1997年の「慰安婦報道」検証特集のときも・・・
田原: あの問題で世の中に朝日新聞バッシングが出てきた。元々朝日新聞が憎らしいと思っていた人もずいぶんいるわけで、朝日新聞をバッシングするのは間違いだと思うけれども、やっぱり朝日新聞にはもうちょっと筋を通してほしかったですね。
若宮: だから、私はもうOBだから紙面にタッチしていないので、同じような感想を持ちますよ。1997年の検証特集のときには政治部長の立場から「これでいいのか」と疑問を呈しましたが、それだけに終わってしまった。
田原: ちょっとお聞きしたいんですが、1997年の検証特集のときに、本来ならばあそこで吉田証言についての報道は間違っていたと認めて謝罪すべきだったと思うんですが、そうすべきだという論争はなかったんですか?
若宮: あのときにも議論はあったはずなんですけどね……。
田原: だったら、その議論を紙面に掲載すればよかったんじゃないですか?
若宮: 今考えればいろいろ言えますが、あのときには、吉田証言は全面否定まではできないという主張も社内にあったんですよ。つまり、吉田さんの証言は不十分だったかもしれないけれども、ご本人は曖昧にして逃げていたわけですね。一方で、吉田証言を裏付ける証拠も出てこなかった。
しかし、完全になかったと証明するのも難しい……それが正しいというわけじゃないんですが、「実情に沿って修正していけばいいじゃないか」という意見があって、ああいうふうに収まっちゃったわけですね。
田原: でも、1992年の段階で秦郁彦さんが済州島に現地取材に赴いて、強制連行の事実はなかったということを書いているんですよね。そういう事実がある以上、本当だったら1992年の段階で朝日新聞は済州島に取材に行くべきだったと思う。
若宮: 済州島には取材に行きましたよ。ただ、もっときちんと実情を書いていればよかったと思います。
田原: 何ですかね。それが朝日新聞叩きに発展するのは、僕は違うと思うけれども、なんでそこのところで朝日は筋が通せなかったんですかね?
若宮: 朝日は……というか、私なんかはそれほど深刻な認識がなかったんですね。正直言うと、吉田証言がそんなに大きく報道されていたという記憶もなかった。あれはほとんど大阪本社の発行する新聞に大きく出ていて、東京でも少しは出たけれども、私には吉田証言がこの問題の本質だという認識がまったくなかったんですよ。いまも本質だとは思いませんが。
秦さんが現地取材しているんだから、朝日も徹底的にやればよかったと思うけれども、それはそんなに本質的な問題ではないという認識だったのです。なぜなら、例えば河野談話は1993年8月に発表されたんだけれど、政府がこの談話を作る際にも吉田証言は信憑性が薄いということで、それを無視して作っているわけですよ。朝日新聞としては、河野談話で明確になった慰安婦問題への軍の関与や、全体としての強制性が問題なのであって、吉田証言で言われたように暴力的に慰安婦を連行したことがこの問題の本質なのではない、と認識していたんですね。
だから、私も突出した吉田証言は取り消せるなら取り消せばよかったと思うけど、それは慰安婦問題における部分的な事象にすぎないと思っていた。だいいち朝日新聞が全社挙げて吉田証言を支持していたわけでも何でもない。コラムなどでは取り上げていたけれど、社説では吉田証言というのは一回も使っていないんですよ。
ところが、段々とそこに問題がフォーカスされてきて、むしろ慰安婦問題全体を「こんなものは何でもない」と言いたい人たちが吉田証言に目をつけて朝日をバッシングすると同時に、吉田証言がすべてをねじ曲げた元凶だというイメージを作り上げたんだと思うんですよ。
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