■BMJ■
高齢者での喫煙の影響
Impact of smoking and smoking cessation on cardiovascular events and mortality among older adults: meta-analysis of individual participant data from prospective cohort studies of the CHANCES consortium*1
60歳以上の喫煙者は若年者と比べると禁煙サポートが不十分と言われているんだそうです。もう高齢者だしね・・・という流れがありますが、実際に60歳以上の高齢者でどの程度喫煙による害があるかを評価しています。
論文のPECOは、
P:60歳以上の高齢者50万3905人
E:喫煙者
C:非喫煙者
O:心血管死亡
T:メタ解析/Random effect models
結果:
心血管死亡はCurrent smoker vs Never smokerでHR 2.07(95%CI:1.82-2.36)、Former smoker vs Never smokerでHR 1.37(95%CI:1.25-1.49)と喫煙者は非喫煙者よる有意に心血管死亡が増大した。
平均余命はCurrent smoker vs Never smokerで5.50年(95%CI:4.25-6.75)、Former smoker vs Never smokerで2.16年(95%CI:1.38-2.93)年の余命の違いがあった。
(本文より引用)
データは高齢者の禁煙に関するデータとして使えそうです。喫煙リスクがどの程度かで言うと、タバコを止めると余命は3年くらい延びると言えそうです。うーん、あとは患者さんそれぞれの価値観との相談ですね。
✓ 高齢者喫煙患者が禁煙した場合と喫煙継続した場合の心血管死亡と平均余命のデータがある
伝染性単核球症レビュー
Infectious mononucleosis*2
相変わらずBMJのレビューはだいぶあっさりしていますね〜。伝染性単核球症のレビューですが、要点でへーと思った事を中心に抜粋してみます。
■伝染性単核球症と微生物■
古典的な3徴は、発熱・咽頭炎・頚部リンパ節腫脹で、リンパ球増多を認める。
微生物は、EBVが全体の90%を占め、残りがCMV・HHV-6・トキソプラズマ・HIV・アデノウイルスと言われている。
ウイルスの感染経路として、咳エチケット・手指衛生・キス・食べ物を介してがある
EB関連の症状は、2-4週間程度で改善するが、咽頭症状は1ヶ月時点で20%程度残っているとも言われている
経口摂取が出来ず入院するEB咽頭炎の患者は細菌性咽頭炎患者よりも入院期間が長い
免疫能低下患者ではEBV再活性化は起こり得るが稀
慢性活動性EBV感染症は、稀な重症慢性再発性伝染性単核球症様症状で健常人に起こり得る
■診断はどうする?■
咽頭痛を訴えて外来受診する患者の1%弱
症状は非特異的で3徴から推測するしかない
リンパ節腫脹の部位(前頚部か後頚部か)は細菌性との鑑別になる
肝機能障害は80-90%で見られ、20日後くらいまでに正常化する
他の症状は、口蓋点状出血 25-50%、脾腫 8%、肝腫大 7%、黄疸 6-8%
whitewash型の白苔は特徴的
リンパ球>50%+異型リンパ球 10%が感度 61%、特異度95%
リンパ球>35%で感度84%、特異度 72%
VCA ・EBNA抗体 感度97%、特異度 94%
(本文より引用)
■治療はどうする?■
一般的にはウイルス感染であり、安静・補液・鎮痛薬で対応
アンピシリン投与では90%で紅斑を来すが、アレルギーとの鑑別が必要
アシクロビル(ACV)投与は一部のRCTでは効果が見られたがメタ解析では、口腔咽頭症状の改善率はACV群 42.4%、コントロール群 31.6%でOR 1.6(0.7-3.6)と有意差は無かった
VCV・GCVも現在臨床試験進行中
メトロニダゾールも若干効果があり入院期間を短くしたと言う研究もあるが、大規模検証が待たれる
■ステロイド使用は?■
最近の研究のいくつかはステロイド使用の効果があるとしている
Cochrane reviewではそれぞれの研究がheteroで小規模すぎる為エビデンスの質は低く推奨は出来ないとしている
ステロイド使用は気道狭窄のリスクがあるような著明な咽喉頭浮腫症例での適応と考えるべき。
世界的にはステロイドがよく使用されるようになってきている
■慢性疲労症候群の原因になる?■
