社説:NHK「クロ現」 自らを律し関与許すな
毎日新聞 2015年05月01日 02時30分
NHKは報道番組「クローズアップ現代」(クロ現)で「やらせ」が指摘されていた問題について、事実の捏造(ねつぞう)につながるやらせはなかったという最終報告を公表した。
「過剰な演出」や「視聴者に誤解を与える編集」が行われていたことは認めながら、やらせを否定した結論は分かりにくく、視聴者の理解が得られるか、大いに疑問がある。
問題の番組は昨年5月14日に放送した「追跡“出家詐欺”〜狙われる宗教法人〜」。多重債務者がブローカーを介して、出家の儀式を受け、戸籍名を変更して融資をだまし取る手口を紹介した。番組でブローカーとされた男性が「やらせがあった」と告発し、NHKが調査していた。
NHKは取材・制作の基本姿勢を明記した「放送ガイドライン」で、事実の再現の枠をはみ出して、事実の捏造につながるやらせなどは行わないことをルールとしている。
加えて今回、外部委員3人は、制作側の意に沿う結果を得るために故意に手を加えたり、データを改ざんしたりするなど、ありもしないことを事実のように作り上げることや、登場人物を仕立て、示し合わせて演技し、事実であるように見せかけた場合を、典型的なやらせとした。
報告書はそのうえで、多重債務者とされる男性を記者が追いかけ、取材する場面などについて、事実を伝えるより、決定的なシーンを撮ったように印象づけることが優先され、過剰な演出が行われたと指摘した。
テレビは映像が重要で、社会通念上許される演出はあり得る。だが、過剰演出とやらせの違いは一般には理解しにくい。担当記者と多重債務者の男性は8年前から知り合いで、出家詐欺の番組以外に二つの番組に匿名で出演していたことなど、想像もつかないのではないか。
NHKをめぐっては籾井勝人(もみいかつと)会長が公共放送のトップとしての資質を疑わせる言動を繰り返し、私用ハイヤー代立て替え問題でNHK経営委員会は3度目の注意を行った。自民党が、NHKとテレビ朝日の幹部に事情を聴く異例の事態もあった。
政府による検閲、監督は許されないし、自民党の関与は行き過ぎだ。一方、放送局の自律は重んじられるべきだが、放任されているわけではない。
放送法は、国民生活に資するよう表現の自由を行使することを期待している。今回の番組テーマに意義はあるにしても、手法のまずさが「介入」の口実を与えたのではないか。
番組でブローカーと報じられた男性は放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に審理を申し立てている。NHKは再発防止策を徹底しながら良質な番組を作ることでしか信頼は取り戻せない。