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【神奈川】

へいわのうた 9条を描き出す人たち(1) 世界平和 ロックで訴え

◆酒類販売業・君嶋 哲至さん(横浜市南区)

ライブで熱唱する君嶋さん(ロックシティーヨコハマ提供)

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 「誰のために君は死ぬの? 俺のために君は死ぬの?」「誰のために君は戦う くだらねぇBATTLE(戦い)やめてしまえ!」。酒類販売を手掛ける「横浜君嶋屋」四代目の君嶋哲至(さとし)さん(54)=横浜市南区=は、ロックバンドを結成して熱唱している。曲は「STOP THE WAR」。世界平和を願って、直球勝負の題名と歌詞を付けた。

 バンドは二〇〇九年、本業を通じて知り合った蔵元と同業者との三人で結成した。酒を通じて知り合ったから、名前は「ミスティック ウオーターズ」(神秘の水)だ。君嶋さんはギターとボーカル。「演奏はうまい方じゃない」と謙遜するが、魂のこもった曲は多くの聴衆を魅了してきた。今は二カ月に一度、「ロックシティーヨコハマ」を自ら企画し、出演している。

 バンドの目的は、「日本酒の魅力を世界に広げる」「人々を元気にする」など複数ある。このため、「日本酒が最高」や「焼酎パラダイス」といった酒に関する曲や、「輪になろう日本」など東日本大震災の被災者らに向けた曲も多い。

 こうした目的と並べて掲げるのが、世界平和。「戦争になれば、何の関係もない若者が犠牲になる」との純粋な思いだけでなく、「平和だからこそ、おいしい酒を楽しめる」と、実感しているからだ。

 横浜君嶋屋は、一八九二(明治二十五)年創業の老舗。太平洋戦争末期の横浜大空襲で店が壊滅し、祖父と伯母が亡くなった。幼かった父は長野県に疎開して無事で、店は祖母が再興したが、「一夜にして大切な人を奪う戦争」に、小さいころから嫌悪感を抱いていた。

 一九八三年に君嶋屋を継ぎ、世界中を飛び回るうちに平和を希求する思いを強くした。世界中の酒を飲めるのも、国境を超えた人の絆を感じられるのも、平和な世の中が前提。「どんな国の人もいい人ばかり。言葉が通じなくても、酒を酌み交わせば仲良くなれる」。こうした個人の幸せを壊す戦争に反対するため、「STOP THE WAR」を一〇年に制作した。

 「この曲に込めたメッセージが、これほど重要になるとは」。君嶋さんは、集団的自衛権の行使容認などの動きに、驚きと怒りをあらわにする。憲法九条が守ってきた世界平和の理念に背くからだ。「戦争に巻き込まれる流れは、いつの間にか出来上がっていく」と、危機感を強めている。

 最近では、「俺のために…」の歌詞を変えて、「国のために君は死ぬの?」と、国の動きにはっきりと異を唱えるように歌う。経営者が社会問題に明確に意見表明をするのは珍しいが、「地球規模、長期の視点で見ると、このスタンスは間違っていない」。酒を通じた世界平和のために、君嶋さんは歌い続ける。 (志村彰太)

     ◇

 憲法九条が定める「平和主義」。その崇高な理念を具体化しようと、それぞれの方法で表現する人たちがいる。集団的自衛権の行使容認や安保法制の整備などで「平和主義」が危機にひんしている中、表現者たちはいっそう大きな声を上げ始めた。三日の憲法記念日を機に、独創性に富んだ彼らの「へいわのうた」をシリーズで紹介する。

 

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