慢性疲労症候群は、除外診断で最近診断基準や疾患概念の変遷もある
専門家の中には伝染性単核球症の様な急性感染後に続いて起こる可能性が示唆されている
ある前向き研究では、伝染性単核球症発症6ヶ月後時点での慢性疲労症候群の発症頻度は7.3-12%程度と言われているが、本当に関連があるかは明確にはなっていない。
慢性疲労症候群の原因は多因子であり、単一の伝染性単核球症のみとはいえない。
■いつスポーツをしても良い?■
伝染性単核球症患者では、触診しなくても脾腫がある事が多く、脾破裂リスクはよく検証されている
接触のあるスポーツ(フットボール・体操・ラグビー・ホッケー・ラクロス・レスリング・自動車・バスケット)や腹腔内圧が上昇するスポーツ(ウェイトリフティング等)ではリスクが高い。
スポーツ復帰の週は文献によって異なり、3週・4週・8週・24週と幅がある。ガイドラインはない
脾破裂の頻度は1%未満でほとんどは発症3週間以内に起こっている。
毎週エコーで脾臓の大きさを評価した研究では、脾腫のピークは12.3日程度で、ほとんどの症例で4-6週で脾腫は改善していた。
システマティックレビューが2014年に発表され、運動中止推奨期間の個別化と脾腫の正確な評価を超音波による測定で行う事が推奨されていた
■多発性硬化症は起こる?■
伝染性単核球症は多発性硬化症のリスクになるというエビデンスがある
メタ解析では、多発性硬化症患者では100%EBV感染既往がある事も分かっている
現在EBVワクチンの開発が進められており、理論的にはそれによるMS予防も期待されている
■リンパ腫や他の悪性腫瘍は発症する?■
EBVは小児のBurkittリンパ腫や鼻咽頭癌との関連は証明されている
伝染性単核球症との関連ではどうかと考えると、スカンジナビアコホートでHdgkinリンパ腫の発症リスクが2.55-2.83との報告がある
英国の報告でも3.44倍と報告され、リンパ腫リスクは高まることが報告されている
他の悪性腫瘍との関連は現時点でははっきりしない。
■他の合併症は?■
神経疾患の発症率が1-5%と言われ、脳症や髄膜脳炎、痙攣、視神経炎、感音性難聴、顔面神経麻痺、Guillain-Barre症候群などの合併が報告されている
血液疾患の発症率も多く、溶血性貧血3%、血小板減少 25-50%だが、稀に再生不良性貧血や汎血球減少、無顆粒球症を来す事がある
稀な合併症としては、心筋炎・心膜炎・膵炎・間質性肺炎・横紋筋融解症・精神症状(Alice in wonderland 症候群)などがある
✓ 伝染性単核球症のうんちくを語れるようになろう
S状結腸鏡検診の結果
Time to benefit for colorectal cancer screening survival meta-analysis of flexible sigmoidoscopy trials*3
健診のLag timeの問題。lag timeは以前もブログで取り上げました。健診を行うには重要な概念の一つで、そのスクリーニングの効果が何年程度で出るのか?という考え方です。たとえば、余命6ヶ月の患者さんにスクリーニングでPSAを測定して陽性になったとしても恩恵は受けられないのは感覚的に理解できると思います。では、実際どのくらいの寿命があれば、ここの健診のメリットが得られるのかを検証したのが今回のstudyです。健診項目は、日本ではあまり馴染みのないS状結腸内視鏡です。ちなみに便潜血のlag timeは10.3年とされており、余命10.3年以上が見込まれる人は健診の対象で、現状USPSTFも75歳までと推奨しています。
今回の研究はS状結腸内視鏡健診についてのシステマティックレビューです。サンプルサイズが100以上のRCTだけを抽出して、4つのRCT 45万9000人、follow up10年で検証しています。また、1000人スクリーニングして1人大腸癌死亡を減らすのにどのくらいかかるかを検証しています。結果ですが、S状結腸鏡自体の大腸癌関連死亡に対する効果はRR 0.69-0.78。1000人スクリーニングして1人大腸癌死亡を減らす為にかかる年数は9.4年でした。
(本文より引用)
便潜血よりやや良い結果でした。1000人スクリーニングで1人死亡回避の根拠となっているのは合併症頻度でして、S状結腸鏡の合併症が1万人に3人、全結腸内視鏡だと1000人に1人となるので、それよりも効果が上回る数値として設定されていました。ただ、editorialでは高齢者になると大腸癌罹患率が増えるので、もう少し効果が高まる可能性についても言及しています。あくまで健診スクリーニングの話題なので、症状やリスクがある人に関しては個別対応が必要ですし、余命の推定という部分にも課題が残りそうです。健診の研究で個別の患者を想定してしまうと分かりにくく、医療経済的なマクロの視点がないと感情的にモヤモヤが残るな・・・というのも個人的な印象ではあります。
