食品自販機の聖地:専門店開業 全国の5分の1集中 群馬
毎日新聞 2015年05月02日 17時35分
硬貨を数枚投入すると、自動販売機がうなり、ガタンと音を立てて熱々の食べ物が出てくる。1960年代に開発された食品自販機。「オートレストラン」とも呼ばれ、全国のゲームセンターやドライブインに設置されたが、コンビニの台頭で姿を消した。昨年10月に「日本懐かし自販機大全」(辰己出版)を出版した魚谷祐介さん(42)によると、国内で稼働中の自販機は麺72台、ハンバーガー17台、トースト18台しかない。
そんな希少な食品自販機が数多く残る「聖地」が群馬県。全国約60カ所のうち5分の1が県内に集中しているという。「自販機食堂」は昨年11月、伊勢崎市富塚町に食品自販機の「専門店」としてオープン。「最後の新規店」と注目され、全国から老若男女が訪れている。
店長は近くにある自販機用の食品や麺の製造卸売会社「ミトミ」の都丸佳津行さん(45)。食品自販機の売り上げが低迷する中、数年前にツイッターで製造工程を紹介し、全国の食品自販機ファンとつながった。ファンの熱い声に後押しされ、新商品開発のための直営店を計画した。
店には全盛期に製造された麺、ハンバーガー、トーストの中古自販機3種を1台ずつ設置。オリジナル商品を含む全7商品のほとんどが週100個以上売れている。
魅力はどこにあるのか。店の自販機には「調子が悪いと中身が冷たい場合があります。そんな時は店内の電子レンジを」「ベーコンやハムが2枚入っていたらラッキーです」といった注意書き。都丸さんは「機械なのに人間味があって、ゆるい。40代以上には懐かしく、若い世代は逆に新鮮に感じている」と分析する。
レトロで明るい雰囲気の店内にはゲーム機を設置せず、喫煙も自粛を呼びかける。女性や子どもも安心だ。ポップなロゴやキャラクター、店内に飾られたイラストはファンが無償で制作してくれた。新商品のアイデアもツイッターや店内のノートで随時受け付け中。「ファンや地域の方と一緒に楽しい店にしていきたい」【尾崎修二】