将棋:電王戦棋士側勝利呼んだ「わざと隙見せる作戦」

毎日新聞 2015年04月11日 21時54分(最終更新 04月12日 00時36分)

電王戦の成績
電王戦の成績

 将棋のプロ棋士とコンピューターソフトが5対5で対戦する「電王戦FINAL」の第5局が11日、東京・将棋会館であり、阿久津主税(ちから)八段(32)が開始からわずか49分、21手で「AWAKE」(巨瀬亮一氏開発)に勝ち、棋士側が3勝2敗で、3年目で初めて団体戦で勝ち越した。序盤戦で「AWAKE」の形勢が不利になることがはっきりし、巨瀬さんが投了を宣言した。

 事前研究を重ねた阿久津八段は、自陣に隙(すき)を作る珍しい形にソフトを誘導した。これが、ソフトに2八角を打ち込ませた後に、その角を奪って優位に立つ作戦だった。「普段指していない戦法だが、団体戦ということもあり一番勝率の高い形を選ぶべきだと思った」

 巨瀬さんは「(作戦を)2月に行われたイベントで初めて知った。(角を打ってしまったのは)玉の近くに馬ができる評価関数を過大評価していたため。(ショックだったが)こういう穴があるのは仕方がないところもある」と敗因を語り、「(2八角に)1六香と指されたら投了しようと思っていた」と振り返った。巨瀬さんは元奨励会員で、明らかに不利な局面から指し続ける気持ちになれなかったのだろう。阿久津八段は「素直にうれしい感じではないが、(団体戦勝利は)とりあえずよかったと思う」と話した。【山村英樹】

 ◇谷川浩司日本将棋連盟会長の話

 第5局は、開発者が奨励会経験者としての矜持(きょうじ)で投了を決断されたのだと思う。ソフトは長所と短所が表裏一体ということもあり、苦労されているのがわかる内容だった。棋士の勝ち越しにほっとしている。対局者それぞれの詳細な研究の成果だと思う。

 ◇ソフトにはない「勝ちへのこだわり」が結実

 ソフトの意外な投了で幕を下ろした第5局が象徴するように、今回は棋士が勝負師としての本領を発揮し、攻略法を駆使して勝ち取った勝利と言える。

 3月14日から繰り広げられてきた「電王戦FINAL」は、棋士側が3勝2敗で勝利。連敗からようやく一矢報いて、ソフト対棋士の勝負は決着を見た。

 ソフトは、年々改良されて進化していく。開発者のたゆまない努力と、競い合いによって切磋琢磨(せっさたくま)する姿が人間同様にある。

 今回の第4局で、棋士側の作戦をかわして少しずつポイントを重ねていく勝利は、棋士の研究の限界を感じさせた。同時にソフト側が終盤戦で上回るだけではなく、「弱点」とされた序・中盤でも相当な強さを発揮できることが明確となった。

 しかし、若手強豪を集めた今回の棋士側も「半年間研究した」と口をそろえる。第1局でもソフトの傾向を意識した指し回しで先勝、第2局では内容面でも有利に進めて、最後には発見していたソフトのバグ(穴)で決着をつけるなど戦果をあげた。しかし、順位戦など本来の対局に追われる中での研究には「限界」もあった。

 一連の取材で、対ソフト戦での完璧な勝利を求めるのは難しいと実感する。こうした環境での今回の勝利は、ソフトにはない「勝ちへのこだわり」が結実したのではないか。

 一方、棋士の日常の対局でも、ソフトに由来する新手や新構想を採用して、局面を有利に導くことも少なからずあるようになった。将棋界にとってプラスといえるが、「人間がコンピューターに劣る」と短絡的に見られてきたマイナスもある。今後のソフトの進化、将棋界に与える影響に改めて注目していきたい。【山村英樹】

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