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「アクションを制限するUI」で話題の『キャリアトレック』アップデートに見る、スマホにおけるUXのあり方

2015/05/01公開

 
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(写真左から)ビズリーチの岩見直樹氏、グッドパッチの三橋正典氏

2015年4月29日にビズリーチはレコメンド型転職サイト『キャリアトレック』の機能アップデートを行った。変更点は大きく3つ。応募フォームの改修、求人情報のデザイン変更、タブバーの実装だ。

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ユニークなUIと制限された機能が話題を呼んだ『キャリアトレック

そもそも『キャリアトレック』がリリースされたのは、1年前。「スワイプだけで求人マッチングを行う」というコンセプトが話題を呼んだ。

ユーザーは1日に1度、人工知能にレコメンドされた企業情報を、左右にスワイプし、振り分けるというシンプルなUI。気に入った企業情報のみがストックされ、詳細を見ることや選考への応募ができるというものだ。

Web版と合わせ2015年4月時点で、会員数11万人を突破、利用企業は2500社を越えているという。

この「振り分けるだけ」というUIデザイン設計を担ったのは、UIデザインエージェンシーのグッドパッチだ。

なぜ、ビズリーチとグッドパッチは、求人アプリでは例を見ない大胆なUIの導入に至ったのか? そして、今回のアップデートではなぜ前述のような改善を行ったのか。

その理由を、ビズリーチの『キャリアトレック』開発責任者岩見直樹氏とグッドパッチのデザイナー三橋正典氏に聞いた。

振り分けるだけのサービスが生まれた理由

『キャリアトレック』のUIには、グッドパッチから4つのデザイン案が提示されたという。カード型、リスト型、マップ型、そして、当時流行していた位置情報を使った出会い系サービスの『Tinder』に近いデザインだ。

プロトタイプから比較を行うと、カード型と『Tinder』風のUIが残った。

「求人サイトに出ている求人票に、堅い印象を受けていた」と岩見氏が語るように、従来の求人票は資本金や売上高を記載しているものが中心。無機質な印象は否めない。

既存の求人サービスのイメージを一新し、『キャリアトレック』がターゲットとしている“20代に親和性のある”デザインを目指すため、「前例がなく、とにかく分かりやすさを追求する」とチームで議論し、カード型ではなく、『Tinder』のような情報を振り分けるデザインに決定した。

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20代に特化したサービスとして、これまでにないアプリを作ることを念頭に置いていたという

「『iOS版キャリアトレック』のアプリをリリースする上で、毎日使ってもらうことを前提に企画を練りました。サービスの動線を増やしてしまうと、初回の利用時間は長くなるかもしれません。しかし、2度とアプリを開いてもらえなくなる可能性があります。初回の使い込みは飽きに直結するためです。

ファーストリリース時に“企業情報を振り分けるだけ”という機能に特化したのも、今日、明日と毎日届く情報を気軽に使ってほしいという意図があります。

また、企業側が『iOS版キャリアトレック』を利用する際、用意するものは写真と300文字ほどの文章のみ。求人広告を作るにはスキルが必要ですが、企業の特徴を説明する紹介文(ピース)を作るレベルであれば、人事担当者で問題ありません。

開発チームでは、キャリアトレック上でユーザーに届くレコメンド情報の丸い画像とキャッチコピーを含めて、『ピース』と呼んでいます。レコメンドされたピースをクリックすると、企業情報や会社の制度、募集している求人を見ることができます。

ユーザーは求人票ではなく、企業に応募するのだから、企業の魅力だけを切り取り届けるサービスがあってもいいと考えました」(岩見氏)

「『キャリアトレック』は20代の方向けのサービスです。焦って仕事を探しているというよりも、『良い会社はないか?』と情報収集をしている層ですね。ですので、カジュアルに情報を提供された方が、興味が沸くと考えました。

実際、応募する企業を興味深く調べるのは、転職の意思が固まったタイミングですよね?まずは、ユーザーに企業のことを知ってもらう、企業に興味を持ってもらうことを意図してUIをデザインしました」(三橋氏)

