かつては日本でも大量のPC向けゲームが制作されていました。残念ながら時代の変化もあり、今では少なくとも商業ベースでのPCゲーム開発は難しくなりましたが、独自規格による国産PCが主流だった頃は、中小のソフトハウスが数多くのタイトルを発表しており、個性的な作品も少なからず存在していました。
それらの80、90年代に発表された日本のPCゲームは、海外でも早くから興味の対象ではありました。もともと日本のアーケードゲームや家庭用ゲーム機は海外でも高く評価されていたため、PCゲームにも優れた作品があるに違いないと思われるのは無理もないところでしょう。
残念ながら、PCゲームに関してはごく一部の人気作が海外のPCに移植された程度で、大きな影響を与えるには至りませんでした。それに、たとえ入手できたところで、言葉や対応機種の問題もあり、その内容を存分に理解するのは容易ではありません。
そんなわけで、海外のゲームファンにとって日本製のPCゲームはきわめて敷居の高いものだったのですが、その状況を変えたのがネットの普及でした。掲示板などで活発な意見交換がなされており、今では日本の状況がそれなりに伝わっているようです。
そのような日本のPCゲームに興味をもつ外国人の中で、とりわけ目立つ存在が、fmtownsmartyを名乗る人物でした。
この人物は2008年からtumblrでブログを始めているのですが、その内容といえば、ひたすら日本産PCゲームの画像を貼り付けていくというものでした。それが今では膨大な数になっており、またその内容から、相当な規模の日本製ゲームのコレクションを持っていることがうかがえます。
さらに、選ばれているゲームの大半が、アドベンチャーゲームという、ますます海外では伝わりにくいジャンルであることも注目された理由でしょう。
fmtownsmarty.tumblr.com
なお、紹介されているゲームの大半はPC88、98シリーズのもので、それ以外はX68000やFM TOWNSの作品が少しある程度です(fmtownsmartyという名前はたんなる符号で、別にこの機種にこだわりがあるわけではないのだとか)。ただ、88、98以外の機種はスクリーンショットを取ることが簡単ではないとも説明しており、必ずしも当人の好みというわけでもないようですが。
その一方で、掲載しているゲーム自体の説明などはほとんど載せていないため、そのような情報も載せてほしいという声が多く寄せられていたようです。
そのような外部からの意見については、たまにコメントを返す程度で、しかも質問に正面から答えているものはあまりありません。ゲーム本体のありかを訊かれたりもしているのですが、当然ながら共有などもしていません(ただしゲームのタイトルについては、2011年以降のエントリから固有URLに含めるようになっています)。また、ゲーム関連のマスコミにおいても、取材にいっさい応じないことで知られていました。
ところが先日、ドイツ版「WIRED」誌のサイトにそのfmtownsmarty氏のインタビュー記事が公開されていたのです。以下に、その記事の内容をかいつまんでご紹介します。
「パックマン」や「スーパーマリオ」が出てからというもの、われわれは知っている。もっともすばらしく、もっともどうかしているゲームは、常に日本から現れるということを。だがそれらのうち、海外のPCやゲーム機に移植されたものはごく一部にすぎない。
ところが、ありがたいことにfmtownsmartyを名乗るニューヨーク在住のブロガーが、狂気に満ちた、知られざる日本のアドベンチャー・ゲームの数々を披露してくれているのだ。
26歳のニューヨーカーという以外、身元を明かそうとしないこの人物は、日本の80、90年代のゲームの画面写真やgifアニメを毎日のようにtumblrにアップロードしている。その名前は、かつて富士通が1993年に発売し、大失敗に終わったゲーム機のものを借用しているのだ。
彼が日本産ゲームに飽くなき探求心を抱くようになったきっかけは、マリオやゼルダではなく、「デッド・オブ・ザ・ブレイン」というアドベンチャー・ゲームだった。
「アメリカのホラー映画を元にしたゲームなんだ。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と『ターミネーター』を掛け合わせたような内容でね。とてもおぞましく、野蛮なものだよ」
グーグル翻訳を駆使して、このゲームの情報を集めてみた。すると、自分が持っているバージョンはリメイク版であり、2作の旧作を組み合わせて、しかも表現を柔らかくしたものであることが分かった。
「それで思ったんだ。きっと日本には、この手のゲームが山ほどあるに違いないってね」
そのようなものの存在自体が、西洋には伝わっていなかったのだ。
そして、探究が始まった。
掲示板やファイル共有のコミュニティを巡っては、古い日本製コンピュータで動く、面白そうなゲームを探し歩いた。MSX、PC-8801、X68000、FM TOWNSといったマシン向けの作品のことだ。
そうして見つけ出した作品の大半はグラフィック・アドベンチャーで、内容といえば暴力的だったり、性描写を含むものであったりした。それでいて、奇怪な魅力を放っていたりするのだ。それは、西洋のゲームには見られないものだった。
