安倍政権:「民意」のご都合主義 沖縄の声は違うのか
毎日新聞 2015年04月29日 20時20分(最終更新 04月29日 22時39分)
元朝日新聞記者で永田町取材の長い、東洋大教授の薬師寺克行さんは「権力者のみならず、野党だって自分に都合のいい選挙結果や世論を『これが民意だ』と主張するのは世の常ですが、それにしてもご都合主義が過ぎる」と言う。その典型例が、基地問題を巡る民意への対応だという。
現政権は、米軍普天間飛行場の辺野古沖への移設反対という沖縄の民意を重く見ようとしない。この問題が争点となった昨年1月の名護市長選▽昨年11月の県知事選▽昨年12月の衆院選のすべてで、移設反対候補が勝利した。今月3日の定例記者会見で「移設反対の民意が多かったのは否定しづらいのでは」と質問された菅官房長官は「選挙の争点はいろんなことがある。候補者の出身地や年齢など総合的な中で結果を出すのではないか」と認めなかった。
薬師寺さんが推測する政権側の理屈はこうだ。昨年末の衆院選では沖縄県内の4選挙区で辺野古移設に反対の候補が全勝したが、振興策を訴えた自民候補4人全員も復活当選した。つまり、民意は新基地反対だけではない。かつ基地は安全保障という国家的な問題であり、全国的には自民党が圧勝した以上、移設も信任を得たといえる−−。
薬師寺さんは「現政権は昔の自民党にあった多様性や寛容さという伝統を失っている」と指摘する。「自民党はタカ派やハト派の連合体。戦後長らく政権を維持した理由の一つに、幅広い民意をくみ取ったことがあります。しかし安倍政権は民意や反対意見に耳を傾けるのではなく、逆に自分たちの政策を否定するような意見は受け付けない、と考えているようです。『自分たちは絶対正しい』と民意を都合よく利用し続けるなら、いつかしっぺ返しをくらうかもしれません」と警告した。
◇かつての自民党とは逆
歴代首相を含め数々の政治家を取材してきたノンフィクション作家の塩田潮さんも、かつての自民党にあった謙虚さや懐の深さが失われたと感じる。「1960年代後半〜70年代、東京都や大阪府など地方で革新知事の誕生が相次いだ時期がありました。しかし当時は『地方選であっても、自民党におごりがあると反省を迫る民意だ』と率直に負けを認める意見や、敗戦を機に都市部での弱さを克服しなければと新たに課題設定をする謙虚な声が、党内から少なからず出たものです」