ユーザーが親しみを覚えた段階で変える勇気

前例のないUIが一度で多くのユーザーから支持されるケースはまれだ。ユーザーは使い慣れないもの新規性を感じつつも、すぐに馴染むことができないためだ。

そこで、アプリディベロッパーは「改善」を行い続け、使いやすいUXを生む必要がある。キャリアトレックにはどんな課題があり、今回のアップデートで解消を試みようと考えているのか? 前段で紹介した改善の詳細と理由はこうだ。

「以前の『キャリアトレック』の応募フォームは、まずは早くリリースするため、スマホサイトのデザインをそのまま流用していました。いわゆる“アプリ風”ですね。ユーザーからの声で、『いきなり違うサービスに来た』と、錯覚もあり、応募する際の離脱率が高まっていたと推測します。そこで今回、応募フォームをネイティブ化しました。

また、デザインに関してはWeb版のユーザーレビューで好評だったマッチ度の実装を行いました。ユーザーと企業の心理的な距離を近付けることが狙いですね」(岩見氏)

キャリアトレックは人工知能によるレコメンドに特化し、求人検索機能を廃したサービス。そこで重要なのが、「なぜ自分とこの企業はマッチングされたのか?」という点を解消する具体的な情報だ。

そこで、Web版に実装されていた、職務経歴書と仕事内容の類似度、ユーザーと似たキャリアの人物の応募履歴から算出する「この求人のマッチ度」をアプリにも実装することで、ユーザーがより求人に興味を持つ仕掛けを施す。

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今回のアップデートで実装された「マッチ度」と「タブバー」

そして、タブバーの実装により、「スワイプだけで求人マッチングを行う」というコンセプトを脱することになった。

iOSアプリ版にも求人情報を探す機能が実装されたことで、レコメンドを届けるだけではなく、過去の履歴から企業情報を探すことが可能になる。

「ファーストリリース時は珍しがって使っていただいたライトユーザーが中心でしたが、リリースから数カ月経つと、機能の少なさに不便を感じると思います。

1日に1度届くというコンセプトも裏を返せば、昨日レコメンドされた企業を閲覧することもできないためです。一定以上のユーザーが集まったため、今回の改修に至りました」(岩見氏)

最適は常に変化するもの

多くの転職サービスが乱立する中、独自の進化を遂げている『キャリアトレック』。20代の転職に対する価値観をカジュアルにするビジョンを実現するために、今後もアップデートを重ねていきたいという。

「人工知能によるレコメンドは精度を上げるのに時間が掛かってしまいます。まだまだ、私たちが納得する精度に至っていないことが現状です。この点は改善を続けなければいけません。今は数を届けている状態ですが、ユーザーがより望んでいる企業情報を届けられるようにしたいですね。

また、『キャリアトレック』は転職のサービスですので、ユーザーのゴールは転職になります。そのため、転職したことがないユーザーをアプリでサポートするチャット機能についても検討しています。ユーザーと企業側が、ライトなコミュニケーションを取れるようなサービスを実装し、気持ちが高まった段階で応募するようなイメージですね」(岩見氏)

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ファーストリリース時の最適を時流に合わせて変化させる必要性を語る三橋氏

「ユーザーに新しい体験を届け続けるには、常にユーザーの利便性を意識する必要があります。今回のアップデートにより、これまで1日1度の数分間だったユーザーがアプリに触れ合う時間が伸びる。そうすることで、昨日は見逃したけど、今日見てみると新しい発見があるなど、気付きを与えることができると思いますね」(三橋氏)

1996年にリクルートが「Digital B‐ing」(現リクナビNEXT)をリリースしてから約20年の時が流れ、転職者の考え方も大きく変わってきた。変化した時代に相応しいUIとシステムを実装した『iOS版キャリアトレック』は今後、どのように成長していくのか?まずはアップデート後の反応を待ちたい。

取材・文/川野優希(編集部) 撮影/赤松洋太


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