ビー玉
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ビー玉

2015-04-28 17:47
    女友達にシノという子がいる。(仮名)



    気がついたらなぜか側にいるというようなふんわりした雰囲気の子で
    あまりアクがない。
    ぼくと仲良くなったのは、年が近いからという理由と
    同じ犬種のゴールデンレトリバーを飼っていたという理由。
    お互いのゴールデンは生まれた月も近いので子犬の時から一緒に遊ばせていて
    山や海や池や公園や野原や、お互いの家の中や庭や
    春も夏も秋も冬も、いつもいつも
    ぼくとシノが一緒にいたみたいに、僕らの犬もいつも一緒にいた。


    犬たちが遊び疲れてリビングで昼寝をしはじめると、シノもよくソファでごろんとなって
    色々なことをしゃべってくれていた。ぼくは黙ってそれをうんうんと聞くのが好きだった。


    飼い猫の1匹がシノのおなかの上で撫でられながら、

    「この子の目、ビー玉みたい。。おもいだした。ビー玉の話」

    シノの女友達の話がはじまった。
    高校時代に、その女友達は大学生の彼氏とつきあっていたらしい。
    だがその男は、とにかく女好きで
    いつもいつも別に彼女を作っては、泣き、もうしません、の繰り返し、だったらしい。

    見かねたシノが
    「あんなのもうやめたら?」
    という話を持ち出して
    もうやめるんだったら、最後の最後にちょっとした仕返しをしてあげましょうよ
    ということになったのだと。

    何をしたんだ、君らは、と聞いたら

    うふふ、と笑って

    「お小遣いを、ね。お互いのお小遣いをぜーんぶ出して、ね」

    「うん」

    「たくさーんのビー玉を買いました」

    「なんだそれ、小学生みたいな。・・・それをぶっつけたとかいう?」

    「ちがうよ」


    なんとその大量の数えきれないビー玉をよいしょよいしょと運んで
    彼氏のアパートまで行き
    床じゅうに
    ビー玉をばらまいてもどってきた、と
    玄関まで溢れるくらいの量だった、と


    「え、それでそのあとのはなしはどうなった?」

    「しらない」

    と言った後に

    「それをね、想像するだけでおもしろいじゃん?」

    といって、また猫を撫でながらクスクス笑っていた。



    たしかに、
    その男がアパートに戻って
    鍵を開けた瞬間
    どんな顔をしたのか、どうやってそのビー玉を処理したのか
    想像しただけでちょっと笑えた。

    「あんな男、ビー玉の部屋の中で転げまくったんだわきっと」



    のんびりした口調で、怖いこというよなあこいつ、と思いながら
    そんな仕返し、聞いたこともないや・・・小学生レベルだけど
    案外使えるよなあ、とか考えていて
    気がついたら
    シノは眠ってしまっていた。



    全く、犬も猫も友達も、よく寝るよなあ、と思いながら
    ソファを占領されてしまったぼくは

    しぶしぶ自分のベットに行ってごろん、と横になった。

    ちょうど今みたいに
    春から夏に切り替わる季節で
    窓からの風がどことなくひんやりして
    庭のけやきの新しいはっぱが、さわさわと静かに音をたてていて


    「もし、目が覚めて床がビー玉だらけだったら どうしよう」


    とか
    ちらっとシノの眠っているソファをみて

    ないない

    と思って眠った。



    思い出は、切り取られた1枚の絵ハガキみたいに
    記憶の中に綺麗に納められている。
    のだが



    未だに、ビー玉をみると
    シノとその話しを一番に思いだして少しだけ笑ってしまう。

    それから
    その話しをしていたあのリビングの光景は
    今考えても至福だったよな、なんてうっかりうっとりしてしまうのだった。


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