不気味の谷を超えたテクニカルデモ?
先日、サンフランシスコにて開催中のマイクロソフトの開発者向けイベント「Build2015」にて、スクウェア・エニックスが、「WITCH CHAPTER 0[cry]」を公開した。
このテクニカルデモは、引用元サイトGameSparkの説明によれば…
2012年6月に発表された「Luminous Studio」の技術デモ「Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」のメンバーが中心となり、MicrosoftとNVIDIAの協力によって制作されたものです。映像は、「Agni's Philosophy」で登場した女性が泣く姿を映しており、リアルタイムなライティングの変化や肌の質感を解説しています。
ということらしい。
一部メディアでは「不気味の谷を超えた」とまで書かれていたが、実際にデモを見てみると、確かにリアルではあるが、そこまで言い切ってしまっていいのかという部分に関しては疑問が残る。
ちなみに、「不気味の谷」について、わかりやすく解説した文がコトバンクにあったので、引用しておこう。
ヒューマノイドの姿やしぐさをどんどん人間に似せていく場合、ある程度までは親近感が増すが、人間にかなり近づいたところで急に不気味さや嫌悪感が出てくる。この現象を森政弘・東工大名誉教授らが「不気味の谷」と名付けた。
だが、個人的には、こういったリアルなCG(今回は、ロボットに関してはノータッチ)に対して抱く違和感は、ただ姿やしぐさが、人間に近づくことに対しての嫌悪感だけではないのではないかと常々思っている。
人間が知覚できる限界は?
人間の目の分解能はどのくらいなのだろうか?
一説には、動画では秒間60フレームが限界値であると言われている。
だが、正直に言って60フレームの映像を見た所で「滑らかだな」と感じることはあっても、「まるで実写を見ているようだ」とは感じない。違和感を覚える滑らかさなのだ。
2020年に本放送開始が予定されている8K放送では、フレームレートが秒間120フレームになるという話だが、そのくらい滑らかになれば、違和感を感じなくなるのだろうか。こればっかりは実際に見てみないとわからない。
では、解像度の問題なのだろうか?
下記のギズモードの記事によれば、人間の知覚できる限界解像度は、5億7600万画素だという。
5億7600万画素のディスプレイで、秒間120フレームで動く高精細CG映像を見れば、実写と区別がつかないということなのだろうか。いや、話はそんなに単純ではない。
多分、絵面がリアルになるだけでは、不気味の谷を超えることは出来ないのだ。
脳の補完機能と限定された視野。
ギズモードの記事中にもあるように、脳は目で見たものの欠損を補う働きをしている。
それなりのスピードが出ている車に乗っている時に、暗い夜道の脇に立っている道路標識を、人間や霊的なものと見間違えてしまうように、脳は全てを正確に連続した映像として捉えているわけではないのだ。
だが、ディスプレイで動画を見ることに関しては、少し違うように思う。
いくら大きな画面でも、人間の視野全てを覆い尽くすことは出来ないし、画面を見ている間は、視野外の情報を処理する必要性もなくなる。その限定された視野で見ている映像は、脳の補完機能も現実世界と比べれば随分と出番が少なくなる。つまり、作られた映像そのままが脳に入ってくる事になるのではないか。
昔と比べてCGの技術は飛躍的に発展しているし、ゲームなどに使われるエンジンやAIも素晴らしい進歩を遂げている。
だが、実際の人間の動きは、コンピュータで計算されて出力されたものよりも、よりランダム性があり、ブレもある。冒頭のスクウェア・エニックスのテクニカルデモからは、そういった「生々しさ」がまだまだ感じられないのだ。
そして、人間の視野から比べればずっと小さな表示領域であるデイスプレイを通して見ると、脳の補完機能が生の映像ほど働かないせいで、余計に「機械的な滑らかさ」が目立ってしまう。これが、CGがいつまで経っても超えられない「不気味の谷」の正体なのではないかと、個人的には思う。
出力装置のブレイクスルーがないと不気味の谷は超えられない。
実際のところ、本物の人間そっくりの映像を作るだけなら、近いうちにそれは可能だと思う。今回のスクウェア・エニックスのテクニカルデモも、かなりのところまで迫っているわけだし。
だが、本当に不気味の谷を超えたいのならば、おそらく必要なのは、人間の視野すべてを覆い尽くす映像出力装置と、「高精細で高フレームレートのCG」と、「動きにブレやランダム性がある、生々しいモーション」なのではないか。
現在のテクノロジーでは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が最適解なのかもしれない。
現に、ソニーは「ProjectMorpheus」を、マイクロソフトも「Microsoft HoloLens」で似たような仮想現実を提供しようとしている。だがHMDは、「頭にかぶる」という性質上、シチュエーション的にすでに非現実である。
おそらく、この問題は、例えば「スター・トレック」に登場する「ホロデッキ」のような、立体映像投影装置が開発されるまで解決されないのではないかと思っている。
あのドラマは24世紀が舞台だった。
自分の目の黒いうちは、まだまだ不気味の谷は超えられそうにない。
※論理的ソースも何もないハナモゲラ考察なので、科学的に間違っている可能性が多いにあることを、最後に記しておきます。