Tag Archives: 黄金角

黄金角は無数にあった!!~フィボナッチ数列と黄金比から植物の謎に迫る(3)

Posted on by
黄金角と改善した配置のカバー率の比較

前々回前回の続きです。

「植物は、まっすぐ伸びる茎から、137.5度ずつずらしながら葉っぱを順番に出していくことで、前の葉っぱを隠さず、太陽の光をより多く受けられるようになっているらしい。137.5度という角度が重要。この角度で、松ぼっくりの形も説明できる。」

ということを、前回までの投稿で紹介しました。

この話を踏まえて考えると、色々な疑問が湧いてきますよね。

  1. 137.5°という角度は何を最適化する値なのか?他の角度ではだめなのか?
  2. 植物は本当にこの角度に従って成長しているのか?
  3. 植物の持つ他の角度にも法則はあるのか?例えば、葉の葉脈の角度や、シダ植物の葉っぱの角度など。
  4. 植物以外にもこの角度は現れるか?動物、地層、宇宙など。
  5. この問題を3次元以上に拡張するとどうなるか?例えば、球面上に一定のルールで点を順番に配置していくときに、点が均等にばらける条件は?
  6. 「一定の角度ずつずらす」という制約をなくして、最適な葉っぱの配置を考えるとどうなるか?

1は、前回までの投稿の通り、他にも良さそうな角度はあります。
2は、確かに法則に従っていると思われる植物が多く見つかりますがそうなっていないものも多いです。どうなんでしょうね。
3も気になります。
4は、角度はわかりませんが、黄金比が色々なところに現れるという話は聞きますね。
5は難しそう。

と、このように疑問は尽きないのですが、今回は、6について考えてみましょう。

できるだけ均等に葉を並べる

137.5°ずつずらして中心から線を出した図です。

137.5°ずつずらして線を伸ばす

137.5°ずつずらして線を伸ばす

2, 3, 5, 8, 13, 21,… 本のときに、比較的バランスのいい形になるのですが、その間の本数の時は若干いまいちになります。

前回見た「カバー率」を用いると、このことが数値的に測れます。

グラフはこのようになります。

黄金角と改善した配置のカバー率の比較

黄金角と改善した配置のカバー率の比較

青い線が、137.5°ずつ離した場合のカバー率です。
赤い線が、後述の配置方法で線を引いた時のグラフになります。
このように、「一定の角度ずつ離す」という制約をなくせば、何本引いた時も「比較的バランスのいい形」にできるわけです。

ところで、カバー率は、前回は
「隣とぶつからない扇形を並べたときに全体を覆う割合」
と定義しましたが、
「n本の線が出ている状態で、最も近い2本の成す角が、1周の 1/n の何倍か」
と言い表すこともできます。
前回は、植物が「光をできるだけ多く受けられるように」という観点でそう定義したのですが、こう言い換えると、単純に、「2辺をできるだけ離す」と言っているにすぎません。
また、これと逆に、
「n本の線が出ている状態で、隣り合う2辺の最も離れたものの成す角が、1周の 1/n の何倍か」
というのも定義できます。
これは、「できるだけ隙間の空きすぎた部分ができないように」という観点の定式化です。先ほどの赤い線で示したグラフになる配置は、この観点でも良い配置となります。

バランスよく1本ずつ追加していく配置

長い前置きとなりましたが、赤い線のグラフになる配置がどんなものか、見てみましょう。

※表示されない場合はこちらをこちらしてください。


間隔

ポイントは、常に、

  1. 最も離れた角の間に新しい線を引く
  2. 新しい線によって分けられた2つの角度は、最小と最小から2番目の大きさになる

という状態を保っていることです。

分け方の詳細

1周を1としたときに、以下のように分けています。

1

,

, ,

, , ,

, , , ,

後はこの繰り返しです。
確かに、一番大きいものが、小さい方から1番目と2番目になるように分けられています。うまくできていますね。

何かに応用できないだろうか?

