日本政府は外国メディアに不当な圧力をかけているのではないか。そう疑われても仕方のない事態が起きている。

 ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの東京特派員カルステン・ゲルミス氏が5年余りの任期を終えるにあたって日本外国特派員協会の会報誌に回顧談を寄せ、「外務省からの攻撃にさらされるようになった」と振り返った。昨年夏、安倍政権を「歴史修正主義」と批判する記事をゲルミス氏が書いたところ、フランクフルトの日本総領事が同紙の本社を訪れ、編集幹部に抗議したのだという。

 その際、総領事は「中国が反日宣伝に利用している」「金が絡んでいると疑い始めざるを得ない」と侮辱したと、ゲルミス氏は書いている。この点について外務省は否定する。

 記事に対し外務省が反論するのなら、投稿などオープンな方法で伝えればいい。わざわざ本社に乗り込んで抗議するのが適切な方法だったのか。メディア側に圧力と受け止められれば、対外広報としては失策だ。

 報道の自由は民主政治の根幹のひとつである。このことを外務省はどれだけ理解しているのだろうか。

 米紙の東京特派員が、在米日本大使館幹部から圧力と疑われるメールを受け取っていたことも明らかになった。慰安婦問題で安倍政権批判のコメントを寄せた学者について「よく分からない人物」と評し、別の学者に取材するよう勧める内容だった。外務省は「あくまで個人的な意見」と釈明するが、特派員としては政府の圧力と受けとっても当然だ。

 フランスに本部を置く「国境なき記者団」が今年2月に公表した報告は、報道の自由度ランキングで日本の順位を昨年から二つ下げ61位とした。昨年12月に施行された特定秘密保護法によって、取材のやり方次第で記者が懲役刑を受ける可能性が生じた点を重くみたためだ。

 米国の非営利団体「フリーダムハウス」も同様の理由から、日本の報道の自由度が下がったと判断している。

 これらの見方がすべて妥当とは限らない。ただ欧米でそんな見方が広がっていることは、意識しておく必要があろう。

 外務省は外国の世論に直接働きかける「広報文化外交」を重視している。積極的に情報を発信し、日本の政策や文化への理解を深めてもらう狙いだ。しかし、いま起きているのは、外務省が率先して自国の印象を損なっているという倒錯である。根本的に考え直した方がいい。