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ハイスイノナサインタビュー 商業音楽へのアンチテーゼ「リスナーを舐めてはいけない」

機械的なサウンドを連ね、独自のリズムのうねりを構築してきたハイスイノナサ。今年3月にリリースされた『変身』では、近現代の建築様式を想起させるミニマルな音楽空間の特質は継承されているが、バイオリンやチェロなどの生音が積極的に採用され、“変身”“地図にない街”“ブラインド”の3曲のタイムライン上には身体的な生々しさが立ち現れている。それはまるで、聴く者の感覚を肉体と機械の狭間へと誘うかのようだ。

今回、リリース後のタイミングで、ギターの照井順政とドラムの中村圭佑にインタビューする機会を得た。かねてより音楽だけでなく、建築、現代アートへの関心を公言してきた照井。また、理数系の思考で音楽に向かう中村。その二人とメンバーが編み上げた“変身”は、これまでのハイスイノナサをどのように「変身」させたのか。

インタビュー・テキスト:島貫泰介 撮影:矢島由佳子(2015/04/30)

クラシックやジャズって、リスナーの胸ぐらを掴む力が弱いと思っているんです。音楽としては素晴らしいのに、ステロイド剤を打ちまくって作られたようなポップスのほうがどうしても入ってきてしまう。(照井)

— 5年前くらいのCINRAのインタビューで照井さんは「アートだったら外に訴えかけないとダメでしょ」という話をされていました。僕はふだん現代アートのライターをしていて、つまりそこから5年経って、音楽とは専門外のライターが話を聞きに来たということなのですが。

照井(Gt):たしかに(笑)。

— なので門外漢的な問いかけも迷わずしてしまいますが、ハイスイノナサがやろうとしていることって何でしょうか?

照井:やはり最初の頃の「いいアレンジとメロディーで、いい音楽を作りたい」という目的からは変わってきています。今回の『変身』では、“地図にない街”と表題曲の“変身”の2曲を僕が作曲していますが、それぞれ性質が違う感じですね。音楽を作るモードと、大袈裟に言うと芸術を作るモード。

ハイスイノナサ
照井順政(Gt)

— その2つのモードというのは、どっちがどっちですか?

照井:“地図にない街”が音楽モードで、“変身”が芸術モードです。

— その2つの違いって何でしょう?

照井:“地図にない街”は、音楽的な快楽を単純に追求している部分が大きい。一方“変身”は、自分の中の感覚をどうしたら音に変換できるのかというところから始まっています。もちろん、最終的には音楽としてブラッシュアップしていくので、落とし込みたい場所は一緒だと思いますけど。

— 同じ目的地を目指して、違う出発点からスタートし、違うルートを登っていくということでしょうか。3曲目の“ブラインド”は中村さんが作曲されていますね。

中村(Dr):そうです。これまでも曲は書いていて、1stアルバムの『動物の身体』(2012年)は当時の集大成だったと思います。でも、そこから世の中的に「いい曲」とされる音楽からは離れていきました。アナログ感とか肉体感とか、躍動感というか物理的感覚というか……それを伝えるツールとしての音楽のあり方に近づいている気がします。

ハイスイノナサ
中村圭佑(Dr)

— たしかに今回は、打ち込みの音ではなく、人力の生演奏の音が多くなっています。バイオリンやチェロも入ってますよね。

照井:『想像と都市の子供』(2010年)までは、人間性や感情を排除して、ある種機械的に構造の美しさを目指すという方向性だったんですが、ストイックさと閉塞感が表裏一体で、そこでやるべきことはやりきった気もしたんです。それと、最近僕が外部のプロジェクトに関わり始めて、他の人に曲を提供するようになったこともあって。だからハイスイノナサでは、部屋に籠って1人で作り込むのではない、メンバーの顔がもう少し見えるような音楽にしたいという想いがありました。それは大きなテーマです。

— これまでのディスコグラフィーを見ると、1年に数曲だけとか、リリースの間隔が広いですよね。そういうスピード感で音楽に向かう身体的な時間感覚は、作品やその構造にも反映されてくるのではないでしょうか?

