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前人未到の3700勝越え、46歳・武豊が騎手を続ける理由――「競馬より面白いものは他にない」

週刊SPA! 5月2日(土)13時51分配信

「競馬より面白いものは他にない」と46歳の武豊は言う。’87年のデビュー以来、数々の大レースを制し、空前の競馬ブームを迎えた’90年代、時代の寵児として頂点に君臨した彼を人は“天才”と呼んだ。数々の栄光、そして騎手生命を脅かす大怪我を乗り越え、前人未到の3700勝を達成。なお尽きることない情熱、その原動力はどこにあるのだろうか?

※今年の3月28日、デビュー28年目で中央競馬通算3700勝を達成。武以前の最多勝利数は岡部幸雄(元騎手)の2943勝

――武さんといえば、日本の競馬史に残る数々の名勝負を繰り広げてきたわけですが、10代からご自身のターニングポイントになるようなレースや馬を振り返ってください。

武:まずスーパークリーク(※)で勝った菊花賞は大きかったですね。自分というよりも周りが変わったというか。新人のぽっと出で勝ってはいましたけど、競馬関係者のなかには僕のことを半信半疑で見ている人も少なくなかったと思います。あのレースで一気に風向きが変わったのは覚えています。「あれ、こいつ本物かも」って認められたというか。

※スーパークリーク

菊花賞ほか、天皇賞(春、秋)を制したオグリキャップのライバル

――20代はどうですかね。やはりマックイーン(※)でしょうか?

※マックイーン

メジロマックイーン。GI4勝で獲得賞金総額10億円は当時の世界記録

武:難しいですね。スペシャルウィークでダービーを勝った(※)のも20代でしたから。本当にバタバタしていてあっという間でしたね。10年区切りで考えると一番いろいろなことがあったかな。

※スペシャルウィークでダービーを勝った

GIレースの中でも最も名誉とされる日本ダービーを’98年に制す。GI4勝

――GIに至るまでのレースで若い馬に競馬を覚えさせるなど、単純に勝つだけではない、先を見据えるレースをしてきたことが多くのGI制覇につながっていると思います。

武:目の前のレースはもちろん大事ですよ。でも目の前のレースに勝ちながら、先を見据える騎乗をするということは常に意識しています。

――そうやって積み上げられた武さんの集大成が30代で出会ったディープインパクト(※)だったと思います。

※ディープインパクト

’05年、史上2頭目の無敗の三冠馬となる。GI7勝。凱旋門賞にも挑戦

武:そうですね。イメージしていた理想の馬にようやく巡り合えた感覚です。36歳のときですが、もしあの馬に出合ったのが7〜8年前だったら、あそこまで勝てなかった。

――ポーカーフェイスの武さんでもさすがにディープのときはプレッシャーがあったと?

武:どんなときもプレッシャーはありますよ。ないって言っている人は強がっているか、無神経かのどちらか(笑)。僕はプレッシャーをマイナスだとは思っていない。それがあることでより注意深く、ひとつひとつの作業を大切にしますから。

――40代になって’10年に落馬事故でご自身初めての長期離脱(4か月)を余儀なくされました。過去にも怪我はありましたが、それまでとは違った心境だったのでは?

武:もうちょっと早く復帰できるかと思ったんですけどね。いつまでたってもまったく肩が上がらなくて困ったなって。ただ、落ち込むこともありましたけど、それ以上に怪我してなかったら、あの馬であのレースにいけたなぁとか考えていましたね。あとは一日も早く復帰するために今やれることをするしかないですから。

――復帰してからは勝ち星が思うように挙がらなかったと思います。

武:ちょっとしたことから歯車が狂いましたね。結果が出ないから強い馬の騎乗依頼も来なくなって、さらに勝てなくなる悪循環。僕の代わりに若い騎手や外国人騎手がポンポン勝ったらそっちのほうがイメージいいじゃないですか。日本人は新しいものと舶来が大好きですから(笑)。

――思うように勝てない時期は落ち込むこともあったそうですが?

武:そうですね。でも考え込まないようにしましたよ。たとえ結果が出なくても自分が変わっちゃだめだって。他人への接し方も勝っているときと変わらないように心がけていましたから、外から見た僕は暗くなかったんじゃないかな。ただ、頑張るしかないって。一からやり直すとか、自分のスタンスは変えることはなかったです。二十数年やってきて、結果を残してきたという自負はあるし、もちろん驕るわけじゃないけど、このままで大丈夫だって。

――怪我から2年、久々にGIを勝つと、’13年にはディープの子であるキズナ(※)でダービーを制覇。その後も勝ち星を積み重ねて中央競馬の最多勝利記録を更新しています。

※キズナ

’13年のダービー馬。今週末の天皇賞(春)にも出走予定。父が果たせなかった凱旋門賞制覇の期待も

武:この仕事を辞めたいと思ったことは一度もないです。子供の頃から好きだったことを仕事にできて幸せだって。怪我で休んでいるときでさえ、競馬が楽しみで全レースをテレビで観てましたから。自分は乗れないし馬券も買えないのに(笑)。

※このインタビューは週刊SPA!5月5・12日合併号のインタビュー連載「エッジな人々」から一部抜粋したものです

【武豊/Yutaka Take】

’69年、京都府生まれ。競馬騎手。’87年に騎手デビュー以後、日本競馬史に残る数々の記録を打ち立てる一方、国民的スターホース・オグリキャップ、奇跡のラストランや世界最高峰のレースである凱旋門賞挑戦など競馬ファンの記憶に残る名勝負を演出する“第一人者”

取材・文/大澤昭人(本誌) 撮影/大森忠明

日刊SPA!

最終更新:5月2日(土)13時51分

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