前回のアニメーションで、この順番で葉っぱを出すようにしてみたりもしましたが、全然きれいな形にはなりませんでした。結局、枚数が増えると、1つ前の葉っぱとあまりに近くに次の葉っぱが出てくるので、いまいちなんですよね。

この順番にピザを切ったらどうか?
とも考えたのですが、そうしたいシチュエーションが想像できませんでした・・・。
円形のものには限らないので、羊羹でもいいのですが、やっぱりどこで使えるのかわかりません。

ということで、無理やり応用を考えました。
こんな問題を考えます。

「円形の島の王国があります。
大航海時代が始まり、防衛の必要性を感じた王様は、見張り台と砲台を島の周囲に建設するよう命じました。
しかし、いっぺんに何個も作ることはできないので、造るのは1つずつです。
また、建設には2~3ヶ月かかる上に、来期の予算が本当に下りるかどうかはわかりません。
なので、最終的に4つ作ったところでストップするかもしれないし、10個になるかもしれません。
最初から10個作ると決まっていれば、島の周囲を10等分するように配置するのですが、決まっていないのでそうはいきません。
何個作ったところで建設が終わっても、警備の手薄な場所や砲台が固まって配置された場所ができないようにするには、島の周囲のどの場所に、どのような順番で造っていくのがいいでしょうか?」

普通に考えると、1つ作ったら2つ目はその正反対の側に造りたくなります。
そうしたら3つ目と4つ目は、そのちょうど間に。
こうすると、4つまでで例えば東西南北に1つずつできるわけです。

予算が下りたのでもう1つ作るとなれば、次は北東の方向でしょうか。

ただ、ここでもし次の建設ができなくなってしまったら、
「こんなことなら正五角形になるような位置に造っておけばよかった」
となるわけです。

また、
「敵は最も手薄な場所を狙ってくる」
としたら、
5つ作るのも6つ作るのも7つ作るのも警備の手薄さで言ったら変わりません。
4つ作ったら、もう後4つ作らないと意味がないのです。

こう考えると、1つ追加したら追加したなりの効果が常にあるという意味で、先ほどのアニメーションで示した方向に順番に置いていくのがいいのではないでしょうか。

もうちょっと役立つ応用はないですかね。

黄金角は無数にあった!!~フィボナッチ数列と黄金比から植物の謎に迫る(2)

Posted on by
悪い角度の例

黄金角について説明した前回の続きです。

バランスの良い配置を定式化してみよう

角度を一つ決めると、中心からn本の線を引いた時の配置が各nに対して定まります。

例えば5本の線を引いたときを考えます。

配置の良い・悪い

配置の良い・悪い

正五角形を作る、一番左の形が最もよく、間が狭い場所ができる右側の方が悪い形、と考えたいところです。

そこで、各線を中心とする葉っぱを、互いに重ならない広さの幅にして並べたときに、どれくらいの面積をカバーするかで定式化してやることにします。

具体的には、以下のように、最も近い線分の成す角度の扇形を並べてやった時に、円の面積の何割をカバーするかで、「カバー率」を定義します。

カバー率の説明

カバー率の説明

カバー率を、で表すことにしましょう。θを一つ定めるごとに、nの数列が一つ定まることになります。

黄金角のカバー率を見てみよう

θが黄金角 137.5° のときのカバー率をグラフ化してみました。

黄金角のカバー率のグラフ

黄金角のカバー率のグラフ

ちょうど、フィボナッチ数列の数のときに、カバー率が大きくなっています。

ですが、このグラフで注目したいのは、むしろカバー率が下がった時です。カバー率が下がった時も、0に近づくことはありません。色々計算した結果、カバー率はを下回らないことがわかりました。

このグラフは、このままnを1000, 2000と増やしていっても同じ動きをして、の間を行ったり来たりします。( は黄金比)

悪い角度のときのグラフと比較してみましょう。

カバー率の比較

カバー率の比較

赤い線は、角度が一周の 13/31 のときです。n=31 のときに1になりますが、nが31を超えたらカバー率は0です。このように、有理数はいつか0になるのでダメです。

緑の線は、角度が一周の 1/π のときです。これは無理数ですが、黄金角のときと違い、0に近い値まで落ち込んでしまうことがあります。

黄金角以外は全部ダメな角度なの?

