▽国のエネルギー政策の大きな方向性を決める、
電源構成の議論が、大詰めを迎えています。
経済産業省は、2030年の発電割合として、
再生可能エネルギーが22%あまり、原子力が20%あまりなどとする
たたき台の案を出しました。
この数字にはどんな意味が込められているのか、
最適な組み合わせを考えるための「基準」に照らし合わせて見ていきます。
▽まず、たたき台の中身です。
再生可能エネルギーが22%~24%、幅を持って示されました。
この中には太陽光・風力や水力・地熱などが入ります。
原子力は20%~22%です。
そして石炭火力26%、天然ガス27%などとなっている。
▽直近の2013年度や、東日本大震災前の2010年度と比べて見ます。
国のエネルギー基本計画で、「最大限導入する」とされた
再生可能エネルギーの比率は、2倍になっています。
一方、原子力は「依存度を可能な限り低減する」とされていて、
震災前の29%より、確かに比率は下げられています。
また、再生可能エネルギーと原発はともに20%台ですが、
再エネがわずかに原発を上回る、という微妙なバランスをとっています。
昼夜問わず、安定的な発電を続ける、いわゆる「ベースロード電源」という括りでは、
56%程度になるとしています。
▽電源の最適な構成を決めるために、今回、経済産業省の有識者会議は
一つの「判断基準」を設けました。それがこちらです。
まずは「安定供給」。暮らしや産業の基盤の電気は止まらない事が大事です。
次に「コスト」はできるだけ低い事。高い電気料金は経済の足を引っぱります。
そして「CO2・二酸化炭素の排出抑制」です。
全てに完璧な電源はありませんから、何よりバランスが重要です。
さらに、その大前提になる条件が「安全性」です。
この「ものさし」で、今回の素案を見ていきます。
▽安定供給にはエネルギーをどれだけ国内で賄えているか、自給率が大事です。
日本のエネルギー自給率は、このところ20%近くで来ていましたが、
震災後、原発が運転停止する中で、2012年は6.3%に下がりました。
こうした統計では、国際的に、原子力は自給率の中に含まれています。
自給率を諸外国と比べると、シェールガス革命が進むアメリカや、
原発に積極的なフランスは別格としても、
同じく資源のない韓国よりも日本は大きく下回っています。
経済産業省は、これを25%程度に高めたいとしています。
▽そこで、2030年の姿を見ると、国産の水力や太陽光など再エネを増やし、
輸入に頼る化石燃料は減らしていて、これはうなずけるところです。
問題は原子力です。原子力は一旦核燃料を装着すると数年発電できることや、
燃料の備蓄も多いことから、政府は「準国産エネルギー」としていますが、
原料のウランは全て輸入であり、
原子力を国産と見なすことには異論もあります。
自給率の向上は引き続き大きな課題として残ります。
▽次はコストです。電源毎の発電コストは2011年の試算がありますが、
今回、経産省の専門家会合で新たな試算が行われました。
2030年時点で、1kWhの電気を作るのにかかるコストは、
原子力が「10円余り」で、最も安いという試算になりました。
また、再エネでも、水力や太陽光メガソーラーは、石炭火力並みの
コスト競争力が見込まれていますが、地熱や風力はまだ高い部類です。
▽ちなみに原発のコストには、建設費や維持費、燃料費などに加えて、
福島第一原発事故後、取られた追加の安全対策費や
自治体への補助金などの政策経費、
事故のリスクに備えた費用も含めて計算されています。
しかし、事故が起きてしまった場合の賠償費用は確定できないので、
コストも「10.1円以上」という形でしか示されていません。
また、原発推進のために過去に使った予算なども、カウントしていません。
前提の置き方で数字も変わるわけで、この試算だけで決められるものでもないのです。
▽3つめは環境問題。
日本の温室効果ガスの排出量を見ますと、
2013年度は14億800万トンで、過去2番目の多さでした。
2005年度比でも減らすどころか増えてしまっています。
▽今年12月の、COP21・気候変動条約締結国会議では、
2020年度以降の温暖化防止策が話し合われます。
それに向け、各国が目標を出すことになっていて、
アメリカは、2025年に2005年比で、26%から28%の削減
EUは、2030年に1990年比で、最低でも40%の削減と打ち出しました。
日本はというと、昨日の会議で、経済産業省は、
省エネの徹底と、今回の電源構成を元にすれば、
2030年に、2013年に比べ21.9%削減が可能という試算を示しました。
これに、森林によるCO2の吸収の効果などを加えて、
日本としての目標を作っていくことになりますが、
国際的にそん色のないものにできるかどうか、です。
▽さて、安定供給、コスト、CO2の抑制と、3つの基準を見てきたが、
さらにその土台になる「安全性」について改めて原発の問題を考えて見ます。
▽原発の安全性への考え方は、福島第一原発事故を教訓に大きく変わりました。
原発にはかつて「絶対安全」が求められていました。
「事故は決して起こしてはいけない」が、
やがて「事故は起きないようになっている」になり、
そこに「安全神話」という虚構が生まれてしまいました。
それが崩れたのが、福島第一の事故でした。
▽事故は起こりうる、それを前提にリスクを最小限に抑える、
これが、安全対策の基本思想になりました。
そのために、規制基準が見直され、厳しい基準が作られました。
それを踏まえ、原子力規制委という独立した組織が審査を行っています。
また、原子炉の損傷など重大な事故が起きた場合の対策も、
新たに詳細に設けられました。
さらに、審査に合格すればOKではありません。
安全対策には終わりがない、という理念で、電力会社には、
継続的な安全性の向上を求めています。
でも、このことが、国民にしっかり伝わっているでしょうか。
▽政府は、
「規制委員会が基準に適合すると認めた原発は再稼働を進める」と
繰り返し言っています。
確かに、安全性については政府が口を挟まず、規制委に委ねることは大事で、
個々の審査を規制委が行うのは、正しいことです。
しかし、「原発は日本に必要なのか」という政策の根本は、
政府が決めなければならないはずです。
そこが、今はいかにも「規制委員会任せ」に見えてしまっています。
▽結局、原発に関する国民の世論は割れたままです。
いくら、細かく数字を詰めて電源構成のベストミックスを策定しても、
原発についての「国民的な合意」という肝心の大枠が定まっていないのです。
はっきりしない政府の姿勢に、国民の不信感もあります。
この夏にも原発の再稼働が見込まれる中、安倍内閣の責任として、
原発政策をきちんと語るべきところに来ているのではないか、と思います。
(関口博之 解説委員)