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ゼノブレイドはなぜ面白いのか 〜 ヘイトコントロールがストーリーを前進させる

2015.04.28

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ゲームへ向き合わせるストーリー手法

遂にWii U用ソフト「ゼノブレイドクロス」発売が明日に迫っている。ゼノブレイドクロスの話はおいおい書いていくとして、今回は前作である「ゼノブレイド」の話をしたい。遡ること2010年、「J−RPG冬の時代」にWii用ソフトとして発売された「ゼノブレイド」は予想を超えた反響があり、国内外に多くのファンを生み出した。Wiiが生み出したゲームの最高峰の一つといっても過言ではないだろう(現在New Nintendo3DS用ソフトとしても販売されている)。かくいう私も発売日にこそ購入はしなかったものの評判を聞いて購入、その面白さにどっぷりハマってしまった(そのせいで何度か寝坊した記憶もあるが今その詳細を書くのは避けよう)。

ではゼノブレイドの何が面白かったのか。魅力歴なキャラクター、巨人の上に住んでいるという驚きの設定、どこまでも歩き回れる広大なフィールド、奥深い戦闘システム、胸を熱くするサウンド…どれもこのゲームを語るのに欠かせない要素だが、ここではストーリーとその手法について語りたい。おそらく多くの人はストーリーとは属人的な独特のセンスの上に成り立つものだと考えていると思う。しかしこの作品を触れたことを機に私はストーリーとは芸術ではなく、工学的な視点で考えることできるものだと理解した。そしてストーリーが生きるのは何も小説や映画、ゲームの中だけではなく、我々の仕事一般、人間の価値観とも強く結びついている。少なくとも私のような仕事の人間は知っておくべき「技術」である、というのが最近の自分の考えだ。以下の分析はスライドにまとめてどこかで発表する予定だったが、クロス発売記念ということでブログに残したい。

ヘイト(憎しみ)をコントロールする

ゲームに必要なものはなんだろうか。目標である。RPGでは目標を達成するために敵と戦ったり、冒険をしたりする。手近な目標を達成したら次の目標へ、これを繰り返すことで遊ぶゲームだ。そこで目的を見失ったら…プレイヤーはコントローラーを手放すだろう。しかしゼノブレイドは決して目標を見失わせない。

ゼノブレイドのうまいところ、それは敵がとにかく悪いことだ。平和に暮らしていた主人公たちの街を機神兵と呼ばれる敵ロボットが襲い、街は焼かれ、主人公は大切にしていたものを喪失する。ここで深い絶望をプレイヤーにこれでもかと味あわせる。だから主人公がこの街を出て、敵を追う理由がすんなりと理解できる(堀井雄二はドラゴンクエストヒーローズで同様の演出を行っている)。

あまりにも単純なことだがこれができていないことが意外と多い。例えばファイナルファンタジーのようなビッグタイトルではどうしてもストーリーを長くせざるを得ないため、「真の敵」を出さざるを得ない。しかしその真の敵がプレイヤーにとっても唐突な登場だと「この人誰?」となって興醒めしてしまう。またストーリーに "深み" を与えたいと言って敵を完全な悪ではなくしたりもする。その踏ん切りのつかなさが目標に向かう意味やモチベーションを削いでしまう。

目的の提示・解決・再提示、その過程で何を得、失うのか

このゲームの目的は街を焼いた敵を追いかけ、復讐することだ。そして場所場所で敵と戦いながら追いかける。どの場所でも敵は非道の限りを尽くす。主人公をはじめとした人間たちを簡単に殺し、虫けら扱いする(その煽りの見事なこと!)。主人公はそれでも戦うんだとタンカを切る。そこに盛り上げるようなアツい音楽!ゼノブレイドはこのタームをまるで週1で放映されるアニメのようにこれを繰り返す。結果主人公たちは目的を果たす。その中で何かを得て、何かを失う。得るのは「新しい仲間」「新しい能力」「新しい考え方」など、そして一方で「仲間の犠牲」「重要なアイテムの喪失」「今まで持っていた考えの否定」などが起こる。得たものは次の目標を達成するための重要な鍵となる。これがあるからプレイヤーは登場人物たちの “成長” を感じ取る。一方失ったものたちは次の目的へ進む理由、原動力につながる。仇打ちか、何かを取り返すのか…ともかくこの一連の流れを繰り返すことがゲームにおいてストーリーを進め、主人公たちの心象や行動に寄り添っていくことで物語に没入していく。

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では敵を打ち倒したら?新しい敵の登場だ。もちろん自分は悪であるということを強く意識させるような振る舞いをしてスムーズに交代する。新たな悪役は一点の曇りのない悪に見えるよう努力しなければならない。このような次の目標へのヒキはマンガの手法に近い。ゲームは続きがすぐに遊べるが、連載マンガは1週間読者を待たせなければならないのだからゲームよりもっとシビアだ。

プレイヤーを導き、テーマを理解させる

このようなループを繰り返す中でテーマを語る必要がある。テーマが語られなければループする意味がないからだ。一連のループを経て主人公は何を得たのか?何が変わったのか?世界は何を失って何を得たのか?主人公の勝利は、主人公の主張の勝利を意味する。それがストーリーが一番伝えたかったことになっているはずだ。これ以外にもキャラクターの妙やゲームとの結びつけのうまさなど枚挙に暇がないがいつかの機会にとっておこう。

何もストーリーが関係するのは小説や映画、ゲームにとどまらない。何かモノを誰かに買ってもらおうとした時にもストーリーは付いて回る。この商品がいかに優れているか、いかに得かが直接購買者に語りかけることはない。購買者の後ろに流れるストーリーにどう関与するかではないか。個人的には今そういった視点をもっと掘り下げていく必要を感じて、小説を書くわけでもないのにストリーテリングの勉強を始めている。センスではなく、メカニズムでストーリーが作れるのなら大きな価値になるはずだ。

…とまあ難しいことは抜きにして。ゴールデンウィークぐらいゲームで遊ぼうじゃないですか。ゼノブレイドもゼノブレイドクロスもあることだし、遊んで勉強になるならこれ以上のことはないですよね?

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