エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン
  • TOP
  • キーパーソン
  • 旬ネタ
  • コラボ
  • ノウハウ
  • 女子部
  • キャリア

Apple Watchが腕の上で暑い夏を超えられるか問題【連載:えふしん】

2015/05/01公開

 
えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後、想創社(version2)を設立しiPhoneアプリ『ShopCard.me』を開発。2014年8月1日からBASE(ベイス)株式会社のCTOに就任

Apple Watch出ましたね。

Appleが仕掛けた既存の購入時計と競合させるというマーケティングのおかげか、初日の予約だけでAndroid Wearデバイスの出荷数を超えたというニュースも出ました。

Apple Watchは、これまでのウエアラブルコンピュータのファン層を超えたところまで売れているようです。

しかし、BASEのApple Watch App開発を通じて感じた経験やApple Watchを実際触ってみると、現状は……という点もあるので、Webサービス事業者視点から書いてみたいと思います。

現状は通知にビジネスの焦点を絞るべき。グランスは及第点

fshin_38_1

From Martin Hajek
とうとう発売されたApple Watch。売れ行きは好調のようだが、今後はどうなるか

サードパーティが開発することができるApple Watchアプリ、Watch Appは、現状3つの利用シーンに機能を提供することができます。

【1】通知
Dynamic Notificationという仕組みで、テキストだけではなく画像をも使った通知表現が可能です。

【2】グランス
画面を指でスワイプするだけで、表示される1画面のビュー。一目で情報を伝えることにメリットがあるサービスに向いています。

【3】Watch App
アプリ本体です。通知やグランスをタップすると起動するメイン画面です。

更に、もう一つ重要な機能を追加したいと思います。

4.iPhoneとの連携
iPhoneをバックグラウンド起動することでユーザー情報を取得したり、Handoffを通じてApple Watch上の体験をiPhoneに引き継ぐことができる。

これらの機能を組み合わせて、UXを作っていきます。

実際に開発してみると、アプリ開発自体は簡単に作ることができる点に気付くと思います。

特に既存のiPhoneアプリをお持ちの方であれば、自社のWebサーバーとつなぎこむモデルや通信ライブラリは、そのままWatch Appでも使いまわすことができます。

現状、Watch Appはデザインの表現が限られているため、エンジニアにとってはガラケーのWebを作るような感覚でWatch Appを開発することができるでしょう。

実際に作ってみると、現状は、1画面アプリである通知やグランスは良いのですが、Watch App本体の動作がまだまだ芳しくないです。

これは、Watch Appの動作は、iPhone側で行われているためだと考えます。

容量が限られているであろうApple Watch上には、画面リソースやアイコンだけで、ロジック自体はiPhone側と通信するシンクライアントの形で機能が提供されています。

Watch AppのロジックがiPhone側にあるため、容量の制約をそれほど気にせず自由にアプリを作ることが可能になっています。

いわば、Webサーバ(iPhone app)とWebブラウザ(Watch App)の組み合わせと言えるでしょう。

半面、時間が掛かりすぎる処理は、Apple Watch側で画面遷移自体をキャンセルすることがあります。何かの理由で画面遷移できないケースも。そのような動きはアプリの挙動として期待するものではなく、違和感が残ります。

特に致命的なのが「外部のWebサーバからの画像の読み込み」です。非同期で画像データを後から送り込むことができる割には、厳しいという印象が強いですね。

もし、画像の読み込みを高速化できる手法があったら是非教えて下さい。

現状のWatch Appは、最小限の情報提示などに留める。必要に応じてHandoffでiPhoneアプリに続きを託してしまうというのが良いと思います。

ですが、Apple Watchにプリインストールされているエクササイズアプリなどは、アニメーションなども結構よくできていてる印象を受けます。Apple Watch本体が進化すれば、ビジュアル面では相当面白いものになりそうな期待感はありますね。

サードパーティの現状としては、グランスによる1画面情報に賭けるか? センスのよい通知体験から始まる、iPhoneアプリも含めたWebサービス全体のUXを高めることを考えるか?このどちらかにフォーカスされることをオススメします。

通知による動員力で個人がエンハンスされる時代

通知の可能性が以前から叫ばれています。最近でもこのような記事が上がっていました。

>> プッシュ通知は次世代のプラットホームだ…pullからpushに変わるネットインタフェイス

私も以前所属していたモイの提供するツイキャスで、通知の素晴らしさを知り、記事にしたことがあります。

>> プッシュ通知を制するものがスマホを制する~ツイキャスの事例~

私の記事の趣旨は、ユーザーが本当に必要とする通知を提供することで、リアルタイムの動員力を得ることができるというもの。

例えば、ツイキャスの場合、動画を配信するCAS主さんが、ツイキャスを始める時にファンの人たちに通知が送られるので、配信開始からたくさんのファンが集まってきます。

では、選挙に出馬する人が、通知の力を得られたらどうでしょうか。

インターネット上に新しい選挙演説の場が生まれ、それらはSNSを通じて広がっていく。さらに、シェアされる可能性を秘めることになる。つまり、無限の力を持つことにつながります。

