「大阪都構想」への賛否を問う住民投票が告示された。大都市の在り方を直接、住民に問う過去に例のない試みだ。その結果が左右するのは、大阪の将来ばかりではない。無関心ではいられまい。
橋下徹大阪市長が掲げる都構想は、人口二百六十万人の大阪市を五つの特別区に分割し、都市開発やインフラ整備などの権限を大阪府に集中させるものだ。特別区は公選区長と議会を持ち、福祉や教育などの住民サービスを担う。
五月十七日の投票で賛成が反対を一票でも上回れば、大阪市は二〇一七年四月で廃止され、東京とほぼ同じ形の自治制度に移行することになる。
橋下市長が率いる大阪維新の会は「大阪市が政令指定都市として強い権限を持つため、府市が競い合って大規模開発や病院運営などを手掛ける二重行政で無駄を生んできた」と指摘。広域行政を府に一元化することで、財政効果は向こう十七年間で二千六百億円に上ると主張する。
府市両議会で野党の自民、民主、公明、共産は「市を廃止しなくても二重行政は解消できる」と反論し、「維新が言うほどの財政効果はなく、サービスの水準も低下する」と主張する。
商都と呼ばれた大阪の地盤沈下は指摘されて久しい。裕福な住民は郊外に流出し、生活保護受給者が全国でも群を抜いて多い。
このような状況の中で持続可能な大都市の将来像をいかに描くのか。その論点は本来、地方政治の最重要課題だったはずである。
ところが、異論に耳を傾けようとしない橋下市長と野党四党の間で議論が深まることはなく、都構想は一時、暗礁に乗り上げた。
両議会での議論が熟さぬまま突然、住民投票が決まったのは、都構想に反対していた公明党が「住民投票実施には協力する」と不可解な方針転換をしたためである。
自民党の姿勢も有権者を困惑させる。大阪府連は都構想に反対だが、安倍政権は悲願の改憲で手を組める橋下市長を後押しする。橋下市長が“勝利”すれば、中央政界への影響は必至という。
実施に至る経緯に疑問が残ることは残念だが、今回の投票が、これからの自治の在り方を考える試金石であることは間違いない。
政令市は二十市に増え、二重行政の問題は大阪に限らない。浜松市のように過疎地域を抱える政令市もある。その将来像をどのように描くか。大阪の試行錯誤は、他の大都市にも一石を投じよう。
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