✓ 健診を行うに当たってはlag timeを意識する。S状結腸内視鏡検査の大腸癌死亡への影響は10年程度経過すると効果が得られてくる
■Lancet■
股関節手術を老年科病棟管理
Comprehensive geriatric care for patients with hip fractures: a prospective, randomised, controlled trial*4
これもある意味ホスピタリストとしての流れでしょうか。なんかそのうちGeriatric hospitalistみたいに細分化されないかなあとちょっと怖い。股関節の骨折の患者さんは本当に多くて、自分が訪問診療している患者さんでも時折院内でお会いして、「あ〜やっちゃったんですねえ・・・」みたいなことがありますが。過去の研究では、術後管理を整形外科が行うよりも老年医が行う方が患者アウトカムが良かったというRCTが複数報告されています。今回の論文では、術後ではなく、受診時(救急外来等)から包括的に老年科医および老年科病棟が診療を担当したらどうか?というのが検証内容です。
論文のPECOは、
P:ノルウェーの70歳以上股関節骨折患者連続397人
もともと自宅に住んでいて、骨折前に10mは歩ける人を対象
E:老年科病棟での包括的ケア(整形外科は骨のみ評価、術後はルーチンでは来ない)
C:整形外科病棟での通常ケア(老年科医はルーチンに来ない)
O:4ヶ月後の合併症をShort Physical Performance Battery:SPPB(0-12点)で評価
T:単一施設RCT
結果:
平均年齢83歳、一人暮らし60%、Charlson comorbidity score 2.3点
プライマリアウトカムのSPPBは老年科病棟包括管理の方が0.74点改善(0.5点以上を臨床的に有意と設定)
セカンダリーアウトカムの12ヶ月後MMSEは1.4点改善、QOLスコアも改善
入院期間は平均1日長くなったが、自宅退院率が増加 25% vs 11%
有意差はついていないが、医療費も改善傾向。
(本文より引用)
結構差があるんだなあと実感。ただ、単一施設のRCTですからねえ。今後、こういった包括的な高齢者ケアが提供出来る病棟をいかに作り上げていくことが出来るかが病院にとってかなり重要な課題の一つになります。老年整形・整形内科の時代が来るでしょうか。当院では横断チームを始めようという段階です。今回の施設では、老年科病棟の特徴は看護師や作業療法士の数が多いことが分かっていますが、昨今の地域包括ケア病棟は、看護師を減らす流れです。こういったところに人材を確保していきたいのですが・・・
✓ 70歳以上の股関節骨折患者の診療は手術以外は、老年科病棟の包括的チームで行った方が身体スコア・QOLスコアともに良好だった
難治性高血圧への総腸骨動静脈吻合
Central arteriovenous anastomosis for the treatment of patients with uncontrolled hypertension (the ROX CONTROL HTN study): a randomised controlled trial*5
難治性高血圧に対する対処の話題。まずは、難治性高血圧の定義ですが、3種類以上の降圧薬を2週間以上使用してもコントロール出来ない高血圧と定義されています。臨床的に高血圧治療患者の48%は目標血圧に達していないという報告もあり、いかに血圧コントロールを行っていくかは課題になります。また、難治性高血圧に対する様々なデバイス治療も検証されていますが、質の高いRCTでの検証は十分とは言えません。今回は総腸骨動静脈吻合による高血圧に対する効果を検証したRCTです。
論文のPECOは、
P:18-80歳の難治性高血圧83人
3剤以上の降圧剤を2週間以上内服かつ診察室血圧≧140mmHgかつ日中血圧平均 sBP≧135・dBP≧85mmHg
E:総腸骨動静脈吻合
C:コントロール(shamなし)
O:6ヶ月後の診察室血圧と24時間血圧
T:RCT
結果:
平均60歳、5剤以上の降圧薬使用が50%、平均血圧は収縮期175mmHg、拡張期100mmHgだった。
