物価目標後ずれ、日銀への信認揺らがず=黒田総裁
[東京 30日 ロイター] - 日銀は30日の金融政策決定会合で、半年に一度の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表し、2015年度物価見通し(生鮮除く消費者物価指数、消費税の影響除く)を前年比0.8%と1月の1.0%から下方修正した。
同時に2%の物価目標達成時期を「2015年度中心」から「16年度前半」に後ずれさせた。しかし、物価の基調は上昇を続けているとして追加緩和は見送った。
黒田東彦総裁は記者会見で、目標達成時期が後ずれしても「日銀に対する信認が揺らぐ必要はない」と指摘。2%の物価目標を「2年程度の期間を念頭に、出来るだけ早期に実現するとのコミットメントは、これを変更する考えはない」と述べ、2年程度で2%の物価目標を達成するとの「旗」は、下ろさないという姿勢を鮮明にした。
<後ずれしているのは事実だが、追加緩和不要>
16年度については2.0%と、従来の2.2%から小幅下方修正した。今回初めて公表した17年度見通しは、2.2%とした。成長率については15年度2.0%、16年度1.5%とそれぞれ小幅下方修正。初めて示した17年度は、消費税引き上げの影響で0.2%と大幅に減速する見通しとした。
黒田総裁は物価目標の達成時期が「確かに後ずれしているのは事実」と認めた。同時にベースアップや賃上げの動きなどから物価の基調は着実に改善し「今後とも改善が続く見通しなので、今の段階で何か追加的な緩和は必要ない」と言い切った。その上で「物価の基調が変わってくればちゅうちょなく政策の調整を行う考えに変わりはない」との公式見解を繰り返した。
目標達成時期を後ずれさせたことが、日銀の信認に影響しないか、との質問に対し、黒田総裁は、米欧も原油価格下落で「足元の物価がマイナスになっている」「米国は(期待インフレ率が)アンカーされているとして追加緩和はしてない」などと指摘。「信認は外の方が抱かれるもので、何か私が一方的に決めつけることはないが、私たちからすれば低下する必要性はない(信認は揺るがない)と思う」と述べた。
<早期目標達成コミットメント「極めて重要」>
黒田総裁は、未達には終わったものの、2年程度を念頭にできるだけ早期に目標達成するとのコミットメント(必達目標)は「極めて重要」で、「これを変更する考えはない」と断言。「2%の物価安定目標の早期実現にコミットすることで、人々のデフレマインドを転換し、予想物価引き上げることがデフレ脱却そのものであるとともに、量的・質的緩和の政策効果の起点でもある」と説明した。
今後の物価の見通しについては「当面ゼロ%で推移する」とし、昨年夏以来の原油価格下落の反動で「何月と特定はしないが15年度後半に加速する」とし、「加速する時期については従来の見通しと変わらない」と述べた。
<原油価格は想定通り、消費鈍く物価見通し下方修正>
日銀は今年1月から物価見通しの前提として、原油価格の前提を公表している。ドバイ原油は現在、1バレル60ドル台前半。「16年度末にかけて70ドルぐらいに緩やかに上昇していくとの(1月の)見通しにほぼ沿っている」と述べた。
にもかかわらず、今回の15年度物価見通しを引き下げた理由について、委員の間で「個人消費の改善の動きに鈍さが見られ、需給ギャップの改善がやや後ずれしているとの指摘があり、反映されたためではないか」と説明した。
<株急落との関係を否定>
30日の日経平均株価.N225は前営業日比で500円以上急落したが、総裁は「株価の1日の動きにはコメントしない。(政策決定が株安を招いたとの)報道もなかった」として、金融政策と株安の関係を否定した。
また、「白井さゆり委員からは達成時期は16年度中とする、木内登英・佐藤健裕両委員からは見通し期間中に2%に達しない前提とする提案が出され、それぞれ否決された」と説明した。
16年度と17年度の物価について、2年連続で2%程度との見通しを今回公表したことで、金融緩和から引き締めに転じる出口が連想されるが「今回出口についての議論はなかった」「今の見通しで出口を特定できるものではない」「いずれにせよ今は2%の物価安定の実現に向け最大限の努力を払っている最中であり、出口ついて議論するのは時期尚早」との従来見解を繰り返した。
欧州がデフレと言われているように日本もデフレなのでは、との質問に対して「全く違う」と反論。「欧州の場合は従来、物価上昇率がマイナスではなかった。そうした中で最近になって特に原油価格の下落以降、マイナスに転じている。日本は15年続きのデフレにあり、プラスに転化していたが、足元で原油価格の影響で上昇率が下がってきた」などと説明した。
<ドル独歩高止まっている>
米1─3月期の成長率が大幅に鈍化した背景と、米国の輸出に影響しているとされるドル高にいて、「ドル高は確かに起きたが、最近の時点ではドルの独歩高は実は止まっており、安定的に動いている」と述べた。米国経済は「4─6月期以降は元の成長経路に戻る」との見解を示した。
米格付け機関・フィッチによる日本国債の格下げについて「意見を申し上げるのは差し控えたい」としつつ、「財政規律は極めて重要で、国全体で財税運営の信認確保が重要。政府は財政健全化目標を夏までに策定するもようで、政府の取り組みが着実に進んでいくことを強く期待している」と述べた。
アジアインフラ銀行(AIIB)への日本の参加是非については「政府が議論し決定するので、私から申し上げるのは差し控えたい」と述べるにとどめた。
<論理に無理生じている─市場の見方>
日銀の決定内容と総裁会見を受けて、市場関係者の間では「目標達成時期は16年度前半ごろになると変えているにもかかわらず、基調はしっかりしているとの言い方で追加緩和を逃げた印象。論理に無理が生じている」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏)との指摘が見られた。
追加緩和について「日銀は賃金上昇の動向を見極めたいと思っているはずなので、その評価が出てくる秋口には、踏み切る可能性がありそう」(あおぞら銀行・市場商品部部長の諸我晃氏)との声も聞かれた。
(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)
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