腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、Laparoscopic Surgeryは痛みが少なく傷が目立たないなど、患者様にとってメリットのとても多い手術です。近年の器械と技術の進歩により腹腔鏡で手術できる病気は大幅に増加していて、我が国でも年々盛んになっています。一方で、腹腔鏡特有の合併症も増加しており、残念な新聞報道も見受けられます。
日本医科大学付属病院女性診療科では1970年代より腹腔鏡手術を開始し、安全な術式のための工夫を重ねてきました。その長い経験から生まれた以下のような特徴があります。
●1990年以来1500例以上の腹腔鏡下手術を行ってきています
●日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医を3人有し、医局員の指導にあたっています
●ベーシックな手術から先進の術式まで、あらゆる婦人科の手術を行っています
●気腹法や腹壁吊り上げ法(腹腔鏡手術はこの二つに大別されます)を術式により使い分けるなど、症例に応じたフレキシブルで安全な手術を確立しています以下に、患者様から寄せられるご質問に答える形で当科における治療指針をご説明致します。
Q1:腹腔鏡とは
Q2:腹腔鏡手術のメリット
Q3:腹腔鏡手術のデメリット
Q8:入院期間とその後のスケジュール
Q9:入院の費用
腹腔鏡とはお腹の中をみる内視鏡のことです。お臍と左右下腹部に3〜4カ所5mm〜1cmの小さな穴を開け、炭酸ガスを入れたりお腹を吊り上げたりしてスペースを作り、そこから筒状のスコープや器具を入れて手術を行います。術式によっては、陰毛で隠れる部位に2〜 3cmの小切開を加えることもあります。
傷が小さく、スコープで病変部を拡大できるので、次のようなメリットがあります。
1.手術の傷が目立たず、美容上優れます
2.術後の痛みが軽減されます
3.治りが早く、入院期間が短くなります
4.早期に社会復帰できます
5.術後の癒着が少なく、妊娠しにくくなりません
6.細かい操作ができるので、出血が減ります
開腹手術と較べて時間がかかりますが、安全に行えれば、デメリットはありません。ただし限界もありますので、そのような時は、開腹手術に変更して対処します。主な開腹手術への変更の理由は以下の通りです。
1.手術中に予期できない出血があったとき
2.強い癒着があり、安全な手術ができないとき
3.腸や膀胱などが傷つき、その補修に手指による手技を要するとき
4.卵巣悪性腫瘍が見つかったとき当科ではこの10年間で7例(0.5%)が主として癒着のために開腹手術に変更となっています。
1.良性卵巣腫瘍
2.子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢胞)
3.子宮筋腫
4.月経困難症
5.不妊症、卵管閉塞症、卵管周囲癒着
6.子宮外妊娠
このように良性の婦人科疾患はほとんどが適応となります。ただし、悪性が疑われる場合や腫瘍が巨大で技術的に困難な場合は、開腹手術が選択されます。
出血、感染、腸管の損傷、膀胱の損傷などがまれに起こることがあります(全部合わせて1/150程度)。また炭酸ガスを使用した場合には、皮下気腫やガス塞栓(1/7,500〜1/60,000)が発生することがあります。さらに術後には体位や電気メス使用に伴う皮膚症状がでたり,創部の感染・離開がおこることがまれにあります。腹腔鏡担当医は麻酔医と協力して合併症の予防に努めていきますが、どのような手術でも 100%安全ではないことをご承知おきください。
当科における1996年からの10年間のデータでは、膀胱損傷3例(0.2%)、血管損傷(開腹を要したもの)1例(0.1%)で、補修を要する腸管損傷はありませんでした。
1.まず、腹腔鏡スタッフから手術の説明を受けます2.手術が決まったら、手術が行われる週を予約します
3.手術日までに血液、心電図、胸部レントゲンなどの検査を行い、安全に手術が行えることを確認します4.手術は原則として火、木、金曜日に行われます
麻酔は通常全身麻酔と硬膜外麻酔を併用します。手術前日に麻酔科外来で担当医から麻酔法の説明があります。
術後は通常3-5日目に退院となります。ただし発熱や出血がある場合には退院が延びることもあります。退院2週間後に外来を受診していただき、術後の経過をチェックします。多くの場合、軽い仕事は術後2週間、運動や旅行は術後4週間で可能となります。
入院と手術はすべて健康保険が適応されます。(個室使用料は除きます。)手術の方法により費用は異なりますが、おおよそ50〜65万円で、通常その3割の負担となります。
腹腔鏡手術は患者様にとても優しい手術です。これからはますます盛んになっていくでしょう。不明な点、確認したい点などがありましたら、遠慮なく腹腔鏡スタッフまでお申し付けください。
低侵襲手術について
日本医科大学では、他施設に先駆けて次のような手術を取り入れています。
1【単孔式手術】
近年の内視鏡手術の進歩によって、これまでの腹部に四カ所の孔をあけて手術を行っていた従来式の内視鏡手術に加え、臍部の孔一カ所のみ手術を行う単孔式手術が可能となってきました。日本医科大学では、2009年度より、単孔式手術を導入し、現在までに、様々な工夫を積み重ね、従来法と比べても引けをとらない安全性と確実性を実現しました。 当施設で行っている単孔式手術をご紹介いたします。図2は単孔式手術のシェーマであります。
