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2015/04/26new

「社会科学」(sciences sociales)の歴史について

Tweet ThisSend to Facebook | by oksyk
まじめにsocial scienes / sciences sociales概念および実践の歴史を追いかけなければと思いながら、色々なものに流されて出来ないまま随分時間が経った。そろそろ意識しないとこのまま出来なくなると危機感を感じた。丁度つい最近、Revue d'Histoire des Sciences Humainesが復刊したという知らせもあったし、いい機会なのでとりあえずブログを書いておく(なお、英語圏でそれに相当するものは History of Human Sciences のはずである)。

私の生まれた年にK.M. 
Bakerが出版した本によると、社会科学」sciences socialesの表現使用例は、Dominique-Joseph Garatがコンドルセにあてた1791年の政治パンフレットの中に出てきたものが知られている一番古いものであるという。1792年にはコンドルセも使っている。ただし、誰の造語かは明らかでない。
Revue d'Histoire des Sciences Humaines n° 15, 2006/2の"Naissances de la science sociale (1750-1855)" 特集号でもその辺が覆されたようではないので、とりあえずこの認識で良さそうだ。この号の論文(無料で今はDL可)ではSciences de l'hommeとSciences humainesの歴史も扱われている(まだ全部読めてないのだけど、どちらかというと前者が中心で、後者の記述はあまりないような?)。

なお、再びBakerによるとsciences socialesは、英国ではしばらく根付かず、当地ではより伝統的な語彙、moral scienceと訳される傾向が強かったという。対して、アメリカ英語では19世紀初頭にsocial scienceの語が見いだせるようだ。

オチがないけれど、とりあえずメモ書き程度にこうして残しておく。
実はこれまで何度も「社会科学っていつからあるんだろう」という質問を日本語で聞いて、3回くらいこのBakerの話を引き合いに出してきた。そのたびに文献を読み直し、「もうちょっと色々読まなければ」と思って放置してきた。
そうなったのは主に私の怠惰ではあるけれど、もう一つ理由がある。日本語の世界では「社会科学」が認知されていない度合いが高い。
「科学技術」とか「イノベーション」とかはみんなすぐにわかるけど、「社会科学」は説明を要する。だから研究テーマとして掲げるにあたり、時間はあるが実績も信用のない状態であった院生の頃は躊躇ってしまった。また、その頃は欧米でもまだ研究が進んでおらず、駆け出しの研究者にはアプローチがしづらい状況もあった。
だが、ある程度の実績を積んで好きなことがやれる身分に近づいたら、今度は提案される仕事——それ自体はありがたいのだが——に忙殺されてしまった。結果として「社会科学の歴史」からは遠ざかっていた(「エコノミー」概念は多少やったが)。その間に、フランス語圏や英語圏ではどんどん研究が進んでいるのだった。この辺のこと、15年くらいあっさりと流れ去った時間のことを思うと、なんだか目眩がしてくる。

この疲労感は、しかもこの半年くらい、大学改革関連で、人文社会科学の有用性について議論がかまびすしかったという記憶により増幅されている(私も一回ブログでそれ関連のネタを書き、続編を書くといいながら時間がなくて放置しているが)。あの一連の議論について、今でも非常に不愉快なのは、「人社はいるのか」「これからは社会貢献などを指標に」などと論じる人が人社の歴史を知ろうと文献をひもといて調べようとするのではなく、情報を集めもせずに(英語は読めるのだろうに)、ただ直感的に何のためにあるんだ、必要なのか、という議論をしていたことだった。何かを変えようとするとき、その歴史を知ろうともせずに変更を迫れると考える人々がいるということが、私には今でも信じられない。

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