「これらの作品は、いわゆる決まりごとに縛られていない。そうしたものを、今のゲームは強制されているけどね」
それはたとえば、サイケ風味のダンジョン探検ゲーム「陽炎迷宮」、名作漫画のゲーム化「ねじ式」などで、いずれも小さなソフトハウスの作品である。そして、大量の成人向け作品がある。
「成人向けのゲームは、かなり大きな比率を占めている」
もっとも彼は、そうした作品の細部をことさらに取り上げたりはしない。彼のゲームに対する関心は、もっと幅広いものなのだ。
「こうしたゲームには、本来の狙いとはかけ離れたような表現がある。それはシュールだったり、詩的だったり、あるいは不快感を抱かせるようなものだったりする。そういうところに面白みを感じてるんじゃないかと、自分では思っているけどね」
「それに、われわれはこうしたゲームを当時やったわけじゃないから、ノスタルジアとも無縁なんだ」
ゲームの内容を切り出すのに使っているツールは、8年前のMacBookと、同じ頃に入手したPhotoshopである。ゲームプレイを録画し、そのデータから抜き出した画像をつないで、アニメGIFを作るのだ。
そうして作ったものの中には、「雨月奇譚」というホラーゲームのシーンを再現した12分におよぶ大作や、アドベンチャー・ゲーム「マルサの女」から抜き出した1500点ものフレームから構成した日没のシーンがある。
「ブログではいろんなゲームを紹介しているけれども、実はそうした作品も、内容的には問題があったりするんだ」
「だから、そういう問題のある要素は伏せておいて、あくまで興味深いところだけを見せるようにしている」
そこでは、さまざまなジャンルが、無造作に組み合わされ、醜悪さと優雅さが紙一重であることが思い知らされる。そこには確かに、興味深いものがある。
もっとも、だからこそ、これらの作品群はヨーロッパにもアメリカにも紹介されなかったのかもしれない。
だがfmtownsmartyは、実際のところはもっと単純な話なのではないかと見ている。
「こうしたゲームの大半は、テキストが大きな要素になっているんだ。それで、翻訳にかけるコストを考えると、とても割に合わないと判断されたんじゃないかな。出しているのも小さなソフトハウスだしね」
そして残されたのは、どこまでも奇妙なゲームが作り出す宇宙であり、それは日々、fmtownsmartyによって成長をつづけている。
それはひとつの並行宇宙であって、そこではマリオやパックマンが隅に追いやられ、小さくなっているのだ。なんと美しい世界であることか。
Der Blog von FMtownsmarty schickt euch auf einen Trip durch alte japanische Videospiele - Wired Deutsch
残念ながら、PCゲームに関してはごく一部の人気作が海外のPCに移植された程度で、大きな影響を与えるには至りませんでした。それに、たとえ入手できたところで、言葉や対応機種の問題もあり、その内容を存分に理解するのは容易ではありません。
そんなわけで、海外のゲームファンにとって日本製のPCゲームはきわめて敷居の高いものだったのですが、その状況を変えたのがネットの普及でした。掲示板などで活発な意見交換がなされており、今では日本の状況がそれなりに伝わっているようです。
そのような日本のPCゲームに興味をもつ外国人の中で、とりわけ目立つ存在が、fmtownsmartyを名乗る人物でした。
この人物は2008年からtumblrでブログを始めているのですが、その内容といえば、ひたすら日本産PCゲームの画像を貼り付けていくというものでした。それが今では膨大な数になっており、またその内容から、相当な規模の日本製ゲームのコレクションを持っていることがうかがえます。
さらに、選ばれているゲームの大半が、アドベンチャーゲームという、ますます海外では伝わりにくいジャンルであることも注目された理由でしょう。
fmtownsmarty.tumblr.com
なお、紹介されているゲームの大半はPC88、98シリーズのもので、それ以外はX68000やFM TOWNSの作品が少しある程度です(fmtownsmartyという名前はたんなる符号で、別にこの機種にこだわりがあるわけではないのだとか)。ただ、88、98以外の機種はスクリーンショットを取ることが簡単ではないとも説明しており、必ずしも当人の好みというわけでもないようですが。
その一方で、掲載しているゲーム自体の説明などはほとんど載せていないため、そのような情報も載せてほしいという声が多く寄せられていたようです。
そのような外部からの意見については、たまにコメントを返す程度で、しかも質問に正面から答えているものはあまりありません。ゲーム本体のありかを訊かれたりもしているのですが、当然ながら共有などもしていません(ただしゲームのタイトルについては、2011年以降のエントリから固有URLに含めるようになっています)。また、ゲーム関連のマスコミにおいても、取材にいっさい応じないことで知られていました。
