憲法は何のため:9条、ヘイトスピーチ、同性婚を考える

2015年05月01日

立憲主義について語る専修大の田村理教授=東京都千代田区で2015年4月21日、後藤由耶撮影」
立憲主義について語る専修大の田村理教授=東京都千代田区で2015年4月21日、後藤由耶撮影」

 ◇専修大・田村理教授インタビュー

 憲法はそもそも何のためにあるのか? 「公権力に歯止めをかけ、必要なことをさせる使い道を決めるもの」。専修大学法学部の田村理教授(憲法学)の答えは明確だ。こうした考えを「立憲主義」と呼ぶ。では、どう使っていくのか。9条やヘイトスピーチ、同性婚を題材に田村教授と一緒に考える。【石戸諭/デジタル報道センター】

 立憲主義を大事とする理由は明確だ。「国や内閣といった公権力は余計なことをしてしまうこともある」から。憲法は公権力に必要なことをさせ、余計なことをさせないことを定めた規定なのだ。

 「立憲主義」という言葉がメディアで多く使われるようになったのは2010年代から。田村教授はその背景を「冷戦構造も終わり、日本の国際貢献と安全保障が議論される中で(憲法9条を)『護憲』と言えば支持が集まる時代ではなくなった。別の言葉で語る必要があり、注目が集まったのでは」と分析する。

 立憲主義を重視する田村教授は「護憲」派、「改憲」派に疑問を投げかける。「9条を変えなくても自衛隊は合憲、国際貢献も大事だという論調も目につきます。では、自衛隊という公権力に対し、どのような歯止めをかけるのか。9条の条文を変えずに集団的自衛権を認めるのも疑問です。これは立憲主義の骨抜きではないか。権力に歯止めをかけるという立憲主義をぐらつかせてはいけない」

 憲法の問題は9条だけではない。現実の問題を考えるときにも使える。ヘイトスピーチと同性婚を例にとって考えてみる。

 過激なヘイトスピーチは、法律で規制すれば解決するのだろうか。田村教授は「『表現の自由』が絡む問題について法規制という手段には慎重すぎるくらいでいい」と話す。「なにが『ヘイトスピーチ』で、なにがそうではないのか。公権力が判断するのは危険だと考える。政権に批判的なデモも、恣意(しい)的にヘイトスピーチと判断される可能性もある」からだ。解決策は「対抗言論を強め、既存の刑法の名誉毀損(きそん)や民事上の不法行為で対応すること」。手間と労力はかかるが、表現が絡む問題について権力の介入は最後の手段だと考えたほうが良さそうだ。

 次は最近、注目されている同性婚。憲法24条では「両性の合意」で結婚できる、とある。では同性婚は違憲なのだろうか。田村教授の読み方はこうだ。「条文の趣旨は『両性の合意』以外の余計なことを婚姻の条件にするな、ということです。ポイントは同性婚を認めてはいけない、と命じてはいないところです」。趣旨から解釈すれば、同性婚を法律で定めることを禁じてはいない、ということになる。

 憲法は、社会の問題や生活にも直結している。憲法をどう使うか。これを機に考えてみよう。

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 たむら・おさむ 1965年新潟県生まれ。専門はフランス憲法史、憲法学。福島大学行政社会学部助教授などを経て専修大学法学部教授。主要著書に「憲法を使え! 日本政治のオルタナティブ」(彩流社)など

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