東京に「島の大使館」をつくりたい──そう語るのは、島根県海士町で地域づくりや教育、メディア事業を通して持続可能な暮らしを探っている、株式会社巡の環の信岡良亮(のぶおか りょうすけ)さん。
これからの日本の未来を考えるための場所だという、江戸時代の「藩邸」をモデルにした島の大使館構想について詳しくうかがいしました。(聞き手:タクロコマ)
日本の未来をつくるための、都市と田舎を繋ぐ拠点とは
── これからは、地域と関わりのある人口である「関係人口」を増やしていくことが大切になるのでしょうか。
信岡良亮(以下、信岡) そうですね。そういう意味で「島の大使館構想」を2、3年前くらいから考えはじめています。
── 島の大使館構想?
信岡 地域の特産品を販売したり、情報発信したりしているアンテナショップってあるじゃないですか。日本橋にその島根館があります。しっかり売上を上げていてすごいことだなと思っています。とはいえ、消費者と生産者という関係性は変わらないんです。いいものだから、安いものだから「買う」という世界です。
── 理想の関係性というのはどういうものでしょうか。
信岡 都市と田舎のお互いが、今どういう関係性にあるのかを学びながら、一緒に歩み、改善を進めていける状態でありたい。そう思った時に、都市と田舎の文化交流、というか共に生きるための拠点として「島の大使館」がほしいと思ったんです。ぼくの中では、これからの日本の未来を共につくっていくための役割分担を、共に考える場として捉えているイメージですね。
都市と田舎が一緒になってほしい未来を創っていく。これは集団登校だと思いました。集団登校って班長と副班長がいますよね。班長は先を行く人、副班長は後から全員が来ているか見る人。この両者の意思疎通ができたまま同じ方向に向かっている時は、チームとして集団登校ができます。これの都市と田舎バージョンをつくることで、一緒に歩んでいけるチームが作れるのではないか、と。
その田舎側のモデルが海士町として、巡の環があります。そして都市と田舎で関係性を築き、維持する拠点をつくりたいと思って、ぼくはいま東京に来て活動しています。
暮らしの中で必ず島を意識できる構造・仕組みに
── 具体的に島の大使館に持たせたい機能はありますか?
信岡 3階建ての一軒家を想像していて、3つ機能があります。1階は暮らしと実践のフロア。基本はカフェと物販ができるスペースです。ここで島の食材を取り扱って、島の料理を食べます。日々の生活のなかで島との繋がりを実(じつ)で感じられる場所。
2階はワーキングスペースになっている働き方のフロアです。地域や日本の未来についてを考えたい人たちが集まる場所です。この人たちには、打ち合わせをする時に1階を使ってもらいます。そうすると話し合いをしながら島の大使館の説明をして、この場所のファンが増えていきますよね。
3階は学びのフロアです。いまぼくが東京の自由大学で担当しているコミュニティリレーション学や都市農村関係学、それからAMAカフェのような大人数が集まるイベントなどの時には、料理が1階から来ます。料理や講座のテーマなどの「何か」で、必ず島と関係を持つ仕組みにします。すると島の大使館に来る人たちと、食事や仕事といった「日々の暮らしの範疇」で繋がっていけるんです。
── この場所に集まった人たちとやってみたいことはありますか?
信岡 都市と農村の関係性を可視化できるようにしたいですね。たとえば僕たちはカフェでいつもお茶を飲んで、味や価格の話をしていますよね。でも、お茶を飲んだら生産者にどんな影響があるのかはわからない。
── そうですね。
信岡 価格を安くする時には、農家や漁師の収入はこれくらい下がる。逆に売上を上げようと思った時に生産者の収入を変えずに売上を上げても、都市側しか潤いませんよ、と。今まで見えなかった都市と田舎の関係性が見えるような世界になった時に、「じゃあ、どうしたら幸せになるのだろう?」とみんなで考えたいんです。
もし海士町に自生している「有機のお茶だったらもうちょっと高くてもいい」という人がたくさんいれば、一杯1,000円に値上げして、みんなが先払いしたらいい。要するに、ちゃんとコミットすることが重要。みんなでいい関係性を築いていくための共益費がある代わりに、島の大使館で食べる分だけのチケットがもらえます。それを人に配ってもいいし、自分で食べに来てもいい。そもそも買い支えが先にできるから、計画的に精算できる仕組みになっていく世界になると思っています。
江戸時代の「藩邸」がモデル?
── ちなみにこの大使館構想のモデルはあるのでしょうか。
信岡 江戸時代にあった「藩邸」ってわかります?
── 土佐藩邸、薩摩藩邸とか?
信岡 そうです。江戸時代には、各藩の藩主を定期的に江戸に出仕させる「参勤交代」というシステムがあって、江戸に来た人たちが藩ごとに集まる拠点を領地館として持っていたんです。たとえば薩摩藩の西郷隆盛は、江戸に来ると大久保利通や坂本龍馬と一緒に、薩摩の未来を考えるための作戦会議を藩邸でしていました。
── 島の大使館には、どのような人に集まってほしいでしょうか。
信岡 ぼくは「微力」な人たち同士が集まって未来に向かいたいです。自分自身も微力ですからね。ただ、無力とはまったく違うなあと思っています。3,000円だけ月々で出せる人が1万人いると、3,000万円になる。これでおそらくカフェが運営できますね。次の未来に繋がっていく感情を持てることが大切だと思います。
それが最終的に自分たちの未来をつくっていくための「自治力」に変わってくと思うんです。そうじゃないと自分たちが未来をつくっているわけではないから、未来をつくる政治家や企業の偉い人が悪いという話になってしまう。
でも、そうではないよね。みんなで決めている未来だから。それを考えていけるための、いちばん小さなモデルとして島の大使館をつくりたいと思っています。だから、じつは島の大使館なんだけど、本当は1~3階までのフロア全部を合わせて「民主主義の学校」だとぼくは思っているんです。
高度経済成長の時代として1970-80年代を語る人もいますが、労働力人口が養う必要のあった人口よりも圧倒的に多かった、人口ボーナス期の世界としてそれを捉えると、少子高齢化の中で人口が減少していく社会は、人口オーナス(負担)の世界です。今までにない価値観に転換していく時代とも言えます。それに対応できるだけの自治力をつけていく必要があると思うのです。
── 実際に大使館ができたら、自治に関わっていこうとする人もいれば、経済のほうに向かう人も出てくる。いろんな形に分岐していくのだと思います。実現されるのを、とても楽しみにしています。今日はありがとうございました。
信岡 こちらこそ、ありがとうございました。
お話をうかがった人
信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」
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