ダーウィンが来た!「多摩川に密着 大都会にアユの楽園!?」 2015.04.26


皆さんはじめまして。
今回から番組のナレーションを担当することになりました中山準之助です。
今日の舞台は私のいるここ多摩川です。
多摩川は長さ138キロ。
東京や神奈川など首都圏を流れ東京湾に注いでいます。
大都会の川でありながら60種類を超す魚が暮らす生きものの楽園なんです。
その象徴が「清流の女王」とも呼ばれるアユ。
ここ数年爆発的に数を増やし1,000万匹以上やってくる年もあります。
一方都会の川ならではの問題もあります。
釣り上げられたのは本来ロシアなどにすむチョウザメの仲間。
更にこちらは北米原産のアリゲーターガー。
多摩川にいるはずのない外国の魚が次々に見つかり南米のアマゾン川をもじって「タマゾン川」なんて呼ばれることも。
多摩川ってホントに豊かなの?1年間密着してその素顔に迫りました。

(テーマ音楽)満開の桜に彩られた多摩川です。
このころ春を告げる魚が現れます。
豪快なジャンプ!60センチほどのコイの仲間マルタです。
産卵のため海から川に上ってきたんです。
マルタたちは続々と上流を目指します。
河口から25キロほどの場所。
多くのマルタがこの辺りの浅瀬で産卵します。
やってきました。
あっという間に浅瀬はマルタでいっぱいになっていきます。
体が大きいのがメス。
その周りにいるのがオスです。
オスはメスと寄り添うように泳ぎ産卵を促します。
口を開け体を震わせました。
産卵の瞬間です。
メスが川底の砂利に卵を産み落とす瞬間を狙ってオスが受精させます。
卵は3日ほどでふ化します。
生まれた子どもはしばらく川で過ごし海へ向かいます。
昔からマルタの産卵は多摩川に春を告げる風物詩でした。
しかしその姿が多摩川から消えてしまった時代があります。
川面を埋め尽くす泡。
多摩川の汚れが深刻化していた1970年ごろの映像です。
経済成長とともに人口が急激に増え生活排水がそのまま川に流れ込んだんです。
多くの生きものが姿を消し「死の川」とまで呼ばれました。
その後生活排水をきれいにするため下水処理施設があちこちにつくられました。
川の汚れのもととなる有機物を取り除ききれいにした水を多摩川に戻しています。
水質が良くなるとともに姿を消していた生きものたちが次々に戻ってきました。
「死の川」多摩川は奇跡の復活を遂げたんです。
多摩川で復活した生きものの中でとりわけ注目を集める魚がいます。
「清流の女王」と呼ばれるアユです。
アユは川と海を行き来して過ごす魚です。
東京湾で育ち7センチほどになったアユの子どもたちが春川で成長するため上ってきます。
驚くのはその数。
90年代から増え始め近年急増。
多い年には1,000万匹を超えるほどになりました。
多摩川はいまや日本有数のアユの宝庫となったんです。
どうして大都会を流れる多摩川にこれほどアユが多いんでしょうか。
アユの足取りをたどりながら秘密を探っていきましょう。
ここは河口から13キロほど。
東京湾からやってきたアユが最初に出会う堰調布取水堰です。
こちらはこの堰で13年前に撮影された映像。
アユが必死のジャンプで堰を越えようとしています。
でも越えられずに力尽きるものも少なくありませんでした。
10年前転機が訪れます。
春の一時期だけアユのために堰を開けるようになったんです。
その結果多くのアユたちが上流へと進めるようになりました。
アユの行く手には更に7つの堰が待ち構えていますがそれぞれに工夫があります。
河口からおよそ22キロのこちらの堰では魚の通り道「魚道」が作られています。
効果のほどはご覧のとおり。
アユは更に上流を目指します。
河口から45キロほどの日野用水堰です。
アユを助けるため数年前から人の手で地道な努力が行われています。
堰の段差に土のうを積み上げていきます。
緩やかな流れを作ることで魚道以外の場所でもアユが上れるようにしているんです。
結果は上々。
アユがどんどん上っていきます。
こうして人の手助けのおかげで多くのアユがより上流まで上れるようになりました。
これが多摩川にアユが増えた1つの理由なんです。
アユがぐんぐん成長する季節です。
体長は15センチほど。
春の倍ほどの大きさになりました。
しきりに石をつついています。
アユの主食は石に付いた藻です。
食事をした後には不思議な模様が残ります。
どうやって食べているんでしょう?歯がヤスリのようにギザギザになっています。
この歯で藻を削り取って食べるんです。
多摩川が多くのアユを育むことができる2つ目の理由それは食べ物にあります。
日本各地の川を訪ねアユの生態を30年余り研究してきた高橋勇夫さんです。
高橋さんは大都会の川でありながら日本有数のアユの宝庫である多摩川に注目しています。
驚いたのはアユの食べ物となる藻の量でした。
アユが好む藻がこれほど多い川は他にないと言います。
