[PR]

■憲法記念日 朝日新聞社世論調査

 「21世紀の日本と憲法」をテーマに、憲法のあり方や、憲法が唱える「健康で文化的な最低限度の生活」などについて尋ねた郵送世論調査。「不平等社会日本」などの著書がある佐藤俊樹・東京大教授(社会学)に、朝日新聞社世論調査の結果を分析してもらった。

 憲法と格差は、議論がちょうど一巡したところで、世論が今どう考えているかがわかる。何よりも明確に出ているのは、かつての左と右の対立が、もはや存在しないということだ。

 この点については、憲法がわかりやすい。かつては「護憲」と「改憲」、自衛隊「否定」と「肯定」、日米同盟「反対」と「賛成」、の軸で対立していた。

 しかし、今回の調査でみると、憲法の部分的な手直しはしてもよいが、9条関連の改正は「必要なし」、自衛隊は「肯定する」という共通意見がむしろあるようだ。質問していないが、恐らく日米同盟についても「支持」が共通意見に近いのではないか。

 同じことが格差にも言える。格差にもいわゆる右と左の対立があった。「市場原理主義」か「市場経済反対」か。「富裕層が豊かさを先導する」か「手厚い社会保障を満遍なく」かの対立軸だ。調査からは、こうしたかつての対立が、もはや存在しないことが浮かび上がってくる。

 世論は、富裕層が豊かさを先導するとは考えておらず、再分配やセーフティーネットはもっと必要だと考えている。一方で、次世代に借金を先送りしない「財政規律条項」を憲法に加えることも一定の支持を集めている。つまり、セーフティーネットを充実させるあまり、国の借金が増え続け、財政破綻(はたん)を招くことにも反対なのではないか。

 その点では、政治家や政党より、国民の方が現実的になっているようだ。憲法で言えば、日本に対する武力行使はありえるから、備えは必要。「積極的な平和主義」にもさほど抵抗はない。でも戦争には踏み出したくない。

 格差で言えば、市場経済にただ任せているだけではだめで、今はまだ格差は大きくないが、何もしなければ機会の不平等までどんどん拡大していくと危惧している。その危機感は強いが、何でも社会保障で支援することまでは無理だとも感じている。

 それが政権への態度にも出ているようだ。安倍内閣と自民党への支持は底堅い。既存の政党の中では現実路線に一番近いし、その手腕も認めるとの評価だろう。しかし、その一方で「声は届いていない」。憲法より政治が「遠い」。いわば強固で、かつ消極的な支持という、一見、不思議な回答になっている。

 憲法の手直しでも、世論は、国会の仕組みの改善を一番望んでいる。現実的な世論自身とかつての左右の対立にこだわりすぎている政権との間に、距離感をおぼえながらも、現実的なだけに、なかなかうまい解決策がないことへのもどかしさは実感している。

 その距離感ともどかしさが、強固で、かつ消極的な支持に表れているように見えた。