Windows 10で崩壊するModern UI
※下記はWindows 10のTechnical Preview版を元に書いたものです。製品版では変更になる可能性があります。
「フラットデザイン」の先駆けとなり、あらゆるシーンでUIデザインのトレンドを変えたModern UI。我々が愛したそんなModern UIは、Windows 10の登場で崩壊しつつあります。そしてその影響は特にWindows Phoneにおいて顕著です。
Windows 10のUIはコンセプトが見えてこない
最大の問題は、そのUIデザインのコンセプトが全く見えないことです。これまで築き上げてきたModern UIの統一感を捨て、中途半端に他OSのデザインを導入したせいで空中分解しています。
角丸のON/OFFスイッチやアカウント画像、あるいは細い輪郭線を使用したアイコン類など、いずれも他OSで採用されており、最近のトレンドとも言えるデザインですが、Modern UIのWindowsで採用する必要はあったのでしょうか。
現状のTechnical Previewを見る限り、これはもはやModernでもなんでもなく、ライブタイルのスタートスクリーンと流行のエレメントを適当に取り入れた、ただのフラットUIです。
特にWindows PhoneのUXに対する影響は甚大
Windows PCはそもそもベースがデスクトップUIであり、完全にModern UIに置き換えられていたわけではありません。Windows 10ではストアアプリのウィンドウ表示にも対応しているため、UIの変更が全体に与える影響もそこまで大きくはないでしょう。
問題はWindows Phoneの方で、こちらはもともと完全にModern UIベースなために、今回の変更による影響は深刻です。上述したような、これまでのものと全くマッチしていないUIエレメントもそうですが、特に影響が大きいのがナビゲーションでしょう。モバイル向けのWindows 10ではこれまでの左右スワイプによるナビゲーションを廃止し、ハンバーガメニューを本格的に採用しています。
このハンバーガーメニューはPC用のアプリや他OSとの互換性を見据えての導入のようですが、画面の左上にあるので、画面の大きい端末だと片手操作時に親指が届かず、とても操作しづらくなっています。
また、ハンバーガーメニューだけではなく、Outlookの操作ボタンや新ブラウザーSpartanの検索・URLバーも画面上部に配置されています。
元Microsoftのデザイナーが語る
元MicrosoftのデザイナーであるJon Bell氏が、ハンバーガーメニュー導入の経緯についてYoutubeで説明していました。
iOSとAndroidのUIでは、画面上部にナビ(戻るボタンなど)があるのに対し、Windows Phoneではスワイプによるナビゲーション(ピボット、パノラマ)が主体で、他プラットフォームと大きく異なっていました。
そこで、他OSからWindwos Phoneへのユーザーのスムーズな乗り換え、あるいはマルチプラットフォームアプリの開発のしやすさ、そしてPC版UIとの統一性を鑑みてハンバーガーメニューの採用に至ったそうです。
また、Jon Bell氏は以下のようにも話しています。全文はこちら
- スワイプナビゲーションでは全てのメニューが一度に見えない。また目的のコンテンツにたどり着くために何度もスワイプしなくてはいけない。
- 画面下部にハンバーガーを置くアイデアもあるが、それでは逆に手に近すぎて操作しづらい。
- ユーザーがアプリを使用している時の行動のほとんどは、読む、スクロールすると言った操作であり、メニューの操作は少ない。
全て実際のデータに基づいた判断であると言いますが、本当に統計を取ったのか定かではありません。僕はハンバーガメニューの現状の実装では操作しづらいと感じます。WMPowerUserでも話題です。
PC用アプリとのUIの統一を進めるにあたり、スマートフォンの操作性が大きく損なわれているのは残念です。今後もこの方針で行くなら、片手でも容易に操作できる方法を提供すべきです。もしくは最低でも、なぜAppleがiPhone 6 Plusで画面を下半分に下ろす機能を導入せざるを得なかったのか、Microsoftには考え直してもらいたいところです。
Microsoftはデザインポリシーを示すべき
僕はかねてから、Modern UIも進化すべきだと思っていました。Modern UIでフラットUIが流行りだしてから、様々なデザイナーがブラッシュアップを重ね、独自のフラットUI路線を作り上げてきました。そうして生まれたのがGoogleのマテリアルデザインであり、iOSの新UIです(後者は特に賛否があるとはいえ)。そんな中でModern UIには確かに少し古臭さがあったことは否めませんでした。そういう意味から、これまでの流れを継いだ良い進化を期待していたのですが、出てきたものは、互換性ばかりを重視し、他OSのデザインを中途半端に流用した非常にビミョーなフラットUIでした。
Microsoftはモバイル分野において他メーカーからシェアを奪う必要があり、同時にOSの統合という使命もあります。しかしながら、いくらそのためとはいえ、これまで築きあげてきたものを簡単に覆してしまって果たして良いのでしょうか。また、覆すのであれば、少なくともそのポリシーを明確にするべきでしょう。現状では「統合・統一性」のみが暴走し、素人がBootstrapで作ったウェブサイトのレベルでしかないと思います。リリースまで時間もなくなった今の段階でこのレベルでは正直不安です。
まもなくBuild 2015が開催されます。この新UIはユーザーにどんな利点をもたらすのか、そこにどんな思いが込められているのか、ただ単に「見た目や操作性を統合、統一しまーす。だからアプリはこうやって作ってね」だけではない、何らかのデザインポリシーが示されることを切に願います。さもなくば、「他がやってるからうちも」程度にしか見えず、新規ユーザーの獲得はおろか、既存のユーザーの支持すら得られないでしょう。