秘密は藻の成長の早さ。
試しに多摩川の川底にタイルを置いてみたところ…。
10日間で藻がびっしりと生えています。
同じことを山あいを流れる清流でも試してみました。
結果はこのとおり。
清流ではほとんど藻は生えていません。
秘密は川の水にあります。
思い出して下さい。
多摩川の水は下水処理施設のおかげできれいになりましたよね。
でも下水処理水には生活排水から取り除ききれなかった窒素やリンが多く含まれています。
これが栄養となって藻が早く成長するんです。
多摩川を流れる水はなんとその6割が下水処理水。
たくさんのアユがすめる理由は意外にも人の暮らしそのものにもあったんです。
さらに高橋さんはアユ自身が習性を変えたことにもアユの宝庫となった秘密があると言います。
アユには本来食べ物を独占しようと縄張りを持つ性質があります。
こちらは山あいの清流で暮らすアユたち。
この1匹にご注目。
侵入者が現れると…追いかけ始めました。
縄張りの広さは直径1メートルほど。
1匹のアユが暮らすには広いスペースが必要なんです。
ところが多摩川ではずいぶん密集していますね。
食べ物が多く争っても意味がないので縄張りを持たないものが多くなったんです。
その結果高い密度で暮らせるようになったといいます。
暮らしぶりを柔軟に変え爆発的に増えた多摩川のアユたち。
いまや川の自然を維持するために欠かせない存在です。
多摩川ではほうっておくと増えた藻が腐り水が汚れてしまいます。
でもアユたちが大量の藻を食べてくれるおかげできれいな環境が保たれているんです。
さらにアユがいることでそれを食べる多くの生きものたちが集まってきます。
人の影響を色濃く受けながら豊かな自然を取り戻した多摩川。
アユはその独特な自然を映し出す鏡のような生きものなんです。
第2章では驚きの魚が出現!次々と現れる外国産の魚たち。
一体何が起きているのか?「タマゾン川」の実態に迫ります。
都会の真ん中を流れる多摩川。
昔から人々の生活に欠かせない川でした。
川面に並んでいるのは砂利を運ぶ舟。
大正時代多摩川では砂利の採掘が盛んでした。
戦後はコンクリートの材料として需要が高まり大量の砂利が都心へと運ばれました。
多摩川は東京の発展を支えてきたんです。
こちらは昭和40年代の映像。
当時多摩川は都会で暮らす人々の憩いの場でした。
汚染が深刻化する前まではこうした光景が各地で見られたといいます。
「死の川」から復活を遂げた多摩川。
いまや「日本一人が集まる川」とも言われます。
人と多摩川。
これからもいい関係でいたいですね。
都会ならではの環境が生み出したアユの宝庫多摩川。
最近ある問題が起きています。
釣り人から「見たことがない奇妙な魚を釣り上げた」という連絡が入りました。
ロシアなどに生息するチョウザメの仲間です。
発見現場の近くで見つかった小石の山。
これは観賞魚を飼うための水槽の石。
今多摩川では飼いきれなくなった魚を川に放す人が後を絶たないんです。
そのため多摩川は南米のアマゾン川をもじって「タマゾン川」とも呼ばれます。
これまでに見つかった外来魚は200種を超えるといいます。
外来魚がよく目撃されているのは堰の下のよどみなど流れの少ない場所です。
一体どんな魚がいるのか?魚に警戒されないようロボットカメラを使って調べてみることにしました。
現れたのはブラックバスの仲間コクチバスです。
大きさは45センチほど。
本来北米の川に暮らす魚です。
コクチバスはどう猛な肉食魚。
釣り人によって放されたのではないかと考えられています。
フナの群れの中から悠然と現れた見慣れない魚。
ワニのように長い口が特徴のアリゲーターガーです。
アリゲーターガーも北米原産の肉食魚。
成長すると最大で4メートル近くにもなります。
こちらはユーラシア大陸などから持ち込まれたタイワンドジョウの仲間。
ヘビのような顔から英語でスネークヘッドと呼ばれる肉食の魚です。
川底にじっと潜み獲物を待ち受けて襲いかかります。
獲物となるのはアユなど多摩川の魚たちです。
外来魚にとってアユの宝庫多摩川は暮らしやすい場所なのかもしれません。
人々の努力で復活を遂げた多摩川。
今人の身勝手が新たな問題を生み出しています。
ちょっと待った!あっヒゲじい。
はじめまして。
私中山と申します。
よろしくお願いします。
あ〜こちらこそ。
早速ですが中山さん。
はい。
このままだとせっかく復活したアユがいなくなっちゃうんじゃないですか?確かに。
でも放された外来魚の全てが川に定着するわけじゃございません。
そうなの?はい。
多摩川で見つかっている外来魚の多くは流れや寒さに弱いため長くは生きられないようなんです。
ほう。
でもよどみでなら暮らしていけるんじゃないですかね。
そうはいきません。
梅雨や台風の時期には大雨で川は増水します。
たくさんの外来魚が見つかったよどみだってこのとおり。
ふ〜んうわ!ものすごい流れですな。
