北海道新聞は、4月25日付朝刊で「慰安婦問題 『法的責任』は求めず 韓国・挺対協 従来方針を転換」と見出しをつけ、慰安婦問題の支援団体である韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が日本政府に「法的責任」に基づいた対応を求めてきた従来の方針を転換したと報じた。しかし、5月1日付朝刊で、見出しを「慰安婦問題 『法的責任』内容を説明 韓国・挺対協 解決の方向性を提示」に訂正し、本文の記述も一部削除するなどしておわびした。挺対協の尹美香(ユン・ミヒャン)共同代表らが北海道新聞社に抗議と訂正要求をしていた。
記事はニュースサイトにも掲載され、大きな反響を呼んでいたが、現在は削除されている。
記事本文の冒頭には「旧日本軍の慰安婦問題をめぐる韓国最大の支援団体・韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が、日本政府に対して立法措置による賠償など『法的責任』に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換したことが分かった。代わりに『政府と軍の関与の認定』や『政府による賠償』などを盛り込み、要求を緩めた」と記されていたが、訂正記事では、この部分を「…日本政府に対し慰安婦問題の解決に関しとるべき方向を提示した」に改めた。
また、「挺対協はこれまで、日本政府の『法的責任』を追及し、《1》慰安婦制度を犯罪事実として認定《2》国会決議による謝罪《3》法的賠償《4》責任者の処罰―などの対応を求めてきたが、犯罪としての扱いは求めず、立法措置も除外した」という記述のうち、「犯罪としての扱いは求めず」の部分を削除。さらに、「尹代表は『(法的責任を直接追及しなくても)提案内容で、実質的に日本の法的責任を明確にできる』とした」の部分も、「尹代表は『法的責任の内容というものは提言の中に込められている』とした」に訂正した。
北海道新聞2015年4月25日付朝刊9面
慰安婦問題、日本に「法的責任」求めず 韓国・挺対協、従来方針を転換 http://t.co/1PcgwmEI6A
— 北海道新聞 (@doshinweb) 2015, 4月 25
北海道新聞2015年5月1日付朝刊5面
記事には明記されていないが、4月23日に参議院議員会館で開かれたシンポジウム「『慰安婦』問題、解決は可能だ!」に挺対協の尹代表らが出席して慰安婦問題解決策について見解を発表しており、この内容を記事化したとみられる。
尹代表はこのシンポジウムで「日本軍『慰安婦』問題解決に」と題する文書を発表。挺対協はこれまで、日本政府に①犯罪の認定、②真相究明、③国会決議による謝罪、④法的賠償、⑤歴史教科書への記述、⑥慰霊碑と資料館の建設、⑦責任者処罰の7項目について「立法を通した解決」を求めてきたが、尹代表は2014年6月に日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議が採択した提言について「まさに私たちが求める解決の内容でした」と評価した。この提言は、日本政府・軍による慰安所設置等への関与や重大な人権侵害などの事実と責任の認定、公式な謝罪や被害者賠償などを求めたもので、挺対協が掲げてきた7項目要求のうち③国会決議による謝罪や⑦責任者処罰以外はほぼ反映されていた。
また、尹代表は、シンポジウムで「この提言で言及したものが法的責任の内容だ」と発言し、日本政府に「法的責任」に基づく対応を求める基本姿勢を改めて示していた。挺対協のホームページも、4月30日現在、7項目要求は修正されていない。安倍晋三首相の米国連邦議会上下院合同議会における演説に対する声明(4月29日発表)にも「日本政府は日本軍『慰安婦』犯罪に対する国家的責任を明白に認め、法的責任を履行せよ」などの文言が入っている。
シンポジウム「『慰安婦』問題、解決は可能だ!」の動画(2015年4月23日、参議院議員会館)
※尹代表の「日本軍『慰安婦』問題解決に」と題する文書は動画の最後に掲載あり(三輪祐児氏より許諾を得て転載)
尹代表らは北海道新聞社に4月28日付で訂正要求書を提出。挺対協が「『法的責任』に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換した」という記述について「全面的に間違っている」とし、「犯罪としての扱いは求めず、立法措置も除外した」という記述のうち「犯罪としての扱いは求めず」という部分も誤りと指摘していた。尹代表が賛意を示した2014年6月の提言には、従来要求していた「責任者処罰」は盛り込まれていないが、「国内法・国際法に違反する重大な人権侵害」の認定は盛り込まれており、「犯罪としての扱いは求めず」という記述は不正確といえる。他方、7項目要求にはもともと「立法措置」は明記されていないが、「立法措置も除外した」という表現については誤りと指摘していないことから、国会での立法措置にこだわらない姿勢を示したと解釈することもできる。
2015年4月25日付貴紙の「慰安婦問題、日本に『法的責任』は求めず 韓国・挺対協、従来方針を転換」の記事は、基本的に誤っています。速やかに貴紙紙面で訂正文を掲載された上で、韓国挺身隊問題対策協議会に連絡をくださるようお願いします。
1. 記事の以下の部分は誤りです。
「旧日本軍の慰安婦問題をめぐる韓国最大の支援団体・韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)が、日本政府に対して立法措置による賠償など『法的責任』に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換したことが分かった。代わりに『政府と軍の関与の認定』や『政府による賠償』などを盛り込み、要求を緩めた。」