プッシュ通知自体は今までのiPhoneでも当たり前のように存在していました。

既にみなさんのスマートフォンには余計な通知がたくさん届き、通知のS/N比が低いことに慣れてしまってはいないでしょうか?もしくは通知そのものを止めてしまっていて、大切な通知を得られない状況を作ってはいないでしょうか?

Apple Watchを使い、自分に届く通知を適切な量にすることで、スマートフォンでは見逃していた通知をちゃんと見ることができるようになります。なにせ腕がブルっと震えますから。

自分にとって不要な通知は排除し、本当に必要な通知だけを受信したくなる。そんなデバイスです。

これからは、個人に研ぎ澄まされた通知だけを受け取ることで、適切なサービスが、適切な形で個人とつながり始めるでしょう。

そこから生まれる通知エコノミーをしっかりと意識したビジネスが増え、個人やビジネスによる人のつながりをしっかり強化することができれば、インターネットらしいビジネスとして、もっと重要視されていくと感じています。

当社で作ったBASEのApple Watch対応についても、BASEのiPhoneアプリ上で、BASEショップをファンとして登録しておくと、新着商品が出た時に通知を受け取れるようになっています。

事前にiPhoneアプリの方でクレジットカード番号を登録しておくと、Apple Watchの画面をタップするだけで購入できるという機能を追加しました。

銀行振込や着払いについては、Apple Watch上で見た商品は、即時にiPhoneアプリでも開いて購入することもでき、BASEを使うお店と、ファンである購入者を、通知を通じて直接つなげるように作りました。

つまり、商品力のあるお店であれば、単にBASEで商品を公開するだけで、ファンになってくれているお客さんが即座に来てくれるわけです。

そして、このメリットを享受することに関しては特別Apple Watchである必要もないというのがポイントです。

あらゆるiPhoneアプリのユーザーさんがメリットを享受できるようになっているだけではなく、Apple Watchでなら、確実に通知に気がつくだろうし、ちょっとだけ早く買えるようになっている。この点が、とても重要なことだと考えます。

また、ショップオーナーさん側には、購入情報が通知されたり、発送連絡が簡単になるなど、双方の距離を縮めることができました。

これから、たくさんのBASEショップと、ファンの人たちが商品販売の機会を通じて直接つながっていくことで、リアルタイムに経済が生まれることを期待しています。

Apple Watchは、みんなの腕の上で夏を超えられるか問題について

とはいえ、残念ながらWatch Appの本体の完成度がまだまだなのです。

かつてのガラケーのWebサイトも画像サイズについては最適化が必要でしたが、3G以降の画像の読み込みは決して遅くなかったことと考えると、Webサービス事業者にとって表現可能なコンテンツはガラケーを下回るというのが現状ではないでしょうか。

fshin_38_3

From Masayoshi Watanabe
暑い夏まで後数カ月

Apple Watchは素晴らしいマーケティングで、ある程度、所得に余裕があり4万円~8万円を気軽に出せる層に向けて一気に立ち上がったように見えます。

一方で、このユーザー層は一番執着がなく見切りが早いとも言えますので、「この暑い夏の中で腕につけてもらい続けられるか」どうかは未知数です。

正直、まだ画面の表現力などでユーザーを魅了できる感じではないですし、iPhoneの有料アプリの最大のヒット要素である“暇つぶし”という要素はApple Watchにはありません。楽しさという面でユーザーに見限られないかが不安です。

しかし、通知をうまく活用したWebサービス全体のUXを向上に寄与するのは間違いありません。うまく通知を使ったビジネスが広まれば、Apple Watch以外のウェアラブルコンピュータにも波及することが期待できます。

いずれApple Watch上に直接アプリがインストールできる「ネイティブのWatch App」が出たら、素晴らしいアニメーションなどで多くの人を魅了できるようになるでしょうが、それが現状のハードウエアで実現できるかどうかは不明です。

それよりも今は、ウエアラブル時代に適応できるUXを研ぎ澄ますための開発フェーズだと思います。

Apple Watchを新しい実験場として、いろいろ考えていきましょう。

>> えふしん氏の連載一覧


  • 日本システムワープの中途採用情報

編集部からのお知らせ

エンジニアに人気の求人

エンジニアtype姉妹サイト