このように定義した、「カバー率」の観点でも、黄金角は優れた性質を持つ特別な角度だということが確認できました。

ところが、です。

黄金角以外にも、よい性質を持つ角度はあるのです。

こちらのグラフをご覧ください。

カバー率の良い角度のグラフ化

カバー率の良い角度のグラフ化

黄金角は、1周のです。

赤い線の角度は、1周のです。

緑の線の角度は、1周のです。

どれも、 を下回ることがありません。これらは、黄金角と同じくらい良い角度と言えるでしょう。実際、前回の投稿で紹介したアニメーションでこれらの角度を入れると、きれいな形を形成します。

黄金角は無数にあった!!

黄金角は、137.5度のことなので、その他の「良い角度」を準黄金角と呼ぶことにしましょう。

準黄金角を、以下の性質を持つ角度とします。

「あるNが存在して、N以上の任意のnに対して、 が成り立つ」

要するに、最初の数枚はバランスが悪かったとしても、葉っぱの枚数が多くなれば配置がバランス良くなる角度、ということです。上記のグラフに示したのは、準黄金角の中でも特によい性質を持つもので、この条件が全てのnに対して成り立つものです。

色々検証した結果、準黄金角は、以下の形で表せるようです。(必要十分条件であることが厳密に証明できたわけではありませんが、もしかしたら良く知られた事実なのかもしれません。)

「準黄金角は、1周の倍の角度として表せる。ただし、a, m, k は整数であり、かつ、aはの約数」

mとkは任意なので、適当に選ぶことができます。kを決めると、aはkの約数なので、いくつかの候補に絞られます。

mとkを動かすと、色々な角度に変えられます。その結果、準黄金角は、0°~360°までの間にびっしりと存在することになりそうです。

どんなに狭い区間をとってもその間に有理数が無数にあるのにも関わらず、実数の「ほとんど全て」が無理数であるのと同じです。準黄金角も、ごくごく限定された条件を満たす角度であるにも関わらず、いくらでも存在するのです。

もちろん、準黄金角の条件の「あるNが存在して・・・」のNが大きすぎれば、実質的には「悪い角度」となるのですが。

植物の性質を知るのに役立つかもしれない?

植物によっては、「黄金角になっていないじゃないか!!」と言いたくなるものはたくさんありそうです。

例えば、前回の投稿で示したアロエがそうです。あんなにくっきり5角形の模様が見えるのは、どうも黄金角っぽくありません。

ですが、0.2に近い準黄金角を選べば、中心は5角形っぽいけれど、外側に広がるとバランスのよい感じになります。

以下の図は、前回の投稿のアニメーションの「良い角度1」の角度を「アロエ」の角度にして色を変えたものです。

アロエの葉っぱを増やした場合

アロエの葉っぱを増やした場合

ご覧の通り、中心付近は5本のらせんがくっきりと見られますが、外側は均一な感じになっています。

この、準黄金角の考え方を使えば、黄金角で説明できない植物のパターンを、「例外」で片付けずに説明できる場合もあるのではないでしょうか。

アロエが本当にこの角度で葉を出しながら成長しているかどうかはわかりませんけどね。

黄金角は無数にあった!!~フィボナッチ数列と黄金比から植物の謎に迫る(1)

Posted on by
松ぼっくりの裏側2

※解説動画を作りました(YouTube版)(ニコニコ動画版

パラメータを色々変えることで、植物に現れる幾何学的なパターンを再現できるアニメーションを作成しました。パラメータを直接変えることもできますが、松ぼっくりの裏側やひまわりの中心など、いくつかのプリセットも用意したので、まずはそちらをご覧ください。