プライマリアウトカムの6ヶ月後の診察室血圧は20mmHg低下した。
合併症として静脈狭窄が28%に発症
(本文より引用)
うーん、血圧は下がるようだけどそれで良いのか?という結果。そもそもアウトカムはサロゲートなので、長期予後など全く不明です。もちろん、RCTでの降圧効果は劇的であり、editorilaでもlandmark trialだと言っていますが、今回の問題はshamをおいていないことと合併症の多さですね。今後の長期予後も含めた検証が必要ですが、デバイスや手技はやや不安が残りますねえ。
✓ 難治性高血圧患者に対する総腸骨動静脈吻合の降圧効果は6ヶ月後で20mmHg前後
乳癌検診の過剰診断パンフレット
Use of a decision aid including information on overdetection to support informed choice about breast cancer screening: a randomised controlled trial*6
乳癌の過剰診断について。日本では某K先生などが登場してしまったため、過剰診断と医療不要論が極端に結びつきすぎている嫌いがあります。もう少し、両者の言い分の擦り合わせが出来るのが良いと思います。あまり良い悪いで切れないのですが、全ての医療を拒否する必要も無いでしょうし、かといって全ての検診がメリットがあるわけも無い訳です。医療者は、”検診万歳”、”人間ドック万歳”に擦り込まれすぎていることに自覚的であるべきですし、本来は十分な検証された項目を健診として行うべきです。極端な意見ではありますが、検証されていない検診は巨大な国家規模の臨床試験とも言えなくも無いと思います。
前置きが長くなりましたが、今回は乳癌検診の過剰診断に対するパンフレットを用いた患者教育ツールについてのRCTです。論文のPECOは、
P:48-50歳女性879人
最近2年間MMG受けていない患者で乳癌既往なく、リスクも少ない女性
E:過剰診断について詳しく記載されたパンフレット配布群
C:通常のパンフレット配布群
O:3週間後のinformed choice評価:①適切な知識、②態度、③介入
T:RCT
結果:
平均年齢50歳、もともとスクリーニングをするという気持ちの方は90%程度
ベースラインの健診知識は同等で、健診へのpositiveな態度26/30点
介入群でinformed choiceは介入群 99/409(24%)、コントロール群 63/408(15%)と有意に介入群で高い結果。
過剰診断に対する知識は有意に上昇し、スクリーニングを受けることを絶対的とする方の割合は減少
害の可能性がある、不安や葛藤といったアウトカムは両群で差は無かった。
(使用パンフレットより引用)
やはり、この様に科学的に検証したいですね。それにしても用いられたパンフレットは非常に分かりやすいです。一度是非全文を。この様なパンフレットを検診時にお渡しできると理想ですね。「○○歳になったら○○」みたいな安易なプロパガンダのみという訳にはいかないですよね。もちろん、このことをいかに分かりやすく啓蒙するかが重要なのですが・・・
SNS上でぶちまけたり、テレビで声高に意見のみを述べたとしても、そこに科学的裏付けがあるかが必要だと思います。そのプロセスを抜きにして感情論のみでこの問題を語るべきでは無いと思います。多くの患者は医療者の勧めは価値があるものと信じていますから。バランスのとれた正確な情報を知ってもらう事が重要です。
✓ 乳癌の過剰診断に関する情報を盛り込んだパンフレットを配布することは、乳癌検診についての患者知識を深めるが、過度に不安を煽ることは無かった
*1:http://www.bmj.com/content/350/bmj.h1551
*2:http://www.bmj.com/content/350/bmj.h1825
*3:http://www.bmj.com/content/350/bmj.h1662
*4:http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2814%2962409-0/abstract
*5:http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2814%2962053-5/abstract
*6:http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2815%2960123-4/abstract