でしょ?外来魚の多くは流されてしまい定着しないそうなんです。
そうなんだ。
ちょっと安心しました。
でもヒゲじい。
安心するのはまだ早いんですよ。
今回の取材でとんでもない魚が見つかったんです。
とんでもない魚?こちらご覧頂きましょう。
うん?この小魚は?はい実はこの魚生まれたばかりのコクチバス。
子どもが見つかるということはコクチバスが多摩川で子孫を残し定着してしまっているという証拠なんです。
え〜っ!そうなの?このままコクチバスの数が増えれば多摩川のアユに大きなダメージを与える可能性もあるといいます。
あ〜そりゃ心配ですなぁ。
ですよねぇ。
そしてもう一つ心配なのが多摩川の水温の上昇です。
これは冬の水温なんですが年々上昇しているんです。
あホントだ。
原因は主に家庭から出る生活排水。
お湯を使う量が増えているためだと考えられています。
このまま水温が上がるとこれまで冬を越せなかった外来魚が定着してしまう可能性もあるといいます。
あららららら〜。
う〜ん多摩川の魚たちはきっとこう言ってますぞ。
「もうタマらん」ってね。
皆さん飼っている魚は絶対放しちゃ駄目ですぞ。
河口から25キロほどの中流です。
川の中でアユの群れを見つけました。
夏の間豊富な藻を食べて成長したアユたち。
大きくなりましたねぇ。
この時期産卵のために集団で下流を目指します。
そんなアユの群れの前に大きな試練が立ちはだかります。
鳥たちです。
大群で川を下るアユは鳥にとっては格好の獲物。
この時期多摩川のあちこちでこうした光景が見られます。
群れの中にはケガをしているものもいます。
鳥の攻撃を必死にかいくぐってきたのかもしれません。
アユの生涯はわずか1年。
最後の力を振り絞って産卵場所を目指します。
本来いるはずのない魚が次々と見つかる多摩川。
川の環境を守るため全国でもユニークな取り組みを行っている人がいます。
漁協で外来魚問題に取り組んできた山崎充哲さんです。
10年ほど前から始めたのが飼いきれなくなった魚を引き取る「おさかなポスト」。
持ち込まれる魚は1年間に数千匹にもなります。
この日はグッピーやエンゼルフィッシュなどの熱帯魚が持ち込まれていました。
「おさかなポスト」に持ち込まれた魚の多くは付近の学校などに寄付されます。
山崎さんが新しい飼い主にお願いすることはただ1つ。
それは責任を持って最後まで飼うこと。
豊かな自然を子どもたちに残したいと願う山崎さん。
魚を無責任に川に放す人がいなくなればいいですね。
河口から18キロほどの浅瀬です。
夜の川にたくさんのアユが集まっていました。
体の色が黒いのはオス。
繁殖の準備が整った証拠です。
こちらはメス。
産卵に適した場所を探しているようです。
夜に産卵するのは天敵の鳥の目を避けるためと考えられています。
川底のあちこちで産卵が始まりました。
メスが卵を産み付ける瞬間オスたちが群がり受精させます。
川底の石に産み付けられた直径1ミリほどの小さな卵。
卵には粘着力があり流されてしまうことはありません。
メスは1週間ほどかけておよそ20万個もの卵を産み落とします。
ある日浅瀬に横たわる1匹のアユを見つけました。
卵に命を託し1年という短い一生を終えたのです。
力尽きたアユたちは多摩川に暮らす鳥たちの糧となります。
産卵から10日後。
川底では卵が元気に育っていました。
必死に卵から出ようとする小さな命。
川の流れに乗って海を目指します。
そして春になると再び多摩川に戻ってくるのです。
大都会を流れる多摩川。
豊かな自然がよみがえった一方で外来魚という新たな問題にも直面していました。
多摩川はこれからどうなっていくのか?それは私たち次第なのです。
2015/04/26(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「多摩川に密着 大都会にアユの楽園!?」[字]

東京や神奈川など大都会を流れる多摩川。“清流の女王”アユが1千万匹も遡上する一方、本来いるはずのない外来魚も続々発見される。1年間密着し、都会の川の素顔に迫る。

詳細情報
番組内容
東京や神奈川など大都会を流れる多摩川。高度経済成長期には汚染が進み「死の川」とまで呼ばれたが、水質改善とともに魚たちが戻ってきた。復活した自然の象徴が“清流の女王”アユ。近年急激に増え、多い年には1千万匹が遡上する。だが一方でコクチバスやアリゲーターガーなど外国産の魚が続々と見つかり、生態系への影響が心配されている。多摩川ってホントに豊かなの?アユを中心に1年間密着し、その実態に迫る。歌:平原綾香
出演者
【語り】龍田直樹,豊嶋真千子,中山準之助

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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