ところが先日、ドイツ版「WIRED」誌のサイトにそのfmtownsmarty氏のインタビュー記事が公開されていたのです。以下に、その記事の内容をかいつまんでご紹介します。
* * *
「パックマン」や「スーパーマリオ」が出てからというもの、われわれは知っている。もっともすばらしく、もっともどうかしているゲームは、常に日本から現れるということを。だがそれらのうち、海外のPCやゲーム機に移植されたものはごく一部にすぎない。
ところが、ありがたいことにfmtownsmartyを名乗るニューヨーク在住のブロガーが、狂気に満ちた、知られざる日本のアドベンチャー・ゲームの数々を披露してくれているのだ。
26歳のニューヨーカーという以外、身元を明かそうとしないこの人物は、日本の80、90年代のゲームの画面写真やgifアニメを毎日のようにtumblrにアップロードしている。その名前は、かつて富士通が1993年に発売し、大失敗に終わったゲーム機のものを借用しているのだ。
彼が日本産ゲームに飽くなき探求心を抱くようになったきっかけは、マリオやゼルダではなく、「デッド・オブ・ザ・ブレイン」というアドベンチャー・ゲームだった。
「アメリカのホラー映画を元にしたゲームなんだ。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と『ターミネーター』を掛け合わせたような内容でね。とてもおぞましく、野蛮なものだよ」
グーグル翻訳を駆使して、このゲームの情報を集めてみた。すると、自分が持っているバージョンはリメイク版であり、2作の旧作を組み合わせて、しかも表現を柔らかくしたものであることが分かった。
「それで思ったんだ。きっと日本には、この手のゲームが山ほどあるに違いないってね」
そのようなものの存在自体が、西洋には伝わっていなかったのだ。
そして、探究が始まった。
掲示板やファイル共有のコミュニティを巡っては、古い日本製コンピュータで動く、面白そうなゲームを探し歩いた。MSX、PC-8801、X68000、FM TOWNSといったマシン向けの作品のことだ。
そうして見つけ出した作品の大半はグラフィック・アドベンチャーで、内容といえば暴力的だったり、性描写を含むものであったりした。それでいて、奇怪な魅力を放っていたりするのだ。それは、西洋のゲームには見られないものだった。
「これらの作品は、いわゆる決まりごとに縛られていない。そうしたものを、今のゲームは強制されているけどね」
それはたとえば、サイケ風味のダンジョン探検ゲーム「陽炎迷宮」、名作漫画のゲーム化「ねじ式」などで、いずれも小さなソフトハウスの作品である。そして、大量の成人向け作品がある。
「成人向けのゲームは、かなり大きな比率を占めている」
もっとも彼は、そうした作品の細部をことさらに取り上げたりはしない。彼のゲームに対する関心は、もっと幅広いものなのだ。
「こうしたゲームには、本来の狙いとはかけ離れたような表現がある。それはシュールだったり、詩的だったり、あるいは不快感を抱かせるようなものだったりする。そういうところに面白みを感じてるんじゃないかと、自分では思っているけどね」
「それに、われわれはこうしたゲームを当時やったわけじゃないから、ノスタルジアとも無縁なんだ」
ゲームの内容を切り出すのに使っているツールは、8年前のMacBookと、同じ頃に入手したPhotoshopである。ゲームプレイを録画し、そのデータから抜き出した画像をつないで、アニメGIFを作るのだ。
そうして作ったものの中には、「雨月奇譚」というホラーゲームのシーンを再現した12分におよぶ大作や、アドベンチャー・ゲーム「マルサの女」から抜き出した1500点ものフレームから構成した日没のシーンがある。
「ブログではいろんなゲームを紹介しているけれども、実はそうした作品も、内容的には問題があったりするんだ」
「だから、そういう問題のある要素は伏せておいて、あくまで興味深いところだけを見せるようにしている」
そこでは、さまざまなジャンルが、無造作に組み合わされ、醜悪さと優雅さが紙一重であることが思い知らされる。そこには確かに、興味深いものがある。
もっとも、だからこそ、これらの作品群はヨーロッパにもアメリカにも紹介されなかったのかもしれない。
だがfmtownsmartyは、実際のところはもっと単純な話なのではないかと見ている。
「こうしたゲームの大半は、テキストが大きな要素になっているんだ。それで、翻訳にかけるコストを考えると、とても割に合わないと判断されたんじゃないかな。出しているのも小さなソフトハウスだしね」
そして残されたのは、どこまでも奇妙なゲームが作り出す宇宙であり、それは日々、fmtownsmartyによって成長をつづけている。
それはひとつの並行宇宙であって、そこではマリオやパックマンが隅に追いやられ、小さくなっているのだ。なんと美しい世界であることか。
Der Blog von FMtownsmarty schickt euch auf einen Trip durch alte japanische Videospiele - Wired Deutsch