照井:現在の音楽業界だと、1年に1枚アルバム出すってルーティーンが普通ですよね。アルバムを出して、プロモーションを打って、ツアーを回るというのがフォーマットとしてある。でも僕たちがやりたいのは、その時間的感覚とは全然違うことなんです。常々思っていたことなんですが、1人の人間やバンドにとってのテーマとか表現したいものなんて、そんなにすぐ変わらないですよ。音楽的に1年間貯め込んだものはあるかもしれないけれど、それを変奏曲みたいな感じで1年ごとにリリースしてもしょうがない。それこそ現代アートの作家たちは、一生同じテーマに向き合ってシリーズとして作品を積み重ねていきますよね。そっちの感覚のほうが性に合うというか。

— アートの側に話を引き寄せてしまいますが、本来、美術家が扱っている時間のスパンって、めちゃくちゃ長いです。例えば美術館に自分の作品が収蔵されて、100年200年後にも残る可能性がある。それを未来の人が見たときに、当時の時代環境がどういうものであったのか、当時の人がどういうことを考えていたのか、ということを伝える、タイムカプセルのような役割を持っている。どちらが正しいという話ではもちろんないですが、消費されるための時間感覚のなかで作られている商業音楽とは、やはり違いがあります。

照井:『変身』もマクロな視点で見ているというか。あえて言うなら、意識高い系(笑)。音楽史とか大きい時間のスパンで見たときに意味のあるものにしたいと思って作っています。だから、クラシカルなコード進行をしていたり原始的な音の使い方もしていると同時に、現代的なミニマルミュージックやポストロックの感覚も含んでいる。何て言うだろう……「胸ぐらだけを掴む力はあるんだけど何も言わない」みたいな。

— その心は?

照井:クラシックやジャズって、リスナーの胸ぐらを掴む力がちょっと弱いと思っているんです。音楽としては素晴らしいし、好きな人が聴けば、そこでやっていることの高度さは理解できる。でも、現代のように情報に溢れた日常でそういった良曲が流れてきても、ステロイド剤を打ちまくって作られたようなポップスのほうがどうしても入ってきてしまう。僕はクラシックやジャズが好きなので、その現状がつらいんですが、このままじゃパワーが足りないとも思っているんです。現代の音楽が持っているパワーと、クラシカルな音楽が持つ深みが合わさったものができたら、これまでハイスイノナサがやってこなかったものができるんじゃないかと。

ハイスイノナサ
『変身』(CD+DVD)

ハイスイノナサ
『変身』(CD+DVD)

2015年3月11日(水)発売
価格:1,800円(税込)
ZNR-138
[CD]

1. 変身
2. 地図に無い街
3. ブラインド

[DVD]

・自主企画イベント『AFTER FLAT TOKYO』ライブ映像5曲収録

イベント情報

『“変身”リリース記念ワンマンライブ』
日程:2015年6月5日(金)
会場:東京都 渋谷 WWW
料金:前売2,800円 / 当日3,300円

ARTIST INFORMATION

ハイスイノナサ

ハイスイノナサ

照井順政(Gt)、照井淳政(Ba)、鎌野愛(Vo)、中村圭佑(Dr)森谷一貴(Key)

2004年、照井順政(Gt)、照井淳政(Ba)、田村知之(Key)、中村圭佑(Dr)の4人によって結成。2005年、鎌野愛(Vo)が 加入。2012年に田村が脱退後、森谷一貴(Key)がサポートを経て正式加入、現在の編成となる。ミニマルやアンビエントを筆頭とした「現 代音楽」などの一見難しいイメージの音楽を、ポストロックとエレクトロニカとポップスといったフィルターを通して、これらを全て人力で具現化 させる、まさに打ち込みの様なテクニックを持つバンド。個々のメンバーの技術力、表現力の高さには定評があり、ギタリストの照井順政は様々な アーティストに楽曲提供やサポートギタリストとしての活動を行い、まさに音楽職人集団と言っても過言ではない。

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