最も重要なのは角度です。「ちょうどいい角度」と、「悪い角度」の違いが、視覚的にわかるように、良い角度と悪い角度の例も用意しています。

※正しく表示されない場合はこちらをクリックしてください。



成長速度
芽が出る間隔
角度 (1周を1とした比率)
横幅÷縦幅
線の色
枚数の最大値 (多すぎるとブラウザが重くなります)

アニメーションの原理は単純です。中心から葉っぱが、前の葉っぱから一定の角度ずつずらして生えてくるのを繰り返します。葉っぱは楕円です。面積が時刻に比例するように成長します。

単純な仕組みではありますが、楕円の縦横比や色を変えると、松ぼっくりの裏側やひまわりの中心部分っぽい感じになります。面白いですね!

このように、一定の角度ずつずらして葉っぱや花びら、種子が配置されることは、植物に関する性質としてよく知られているもので、解説しているサイトも多くあります。

特徴的なのは、このときにずらす「一定の角度」が、いわゆる黄金比と関係していることと、フィボナッチ数列がパターンの中に現れることです。

黄金比とは、

の表す比率のことで、まあその、いい感じの比率らしいです。

フィボナッチ数列は、

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, ...

と続く数列で、前の2つの値の和が次の値になっています。

上記のアニメーションで、葉っぱ、松ぼっくりの裏側、ひまわりの中心部分、として用いた「ちょうどいい角度」が、黄金角と呼ばれるもので、以下の図のように1周を黄金比に分けたものです。大体 137.5度です。

黄金角

黄金角

この角度について解説しているサイトはいくつかあり、その中では、松ぼっくりの模様が描くらせん模様の数が、フィボナッチ数列になっていると説明されています。上記のアニメーションで描かれる図形も、まさにその性質を満たしています。

実際、途中で止めると以下のように8本のらせんが見られます。

松ぼっくりの裏側1

松ぼっくりの裏側1

そして、さらに大きくなると、13本のらせんが見られます。

松ぼっくりの裏側2

松ぼっくりの裏側2

面白いですね!

フィボナッチ数列が松ぼっくりの模様に現れると言うと不思議ですが、「ちょうど良い角度」ずつ離してうろこを生やして行くと、勝手にフィボナッチ数列が現れるというわけです。

でもちょっと待ってください!!

という話を聞いても、いまいち納得できなかったのは私だけでしょうか?

黄金角というのが「ちょうどいい角度」だというのはわかりました。ですが、「ちょうどいい角度」は本当にそれだけなのでしょうか?もっといい角度はないのでしょうか?

アニメーションの「良い角度1」は、黄金角で松ぼっくりの模様をさらに大きく広げたものです。

黄金角で松ぼっくりの模様を広げ続けたもの

黄金角で松ぼっくりの模様を広げ続けたもの

「悪い角度2」です。これは確かにいまいちな感じがします。

悪い角度の例

悪い角度の例

ですが、「良い角度2」は、黄金角ではないのですが、これもバランスよく広がっています。

黄金角ではない角度

黄金角ではない角度

黄金角ではないので、以下のようにらせんの数を数えると、フィボナッチ数になっていません。

黄金角ではない角度のらせんの数

黄金角ではない角度のらせんの数

このように、黄金角ではない角度にも「ちょうどいい角度」はあるのです。

実際、植物を見てみても、どう考えても黄金角ではない角度でパターンをつくっているものがあります。

アロエも幾何学模様を作ることで知られており、画像検索すると色々出てきます。

アロエの画像検索

アロエの画像検索

ここまでくっきり5角形を作っているということは、1周の0.2倍か0.4倍に近い角度だけ離れているのでしょう。

バランスの良い配置を定式化してみよう

バランスの良い配置とは何かを定式化して、どんな角度のときにそれが最適となるかを検証する必要がありそうです。
長くなってきたので、これは別の投稿としたいと思います。

続き