・表現の自由を危うくする動きが続いていることだ。

 反対の声を押し切る形で成立した特定秘密保護法。その運用状況を監視する衆参両院の情報監視審査会が今年3月末にようやく始動した。政府外からチェックする唯一の機関で勧告権を持つが、強制的に秘密指定の解除はできず、どれだけ機能するかは心もとない。会合は開催日時や場所も明かさない秘密主義で、活動内容を知ることも難しい。

 国民にとって必要な情報が政府の都合によって隠され、「知る権利」が侵害されないか。監視機能が不十分なままでは懸念は消えない。

 「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」。国民はただ従わせ、説明する必要はない。そんな世の中に逆戻りすれば、国民主権が脅かされる。

 秘密保護法制定の過程で浮かび上がってきたのは自由や人権より国権を優先する考え方だ。それは安倍政権によるメディアへのけん制という形でも表面化している。

 とりわけ問題なのはNHKの「独立性」が揺らいでいることだ。

 公共放送であるNHKは自主性を保つため、受信料で運営されている。その最高意思決定機関である経営委員会の人事で2013年11月、安倍晋三首相と個人的に親交の深いメンバーが選ばれた。

 そして経営委員会が選んだ会長の籾井(もみい)勝人氏は就任会見で「政府が右と言うものをわれわれが左と言うわけにいかない」と述べ、その後も政治的中立性を損ないかねない発言を続ける。こうしたトップの姿勢が報道現場に影響すれば公共放送の信頼に関わる。「恣意(しい)的な人事」が危うい状況を招いたといえる。

 4月にはやらせが指摘されたNHKと、出演者が官邸批判をしたテレビ朝日の幹部を自民党が事情聴取した。昨年の衆院選前には在京各局に選挙報道で「公平中立」を求める文書を送っている。

 放送法の「事実をまげない」「政治的公平」などの規定を持ち出し、報道番組をけん制することは牽強(けんきょう)付会と呼ぶしかない。

 放送法はその目的を記す第1条に「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定める。「放送は政府のもの」という戦前を反省し、権力から独立した「自主・自律」が放送局に求められた。政権与党が圧力をかけるような行為こそ、放送法の趣旨に反する。

 「異論を許さない」「政府にとって都合の悪い情報は隠す」。知る権利や表現の自由が侵害されれば民主主義そのものが危うくなる。

 政権のおごりとも言うべき動きが進む中、安倍首相は憲法改正への積極姿勢をあらためて見せ始めた。

【改正へ前のめり】

 衆院選公示前の昨年11月には「憲法改正の機運が国民の中で盛り上がっていない」と慎重だったが、自民党が大勝すると改憲への流れは一挙に加速した。安倍首相は今年2月の国会答弁で、改憲手続きを確定させる改正国民投票法の施行などを挙げて「いよいよ(改憲の)条件が整ってきた。どういう条項で国民投票にかけるか、発議するかに至る最後の過程にある」との認識を示した。

 権力を縛るのが憲法の本来の役割である。権力側が前のめりで改正を語ることには警戒が必要だ。まして自由や人権を制約するような最近の動きは立憲主義に反する。

 憲法を「不磨の大典」のように扱うべきではない。だが、国民の間で機運が盛り上がっていないのに、「改正しやすい項目から」など耳を疑うような発言も出ている。

 戦後70年。日本は平和と経済発展の道を歩んできた。その基本となってきた憲法の精神をしっかり見据え、これからの国の在り方を議論したい。主役はあくまで国民だ。

  
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