これは、4月23日に参議院議員会館で開かれた「『慰安婦』問題、解決は可能だ」シンポジウム及び記者会見を受けての記事と考えられますが、このシンポジウム及び会見で、挺対協の尹美香代表は「2011年11月30日、日本軍『慰安婦』問題に関する韓国の憲法裁判所判決以降、韓国社会では日本軍『慰安婦』問題に対する日本政府の法的責任と解決に関する議論がさらに活発化しました。そして、これまでに要求してきた『法的な解決』とは具体的に何なのかに関する議論も始まりました」と発言し、そのような議論の結果として「2014年4月10日には韓国市民社会の要求書を発表するに至り」、また2014年6月の日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議で「日本軍『慰安婦』問題解決のために日本政府に提出する提言が採択されましたが、まさに私たちが求める解決の内容でした」と発言しています。
また、記者会見では「尹代表の発言からすると法的責任をきちんと認めなければいけないということだが、それぞれのスピーカーが法的責任をどう位置づけているのか聞きたい」という質問があり、これに対して日本軍「慰安婦」問題解決全国行動の梁澄子共同代表は「(シンポジウムでの)発言の中で繰り返し言ったように、私たちは法的責任とは何かという議論の結果としてこれ(提言)を導き出している。結果的に『法的責任』という言葉は書き込まれなかったが、それは、4項目に集約した『事実と責任』を加害国が認めれば、即ち法的責任を認めたことになる、と考えたからだ。つまり、法的責任の中身を具体的に語っているのであって、法的責任の4文字がないからといって、法的責任をとらなくていいとは全然言っていない」と答えています。
また、尹代表は「提言で言及したものが法的責任の内容だ。つまり法的責任の内容、解決への道、枠組みを立法解決という器に入れれば立法解決を通して法的責任が履行されるのであり、閣議決定を通してやれば閣議決定という器を通して法的責任が履行される。結局は法的責任の内容は何かということが、この提言の中に込められているということだ。この提言は大きな枠組みで見た時に、法的責任の内容がそのまま、この枠に含まれている、解釈されていると理解してもらえればいいのではないか」と答えています。
つまり、挺対協が「『法的責任』に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換した」という記述は全面的に間違っているのです。「代わりに『政府と軍の関与の認定』や『政府による賠償』などを盛り込」んだのではなく、日本政府がとるべき「法的責任」の具体的な内容として、それらを盛り込んだのです。
従って、表記部分の訂正を求めます。2.とりわけ、記事の中で「(挺対協は)犯罪としての扱いは求めず、立法措置も除外した」というくだりで「犯罪としての扱いは求めず」という部分には、記事の深刻な誤りがあります。
さらに、「尹代表は『(法的責任を直接追及しなくても)提案内容で、実質的に日本の法的責任を明確にできる』とした」という部分も、尹美香代表が直接言ったかのように記事を書いていますが、この発言は当日の集会では誰もしていない発言であり、とりわけ尹美香代表の発言ではありません。実際に当日の院内集会の現場で直接取材し記事を書いたのではなく、取材もしないで記事を書いたということがここに露呈しています。明らかに、挺対協の尹美香代表に対する名誉毀損であり、日本軍「慰安婦」問題の解決に対する妨害と見なさざるをえません。
従って、この記事の誤りにつき訂正報道をおこない、挺対協の尹美香代表へ謝罪するよう求めます。韓国挺身隊問題対策協議会
共同代表 ユン・ミヒャン ハン・グギョム キム・ソンシル女たちの平和と戦争資料館(WAM)
韓国挺身隊問題対策協議会の7項目要求
- 安倍総理の米国合同演説に対する挺対協声明 (韓国挺身隊問題対策協議会 2015/4/29)
第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議の日本政府への提言(2014年6月2日)
日本軍「慰安婦」問題解決のために日本政府は
1.次のような事実とその責任を認めること
① 日本政府および軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置し管理・統制したこと
② 女性たちが本人たちの意に反して、「慰安婦・性奴隷」にされ、「慰安所」等において強制的
な状況の下におかれたこと
③ 日本軍の性暴力に遭った植民地、占領地、日本の女性たちの被害にはそれぞれに異なる態様
があり、かつ被害が甚大であったこと、そして現在もその被害が続いているということ
④ 当時の様々な国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であったこと2.次のような被害回復措置をとること
①翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪すること
②謝罪の証として被害者に賠償すること
③真相究明:日本政府保有資料の全面公開 国内外でのさらなる資料調査 国内外の被害者および関係者へのヒヤリング
④ 再発防止措置:義務教育課程の教科書への記述を含む学校教育・社会教育の実施 追悼事業の実施 誤った歴史認識に基づく公人の発言の禁止、および同様の発言への明確で公式な反駁等女たちの平和と戦争資料館(WAM)
- 韓日関連団体の挺対協と全国行動 既存の要求を緩和…日本政府の対応に注目 (韓国紙ハンギョレ新聞 2015/4/25)
※注 ハンギョレ新聞の記事について、4月23日のシンポジウムに参加した日本軍「慰安婦」問題解決全国行動・梁澄子代表は、日本報道検証機構の取材に対し、次のようにコメントしている。
法的責任をめぐる既存の要求を多少緩和したもの」とした部分が不正確です。今回の提言は要求の「緩和」ではなく、あくまでも「具体化」です。また、「これまで挺対協は、日本の国会決議による謝罪、日本政府の法的責任を認めること、責任者の処罰など7大要求事項を掲げてきたが、今回の新しい解決策では、これらを除外した」という文中で「日本政府の法的責任を認めること」を「除外した」としたのは誤りです。
- (初稿:2015年5月1日 19:48)