図1
図2
このように臍部に内視鏡スコープと2本の手術操作器具が入ります。傷は、Z型になっており、お臍の中に隠れるような形になり、美容上傷が目立たないという利点があります。実際の臍部の傷の写真であります(図3術前、図4術後)。単孔式手術の現在の適応疾患ですが、卵巣摘出術、卵巣嚢腫摘出術、子宮外妊娠、子宮筋腫核出術、子宮摘出術等の一部の患者が対象になります。(患者、術者、機材等の様々な条件がそろわないと単孔式手術は行えないため、必ずしも患者様の御希望で実行できるものではありません。ご了承お願い致します。)
図3
図4
2 【腹腔鏡下仙骨腟固定術】 骨盤臓器脱の新しい低侵襲手術として、腹腔鏡下メッシュ手術を行っています。この非常に優れた術式は、日本においては未だ認知度が低いのですが、欧米においては骨盤臓器脱のゴールデスタンダードな治療法の一つであります。現在、日本医科大学を含めた数施設で行われております。つい最近、この腹腔鏡下メッシュ手術が、腟式メッシュ手術(TVM法)より、多くの点で優れているという研究報告がされました1)。ただし、この術式は保険未収載であるために、自費診療によって行わなければならないという問題点があります。 1) Laparoscopic sacral colpopexy versus total vaginal mesh for vaginal vault prolapse: a randomized trial CF Maher, B Feiner et al. 2011 American Journal of Obstetrics and Gynecology この術式の大きな特徴は、 ① 傷は、図6の様になります。 ② 子宮脱に修復に非常に優れています。 ③ 良好な長期成績のデータがある安心な手術であります。 ④ 性活動を伴う比較的若い女性に対しても適応があります。 ⑤ TVM手術(腟式メッシュ手術)後の再発症例に対しても行えます。 ⑥ 子宮筋腫や卵巣腫瘍等の合併症を持つ患者にも適しています。以上であります。手術の内容子宮のある患者では、子宮亜全摘(子宮の上2/3を切除)を行って腟の前面と後面に、二枚のメッシュを張ります。そして、前方に貼ったメッシュをそのまま頭側に引っ張ってきて腰骨(腰椎と仙骨の間の甲角と呼ばれるところ)につりあげて固定します。(図7,8)
図7
図8
3 【腹腔鏡下子宮体がん根治手術】 子宮体がんに対するメインの治療は手術療法であり、現在一般的に行われている手術療法は、お腹を大きく切って行う開腹手術によるものであります。既に多くの外科領域でのがんの手術は、小さな傷で済む腹腔鏡を使って行われておりますが、婦人科領域におけるがんの腹腔鏡下手術はこれまであまり行われておりませんでした。近年、婦人科領域においても初期の子宮体がんを対象に腹腔鏡下手術が可能となり、2008年7月に「腹腔鏡下子宮体がん根治手術」は先進医療に承認され、2013年8月1日現在、当院を含めて全国で28施設(都内で4施設)が先進医療の実施医療施設として認可されております。(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html 先進医療を実施している医療機関の一覧:40 腹腔鏡下子宮体がん根治手術参照)
一般的な子宮体がん手術では子宮全摘、両側付属器切除、骨盤および傍大動脈リンパ節切除を行います。開腹手術は15-20cmの大きな皮膚切開を必要としますが、腹腔鏡下手術は、これを5-12mmの数カ所の小切開による腹腔鏡下に手術を行う方法であります。この腹腔鏡下子宮体がん根治手術は、開腹による方法と比較して手術による侵襲を大幅に低減することが可能で、術後疼痛の軽減、入院期間の短縮、早期の社会復帰が可能となり、仕事をしているなど早く社会復帰したい人には特にメリットが大きい治療法といえます。また、腹腔鏡を用いることにより、骨盤の深い部分の観察も直視下に行うことが可能であり、出血量の軽減にも貢献できます(表1)。しかし、腹腔鏡下手術は先進医療であり、子宮体がん治療ガイドラインで定められた標準治療ではありませんが、症例を適切に選択し婦人科腫瘍専門医や日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医がチームを作って手術を行えば、がんの予後には悪影響を及ぼさないと考えられております。
(表1)
| 腹腔鏡下手術 | 開腹手術 | |
| 体への負担 | 小さい | 大きい |
| 傷の大きさ | 小さい | 大きい |
| 術後癒着の可能性 | 小さい | 大きい |
| 手術時間 | 長い | 短い |
| 入院期間 | 短い | 長い |
| 健康保険 | 先進医療(自費)+保険 | すべて保険 |
(先進医療の概要および手術料金について)
通常混合診療は健康保険診療では認められておりませんが、先進医療では手術料金とそれ以外の料金が別となる混合診療の形態となります。本手術の手術料金は先進医療分として自費となり、それ以外の治療費は健康保険が適応されるため自己負担分は3割負担(1割負担の場合もあります)となりさらに高額療養制度の対象となります。また、民間保険において先進医療特約に加入されている場合は手術料金そのものが保険支払いの対象となります(補償範囲は保険会社の規定によります)。